第9話 冒険者side 従者side

 スズ達を宿に案内したアレクは、そのままの足で冒険者ギルドへ向かった。

 「お…アレクさんだぜ」

 「他の3人もさっき来てたよな?森で何かあったのか?」

 アレクがギルドの中へ入ると、他の冒険者の視線がアレクへ向き、ひそひそと話し込んでいる。


 煩わしい視線を無視してアレクが受付の女性に声を掛ける

 「すまない、ギルマスに会いに来たんだが」

 「あ、アレクさん、ちょっと待って下さいね。シルビアさーん!」

 シルビアと呼ばれた女性が受付の奥から出てくると、アレクを2階へと案内する。

 

 「ギルマス、アレクさんが戻られました」

 2回ほど扉をノックして、シルビアがギルマスに呼びかける。

 

 「おうやっときたか、入ってくれ」

 聞き慣れた野太い声が返ってきたのを確認してから扉を開けて中に入る。

 「それでは私はここで」

 「あぁ、ありがとう」

 部屋の中に入ると、アレク以外のパーティーメンバー3人と冒険者ギルドのギルドマスターであるグレンが机を囲んで座っていた。


 「すみません、森で会った3人を宿に案内していて遅れました」

 「そのことならこの3人から話を聞いてる。粗方のことは3人から聞いたが、やはりお前の口から直接聞きたい。お前たちが会ったっていうその3人は本当に信用出来るのか?」

 いくら信頼の置けるA級パーティー竜剣の言うこととはいえ、ギルドマスターとして確かめねばならなかった。

 この依頼はそんじゃそこらの依頼とは理由わけが違うのだ。

 グレンが念を押すようにアレクに聞く。


 「秘匿されていたペンダントを持っていましたし、一度よく見せてもらいましたが例の紋章も確認出来ました。まず、間違いないでしょう」

 「ペンダントに紋章か…、確かに疑う余地は無いかもしれん…。それ以外に何かあるか?少女と女騎士と聖職者だったな?」

 『紋章』その言葉を聞いてグレンは、この話の信憑性が高いことを確信したが、それと同時に、森で会ったという3人についての興味が増した。


 「小さな女の子、スズっていうんですが、その後ろに控えている女騎士は相当強いと思いますね。俺でも勝てるかどうか…」


 「そんなにか?A級のお前でも?」

 グレンが驚いたように声を上げる。

 A級の剣士であるアレクを持ってしても勝てないというのだ。そんな剣士がなぜ、この件に関しての疑問が尽きない。


 「それだけじゃないわよ、あの聖職者もヤバいわ。見た?あの杖、只者じゃないわ。それを従えてるスズって女の子もね」

 「それにものすごい美人でしたよ!スズちゃんも可愛かったですし!」

 「それは今関係無いでしょう!」

 ミアがロシューの頭を叩く。

 「いやいや!この街に入ってから道行く男がみんな振り向いてたじゃないですか!あの門番なんて鼻の下伸ばしちゃって!」


 「美人ってのは俺としても気になるが…。そのスズって少女はなんなんだ?そんな実力者2人も従えてるってことはどっかのご令嬢か?」

 グレンも男として気にならないわけではないが、話の軌道を元に戻す。


 「言葉遣いもしっかりしていましたし、それなりの教育を受けていることは確かです。」

 出会った時のことと宿屋でのやり取りを見て、アレクはそう評した。

 「う~ん…、黙って森に行ったお転婆娘が森で迷ったのを隠している。ってとこか?」

 やんちゃなご令嬢が親に黙って…、なんて案外よく聞く話だ。この件もそういうたぐいの話かとグレンは考えるが、ミアが反論する。


 「でもご令嬢があんな短いスカート履くかしら?それに、悪魔を倒したって言ってるのよ。そんな実力のある冒険者なり護衛がいたら、どこからか話が流れてくるものでしょ」

 「考えれば考えるほどわからんな、やはり直接話を聞くしかないか。その辺はどうなってる?」

 グレンは考えるのを諦めて、アレクに話を振る。

 「明日の朝一に宿へ迎えに行くことになっています」

 「そうか、なら今日はもいいぞ。ご苦労だったな、ゆっくり休んでくれ」


 グレンが話を終わらせると、竜剣の4人が部屋から出ていく。

 「さてな…、鬼が出るか蛇が出るか。明日が楽しみだ」




━━━━━━━━━━━━


 「寝てしまいましたね」

 「そうだな、やはり無理をされていたんだろう」

 アリアがベッドに飛び込んだままの不安定な姿勢で眠っているスズの姿勢を整えて、毛布をかける。


 「それで…、どうする。見たか?周りの男がスズ様に向ける視線を」

 街に入ってからのことだ。最初に会った門番、すれ違う男、皆が皆不埒な視線をスズに向けていたことに、アリアは憤っていた。

 

 「それに関しては私も懸念しています。森にいた時よりも警戒しなければならないでしょうね」

 憤っていたのは何もアリアだけではない、リリーもこの街に入ってから向けられる視線を感じ取っていた。


 「明日また朝早くから出かけることになる。視線を向けるだけじゃなく、行動に移す無礼者もいないとは言い切れん。より気を引き締めていくぞ」

 「ええ、わかってるわ。それで、どうするの?このベッドに流石に3人は寝れないわよ」

  リリーが当然のようにスズとの同衾を仄めかし、アリアを牽制する。


 「やはりお前も同じことを考えていたか、ならば白黒つけないとな」

 「フフ、望むところよ」

 「「ジャンケン…!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る