第11話 冒険者ギルド

 アレクさんに朝食を奢って(?)もらった俺達は、アレクさんの案内で冒険者ギルドという場所に向かっている。……のだが、なんだかやけにアリアとリリーの目が鋭い気がする。歩く順番も森と同じで前にアリア、後ろにリリーだ。

 何をそんなに警戒しているのかわからないが…。

 まぁいい、そんなことよりこの町並みだ。朝も早くから人々が忙しなく働いている上に、屋台もいくつか出ていて、それなりに活気がある。


 街の雰囲気を楽しみながら歩いていると、目的地が見えてきたようでアレクさんが教えてくれた。

 「ほら、あそこに見える大きな建物がガルドの冒険者ギルドだよ」

 アレクさんが指を差した方向を見ると、2階建ての横に長い建物が見える。俺達が泊まった翡翠の泉亭よりも高さは無いが、横の長さは倍くらいある。

 というか、この街はガルドって言うんだな。


 「なんだか平べったい建物ですね」

 「冒険者向けの食堂や解体場なんかも併設されているから、どうしても横に長くなってしまうそうだよ」

 冒険者というのがどういう職業かはわからないが、聞くところによれば狩りなんかをする職業なのかな?





 アレクさんが扉を開けて中へ入っていくので、俺達も続いて中に入る。

 1階はエントランスと食堂を兼ねているようで、テーブルと椅子がいくつも置いてある。当然俺達以外にも人がいるんだが…


 「うお…すげーいい女」

 「なんだ?アレクのやつが女でも引っ掛けてきたのか?」

 「神官っぽい方もいいが騎士の方も捨てがたいな…、気の強そうな感じがたまんねぇ」

 「俺は真ん中の小さい女の子がいいな…」


 エントランスに入った途端、いくつもの視線がこちらに向いたと思うと、あちこちから不穏な声が聞こえてくる。

 その視線を遮るように、アリアとリリーが前に出て俺を隠してくれた。


 「チッ…無礼者共が…」

 地を這うような声にびっくりしてアリアの方に目を向けるが、アリアはニッコリと笑顔を返してきた。

 「大丈夫ですよ、スズ様。指一本足りとも触れさせませんから」

 「あ、ありがとう…」

 宿を出てからやけに警戒してたのはこのためか…?



 「あはは、すまないね。早いところギルマスのところへ行こうか」

 アレクさんが気まずそうに頭の後ろを掻くと、足早に進みだした。

 エントランスを横切るように進んで2階に上がると、アレクさんが一つのドアの前で立ち止まった。

 「ギルマス、スズさん達を連れてきました」

 アレクさんが、2回ほどノックしてから呼びかける。


 「おう、来たか。入ってもらってくれ」

 「失礼します」

 野太い声の返事を聞いてから、アレクさんがドアを開けた。




 「よく来てくれた。俺はここのギルドマスターをやってるグレンだ、よろしくな」

 筋骨隆々、スキンヘッド、額から右目の下にかけて伸びた3本線の傷。

 小さな子どもが見たら泣き出しそうなほど厳つい男が、執務用らしき机から立って出迎えてくれた。


 こ、怖~!顔が厳つすぎる!

 「ど、どうも…スズと言います。こっちがアリアで、こっちがリリー」

 内心ビクビクしながらも、なんとか自己紹介を済ませた。


 「はは、すまないな、怖がらせたみたいで。この顔のせいで子供によく泣かれるんだよ。まぁそこに座ってくれ、聞きたいことが山程あるんだ」

 グレンさんに促されるまま、部屋の真ん中にあるソファに腰掛けると、俺を挟むように右にリリー、左にアリアが座った。


 「大丈夫ですよ。私達がついておりますから」

 安心させるように、そっとリリーが耳元で囁いてきたので、そちらを見て軽く頷きを返す。


 ソファはテーブルを挟むように置いてあり、俺の向かい側にグレンさんとアレクさんが座ると、早速といった様子で話を切り出してきた。


 「早速で悪いんだが、君たちのことを教えて欲しい。森で何があった?」

 やっぱり話さないわけにはいかないか…。

 俺は意を決して、森で目が覚めてからのことをグレンさんに一から話すことにした。ゲームの世界から来た、ということ以外は。





「なるほどな…、突然森で目覚め、彷徨っていたら山羊頭に襲われ、そしてアレクたちと会ったと…。さっっっぱりわからん!そもそも飛ばされる前はどこに居たんだ?随分身なりがいいが、どこかのご令嬢だったりするのか?」

