第10話 変身と通貨

 外から鳥の声が聞こえてくる、この世界でもそういうのは変わらないんだな…。

 昨日どうしたんだっけ…?あぁそうだ、アレクさん達に会ってから宿に泊まったんだ。それでベッドに飛び込んだまま寝ちゃったんだったな…。


 「んあ…ん?」

 体が動かないぞ、まさか金縛りか?おいおい縁起でもないな。

 なんとか目だけでも開けられないか試してみると、なんとかいけそうだ。首も動かせる。

 体の左側に違和感があるので、首を捻ってそちらを見る。

 え、アリアか?なんで俺のベッドにいるんだ?3人分あったはずだよな?あとなんで下着姿?というか、この金縛りはどうやらアリアが原因らしい。抱き枕のように俺を左側から抱きしめて拘束している。


 「おーい、アリア起きろ。お前のベッドはあっちだぞ」

 腕ごと拘束されているため、体全体を揺らして起こそうとする。


 「んー、スズ様ぁ…」

 「ちょっ…!」

 俺の声が聞こえていないのか、アリアがより力を込めて抱きしめてくる。

 あの時と違って鎧を着けてないから、柔らかいものが顔にグイグイ当たるのが落ち着かん…!


 「アリア!おいアリア!」

 俺が大声を出すと、アリアは体をもぞもぞと動かしてやっと目を覚ました。


 「あ、スズ様、おはようございます」

 「おはようアリア、とりあえず苦しいから放してくれるか」

 「わっ、申し訳ありませんスズ様!」

 自分のしている行動に気付いたのか、アリアは素早く腕を緩めてくれる。


 「疲れて寝ぼけていたんだろう。今度からはちゃんと自分のベッドで寝るんだぞ」

 やっとのことで体を起こしてから、軽く伸びをする。

 「いやーそれにしてもよく寝たな。寝るならやっぱり布団かベッドじゃなきゃな」

 森の冷たい地べたとは、もうおさらばだ。


 「おはようございますスズ様」

 俺とアリアが騒いでいたからか、リリーも起きてきたようだ。

 「おはようリリー。すまないな、起こしちゃったみたいで」

 「いえ、私もよく眠れたので問題ありませんよ」


 「そうか、それなら良かった」

 「今日は朝早くから迎えが来るそうですからね、早めに準備しておきませんと」


 そういえばそうだったな。今日は朝一でアレクさんが宿に迎えに来てくれるんだった。早く準備しないと、とは言っても準備することはあんまり無いんだよな。荷物は全部インベントリに入ってるし、服もそのままだ。

 あれ、今気づいたがこの着てる服ってここに着てから一度も着替えてないよな?その割になんかキレイだし…もしかして、これも空間のインベントリと同じような不思議パワーなのか?

 まぁいいか、今考えても仕方ない。


 「俺は大丈夫だが、2人の準備は大丈夫か?」

 「あ、少し待って下さい。今着替えますから」

 下着姿のアリアが軽く目を閉じると、瞬く間にアリアの装備品である赤い鎧がアリアに装備されていく。

 え!?なにそれ!?そんなこと出来たの!?

 「ア、アリア…今のはなんだ?」

 「今の…というと…?」

 「その一瞬で装備したやつだよ!そんなのあるなら教えてくれれば良かったのに」

 そんな不思議パワーがあるなら俺だって頻繁に着替えたのに!


 「申し訳ありませんスズ様。ですが、隠していたわけでは無いんです。俺が昨夜寝ようとした時に鎧が邪魔だから脱ごうとしたんですが、その時偶然この装備方法が発現したんです。その後軽く検証したところ、このように脱着出来ることがわかったんです」

 だからって下着姿で寝ることは無いだろうけど…。まぁいい、俺もやりたいぞそれ!まるで仮◯ライダーの変身じゃないか!





 その後、アレクさんが迎えに来るまで装備の脱着を試してみたが、どうやらこの能力は従者サーヴァントにしか出来ないらしいことがわかり、俺はすっかり項垂れてしまうのだった。


 「随分落ち込んでいるようだけど、あまり寝れなかった?」

 「あ、いえぐっすり眠れましたよ。やっぱりベッドって良いもんですね」

 アレクさんが、項垂れている俺を心配してくれているのが申し訳ない。


 「それならいいんだけど…。そうだ、朝食は食べたかい?ここの宿は飯が美味いんだよ。ミアさんの作る料理が絶品なんだ」

 「そうなんですか?是非食べてみたいですけど…その、お金が…」

 昨日はすっかり忘れていたが、こっちの世界に来てからお金というものを見ていない。正確には、遠目で見るだけでどのような通貨が使われているかがわからないのだ。

 インベントリの中にはゲーム内通貨が約1億ゴールド程度入っているが、この世界で使えるかは不明だし、まず間違いなく使えないだろう。

 いっそアレクさんに聞いてみるか。


 「アレクさん、このお金ってこの国で使えますかね?」

 インベントリから金貨を一枚取り出して、アレクさんに手渡す。


 「うん?これ金貨かい!?…う~ん、ちょっとこういう金貨は見たことは無いかな…。俺としても他国の金貨をそれほど見たことが無いから、確かなことは言えないけどね。それにしても綺麗に鋳造されてるなぁ」

 アレクさんが、手渡した金貨をまじまじと見つめてそう言った。

 やっぱりダメか…。


 「でも、これが本当に金貨ならそれなりの価値はあると思うよ。少なくとも金ではあるわけだしね。それかコレクターに売るとかかな、こういうコインを集めてる蒐集家がたまにいるんだ」


 お、それは良いことを聞いたな。売れるなら少しずつ売ってお金に替えていこう。


 「それなら良かったです。ちなみに、これ一枚でいくら位になるかわかりますか?」

 「金の相場にはあまり詳しくはないけど…、これ一枚なら20万シェルは下らないだろうね」


 20万…!この世界の物価がどの程度かわからないが、結構いい値段な気がするぞ。


 「ちなみに、私達が泊まった宿って1泊いくらだったんですか?」

これでめちゃくちゃ高かったら、アレクさんにすごい借りを作ることになってしまうが…。


 「ここかい?3人部屋は…確か1万シェルくらいだったかな」

 「3万シェルだよ!そんな安いわけあるもんか!1万シェルはいつもアンタが泊まってる一人部屋の値段だよ、まったく!」

 ヘルガさんが奥の方から大声を出して、アレクさんに怒っている。

 一泊3万か、それなら金貨1枚売るだけでもかなり余裕が出来そうだな。


 「それで、どうするんだい?食べてくのかい?」

 ヘルガさんは怒っていたが、結局アレクさんのツケでオススメの朝食を食べることになった。人が良いんだなぁヘルガさん。それに、アレクさんは一体どれだけツケにしてるんだろう…聞くのも怖いな…。


 そして朝食を食べ終わった俺達は、ついに冒険者ギルドと呼ばれる建物へ向かうことになった。


 あ、朝食はすごく美味しかったです。














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すみません、次こそはちゃんと冒険者ギルドに行きます。

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