辺境伯領都ガルド

第8話 不法入領?

 「おー、あれが街の入り口ですか?」

 「そうだよ、あの関所を通って中に入るんだ」

 俺が城壁の方を指さして質問すると、アレクさんが答えてくれた。

 どうやらあの大きい門が関所になっているらしい。

 ん…?


 「あの、関所ってことは何か調べられるんでしょうか?身分証みたいなものも持ってないんですが…」

 「あぁそれなら大丈夫だよ。俺達が通るのはあそこじゃなくて貴族用の門だからね」

 え、貴族?この世界って貴族がいるのか。

 「アレクさんって貴族だったんですか?」

 「違う違う、依頼を受けてるって言ったろ?その依頼主が実質貴族みたいなもんなんだ」

 「そうだったんですね…」



 「ちょっとアレク、本当にいいの?そんな不法入領みたいな真似して」

 「仕方ないだろ。このままじゃスズさん達は門を通れないかもしれないんだ」

 あ…、やっぱりそういうことなのね…。


 門に並んでいる人達を横目に、貴族用の門とやらに近付くと、門番らしき男が話しかけてきた。


 「何用だ。ここは貴族用だぞ」

 「とりあえずこれを見てもらえますか」

 アレクさんが門番に一枚の紙を見せる。


 「なるほど、そういうことならいいだろう。そっちの3人もなのか?どう見ても別のパーティーのようだが」

 門番がこちらを訝しげに見てくる。

 「実はこの3人が重要な手掛かりを掴んでいるらしいので、一時的に戻ってきたんです」

 「信用出来るのか?」

 「はい」

 「う~ん…、まぁギルドマスターのお墨付きということで今回は見逃してやる」

 「ありがとうございます」

 アレクさんがうまいこと交渉出来たようで、門を通れるらしい。


 「さ、行こう」

 「すみません…、なんか無理を言ったみたいで…」

 「いやいいんだ、こっちも聞きたいことがあるしね。言い忘れてたんだが、今からギルマスに会ってくれないか?化け物のことや、君が持っている物について話して欲しい」

 ペンダントと直接言わないのはそのことを隠してるからだろうか?秘匿されてるって言ってたしな。


 「いいで「ダメだ」

 アリアが俺の言葉を遮るようにアレクさんの頼みを断る。

 「スズ様は長い間森を彷徨って疲れている。一度宿かどこかで休息を取るのが優先だ」

 俺を気遣ってくれるのは嬉しいが今じゃなくていいだろう!

 「大丈夫ですよ!ほら、会いに行きましょう」

 「いや、確かにもう少し気を遣うべきだったな。宿を紹介するから今日はそこに泊まってくれ、宿代は情報料としてこちらから出しておこう。ギルマスへはミア達が伝えてくれないか」

 「はぁ…しょうがないわね…」

 「スズちゃんまたねー!」

 ミアさん達3人が分かれて、ギルマスという人物に俺達のことを伝えに行くようだ。


 「なにかと本当にありがとうございます。明日は朝一でそのギルマスさんとやらに会おうと思います」

 「そうしてくれると助かる、じゃあ早速宿に案内しよう」

 アレクさんが懇意にしている宿があるそうで、そこに案内してくれることになった。




 しばらく街の中を歩くと、宿の前に着いたようでアレクさんが立ち止まった。

 3階建ての結構大きな宿で、建物の上の方には翡翠の泉亭と書かれている。

 「ここの宿だ」

 アレクさんがさっさと扉を開けると中へ入っていってしまった。遅れないように俺達もアレクさんの後へ続く。

 中に入ると1階は食堂のようで、テーブルが並べられていた。


 「おーい!ヘルガさんちょっといいかー?」

 「はいはい!あぁアレク!依頼で森に行ったんじゃなかったのかい?」

 アレクさんが声をかけると奥の方から肝っ玉母ちゃんのような恰幅の良い女の人が出てきた。この人がヘルガさんか。


 「そのことなんだがな」

 「あらーっ何この別嬪さん達は!いつの間に捕まえてきたの!うちの娘にいつまでも手を出さないと思ってたけど、そういうことだったのかい?」

 「違う!勘違いしないでくれ!この3人とは森で会ったんだ」

 「森って、あの森でかい?珍しいこともあるもんだね」

 ヘルガさんが興味津々と言った感じで、こっちを見てくる。


 「あ、えっとスズといいます。こっちがリリーで、こっちがアリア。今日はアレクさんのご厚意でこちらに泊まることになりました。よろしくお願いします」

 自己紹介をしてから軽く頭を下げると、ヘルガさんが驚いたような顔をした。

 「随分しっかりしただねぇ…」

 「まぁそういうわけだ。3人部屋を一つ頼む」

 「わかったよ。ちょうど一部屋空いてるしね、今鍵を取ってくるよ」

 ヘルガさんが鍵を取りに奥へ引っ込んだ。


 「すまないな、ちょっとからかうのが好きなだけのおばちゃんで悪い人じゃないんだ。それにミアの母親でもあるんだ」

 悪い人じゃないのは見ればわかるが、まさかミアさんの母親だったとは…。


 「ほら、これが鍵だよ。3階の2号室だからね」

 ヘルガさんが戻ってくると、俺に鍵を手渡してくれた。

 「わかりました、ありがとうございます」

 「宿代は俺のにツケといてくれ」

 「またかい?はぁ…わかったよ」

 ヘルガさんが呆れた様子でアレクさんのツケを了承する。なんだかその姿がミアさんとよく似ていた。






 アレクさんと別れ、3階の泊まる部屋へと向かう。アレクさんは明日ここへ迎えに来てくれるそうだ。


 「2号室…だからここだな」

 「そのようですね、スズ様に相応しい部屋だと良いのですが」

 「泊まれる宿があるだけ有り難いんだ、贅沢は言わないよ」

 アリアに言葉を返しながら、鍵を開けて中に入る。

 部屋の作りはシンプルで装飾などは特になく、大部屋にベッドが3つとその横に小さなナイトテーブルが置いてあるだけだった。


 「随分簡素な部屋ですね…、ベッドが3つあるだけとは…」

 「いやいや、ベッドで寝れるってだけで良いもんだよリリー。森の中じゃテントの中とはいえ下は実質地面だったからね…」


 我慢出来ずにベッドへ飛び込むと意外や意外、ボフボフとしっかり弾力のあるベッドだった。 直接触れていなくても、硬い地面で寝ているようなものだった森とはえらい違いだ。


 「はぁぁぁ、こりゃいい…。気持ちいいな…」

 自分で思っていたよりも疲労が溜まっていたのか、それとも安心感からか、ベッドに飛び込んだ勢いで俺はそのまま眠りについてしまった。


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