 グレンさんが腕を組んで首をひねりながら、困惑の表情を見せる。

 まぁ当然の反応だよな…、アレクさん達もそうだったし。

 それにしても、どこから来た、か。う~ん、どう答えたものか…。


 「過度な詮索はやめて頂きたい」

 俺が答えに窮しているのを見かねて、アリアが助け舟を出してくれたみたいだ。


 「あ、あぁすまない。実を言うと君たちをここに呼んだのは事情を聞くためじゃなくてな。森の中で山羊頭の化け物を倒したと言ってたろ?そいつが持っていたペンダントを見せて欲しいんだ」


 助かった、これ以上は聞いてこないみたいだ。それとペンダント?アレクさんもやたらこれを気にしてたよな。

 どうやらこのペンダントには何か事情がありそうだ。


 「はい、これですよね?」


 俺がインベントリからペンダントを取り出してグレンさんに手渡すと、グレンさんはまた驚いた様子でペンダントを受け取り、まじまじと観察しだした。


 「間違いない…、本物だな…。君たちを呼んだのはこのペンダントのためなんだ。ものは相談なんだが、これを譲って欲しい。もちろんタダでとは言わない、それなりの見返りは出すつもりだ。どうだろう、譲ってくれないか」


 どうせ拾ったものだし、俺としてもあの山羊頭が持っていたということで、あまり持っていたくはない。あ、でも一応アリアとリリーにも聞いておこう。

 2人に確認を取ると、快く了承してくれた。


 「いいですよ」

 「そうか!それは有り難い!それで、肝心の見返りなんだが…、何か希望はあるか?ある程度のことなら叶えられると思うぞ」


 見返りか…、正直なところこの世界に来てからまだ日が浅すぎるせいで、欲しいものと言われても困るのだ。アリアとリリーにも聞いてみたが、好きにしていいと言われてしまった。う~ん、どうしたものか…。


 「決まらないなら保留にするというのはどうだい?」

 俺がうんうん悩んでいると、アレクさんがある提案をしてくれた。

 要するに、今決めずとも一旦見返りは保留にして、後で欲しいものが出てき次第頼んだら?ということらしい。

 名案じゃないか!それで行こう!


 「じゃあ…保留でいいですか?」

 「む…、わかった。受付には話を通しておくから、決まり次第またギルドに来てくれ。ペンダントはもらったままでいいよな?それと、この件は他言無用で頼む」

 「ペンダントは差し上げます。他言無用の件も、わかりました」

 面倒なことになりそうだし、さっさと手放すに限る。お口にもチャックだ。

 一瞬渋そうな顔をしたグレンさんだったが、保留することを了承してくれた。

 まぁ一種の借りを作るようなものだし、渋りたくもなるよな。

 でも、このチャンスをものにしないわけにはいかない、じっくり考えてから見返りを決めよう。


 「よしっ、ならこの話はここでおしまいだ。朝早くから悪かったな、ペンダントの件は助かった。帰り方はわかるか?」

 「はい、大丈夫です。あ、それともう一つ良いですか?」

 「ん、なんだ?見返りの件じゃないんだよな?」

 「金を換金してくれる場所ってありますか?今お金を持っていないので、換金したいんですが…」

 「換金?それならギルドでもやってるぞ。どれ、見せてみろ。はかりならここにもあるから換金してやる」


 おお、それは好都合だ。お言葉に甘えて換金してもらおう。

 インベントリからゲームで使っていた金貨を一枚取り出してグレンさんに渡す。


 「なんだこの金貨?見たことも無いな。綺麗に鋳造されてるし、それにデカいな」

 グレンさんは秤の片方に金貨を載せると、もう片方にこの国の通貨であろう金貨を2枚載せた。


 「見立て通り金貨2枚分だから20万ってとこだな。今鑑定書を書くからそれを受付に持っていけば換金してくれるぞ」


 20万!アレクさんの見立ても間違ってなかったみたいだ。これでしばらくはお金に困ることは無いな。

 秤が釣り合ったのを確認したグレンさんは、何やら紙に書き込んでこちらに手渡してきた。これが鑑定書なのだろう。


 「ありがとうございます。助かります」


 それから俺達は、グレンさんとアレクさんに別れを告げて部屋を後にした。アレクさんはグレンさんとまだ話すことがあるらしく、帰りは俺達だけだ。


 受付で鑑定書を換金する時にも不躾な視線が纏わりついてきたので、またアリアとリリーが壁になってくれた。

 壁になってくれるのは嬉しいが、俺よりも2人の方が視線を集めてないか?

 まぁ俺が気合を入れてキャラクリした自信作だし、注目されるのは当然っちゃ当然だが…こういうのはあまり気分が良くないな。




 「スズ様、今日はどうされますか?宿に戻ってもう一度お休みされます?」

 ギルドを後にするとリリーが今日の予定を聞いてくるが、実はもう決めてある。

 「いや、今日は街を散策しようと思う」

 そう、街の散策だ。ギルドに行くまでの道中でこの街を見てから散策してみたいと思っていたんだ。

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