第7話 第一~第四村人発見

 「……ま、……ズ様、起きて下さい」


 「んあ…、あ…リリー、おはよう…あっ、寝ちゃってたか。すまん、俺から見張りを言い出したのに」

 昨夜、テントを建てていざ寝ようという時になって山羊頭の一件もあって二人とも疲れているだろうに、リリーとアリアがまた見張りを務めると言い出したのだ。

 さすがの俺もあそこまで二人を働かせておいて、一人気持ちよくお休みというわけにはいかない。そこで二人の猛反対を押し切り、俺も見張りのローテーションに加わることにしたのだ。


 だが、蓋を開けてみればこの始末。最後の交代まではギリギリ起きていたが、結局見張りの役目を果たせずこうして眠っていたというわけだ。

 

 「問題ありませんよ、特に何も起きませんでしたから」

 「それなら良かったんだが…、アリアは?」

 「中でまだ寝ていますよ」

 「そうか、昨日一番働いたのはアリアなんだし、もうしばらく寝かせてあげよう」

 「そうですね」


 アリアを寝かせたまま数十分ほど経ったあたりで、テントの中から慌ただしくアリアが飛び出てきた。


 「申し訳ありませんスズ様!」

 「いやいや、ゆっくり休んで欲しくてわざと起こさなかったんだ。昨日の一番の功労者はアリアだからな」

 「面目ありません…!というかリリー!なぜ起こしてくれなかったんだ!」

 「スズ様のご指示ですもの、スズ様のご厚意を無碍にするほうが失礼でしょう」

 「ぐっ…!はぁ…、ありがとうございます、スズ様。おかげで体が休まりました」

 何か言い返そうとしたアリアだったが、諦めたようで俺に頭を下げてお礼を言ってきた。


 「いや、礼を言うのはこっちだよ。アリアがいなかったらあそこで死んでいたかもしれないしな、ありがとう」

 「は、はい!」

 軽く落ち込んでいたアリアだったが、俺がお礼を言うと嬉しそうにポニーテールを犬の尻尾のように振って、すっかり上機嫌になってしまった。

 単純だなー、だがそういうところが可愛くもある…。


 「よし、じゃあ朝ご飯を食べたら早速出発しよう」

 微笑ましいアリアをもう少し見ていたい気分だが、先を急がないとな。


 「でも次はどこを目指すんですか?水音のする場所へは着いてしまいましたし」

 リリーが言うように当初の目的地へは着いてしまった。が、もう目星は付けてある。


 「あの山羊頭が言っていたろ。って、つまり山羊頭が逃げてきた方向には少なからず人間が居るはずだ。まぁ、ジグザグに逃げてきたなら話は変わるが…」

 「なるほど、確かに一理ありますね。どういう逃げ方をしてきたにせよ、手掛かりが他に無いのですから仕方がありませんね」


 朝ご飯を食べ終え、テントをそのままインベントリに仕舞い込んだら出発だ。

 「山羊頭が来た方角はこっちだったな。こっちに真っ直ぐ進んでみよう」

 「「わかりました」」





 いつもの配置で再び森を進んでいくが、一向に何も見当たらない。

 「予想通りっちゃ予想通りだが、ここまで何も無いとさすがにガックリ来るな…」

 「そうですね…、そもそもこの森はどれだけ広いんでしょうか?相当な距離を歩いているはずですが、森の端に着くどころか見えもしないとは…」

 アリアはすでにこの森の広さにうんざりした様子だ。


 「う~ん…、おっ?待て、レーダーに反応が出た」

 レーダーの端っこに緑色の点が4つ現れた。この森に来て初めての敵対存在じゃない反応だぞ、これは期待大だ。


 「緑…ということは、少なくとも敵対しているわけではないようですね。それに、どうやらこちらに向かって移動しているようです」

  リリーが俺の後ろからレーダーを覗き込んで言う。

 「本当だな、どうなるかわからないし、ここで隠れて観察しよう。接触はそれからだ」


 音を立てないよう近くの茂みにしゃがみこんで隠れ、そっと緑の点の対象を観察する。

 …!人だ!やっぱり俺等以外にもちゃんといたんだな…。こうして肉眼で確認出来て一安心だ。

 「もう少し近づいてきたら俺が話しかけてみる。何があるかわからないから二人は警戒しててくれ」

 「いけません!スズ様お一人で出ていくなど!」

 「私もアリアと同意見です。何があるかわからない以上スズ様お一人で行かせるわけにはいきません」

 「……わかった。なら三人で行こう。でも話しかけるのは俺に任せてくれ」

 リリーとアリアが静かに頷くのを見てから、ゆっくりと立ち上がって4人の前に出ていく。

 遠目にはわからなかったが、男3人に女1人のようだ。

 黒っぽい赤髪短髪の剣士風の男、大盾を持って短く刈り上げたくすんだ銀髪の大男、うなじまで短くした茶髪のショートカットに吊り目が特徴の女、そして最後尾には緑髪を首元で切りそろえた軽薄そうな男。全体的に20代後半くらいか?


 「すみませーん。ちょっといいですか?」

 俺が話しかけると、4人がこちらに目を向け、次の瞬間には警戒態勢を取っていた。

 リリーとアリアもそれに合わせて警戒態勢を取る。


 「……………。」

 お互いが沈黙する中、なんとか話しかける。


 「あの、達この森で迷っちゃったんですけど、街に行く道とか知ってませんか?」

 自分がTSしていることに気付いてからずっと考えていたことだ、身長140cmの美少女の一人称がでは違和感がありすぎる。だからリリーとアリアの前以外では一人称を変えることにした。幸い、職場ではと呼んでいたし、個人的な違和感は無い。


 「………何が目的だ」

 「へ?」

 「街に行って何をするつもりだ」

 剣士風の男が、剣の柄に手を当てながら聞いてくる。


 「何をってそりゃ…宿に泊まったり、買い物したり?なによりこんな森にずっと居られないし…」

 突然の質問に戸惑いつつも、なんとか返答する。


 「ミア、どう見る?」

 「いやどう見たって怪しいでしょ!なんでこんなところにあんな見てくれの良い女が3人もいるのよ!」

 剣士風の男が吊り目の女に聞くが、やはりかなり警戒されているようだ。

 まぁ当然だよな…、こんな状況俺だって警戒する。


 「でも、本当に困ってるなら助けてあげないと…」

 「アンタはそんなんだからいつも顔の良い女に騙されるのよ!」

 緑髪の男が庇ってくれそうだったが、吊り目の女の剣幕に押されている。


 「本当に街に行きたいだけなんです!教えてもらえませんか!」

 ここを逃したら次は無い、どうにかして食らいつかなくては。


 

 「………すまないが、俺達は依頼の途中なんだ。を追っている。だから今すぐに案内するというわけにはいかない」

 「ちょっと!?」

 剣士風の男が考え込んだ末に、少しだけ警戒を解いてくれたようだ。

 …ん?山羊?


 「考えてもみろ、あの悪魔の類はこういう搦め手は使ってこない。いや、使えないはずだ。俺達を見れば襲うか逃げるかするはず、早とちりはまずい」

 「そりゃそうだけど…!」


 「あの!山羊の化け物って、執事服を着た山羊頭のことですか?」

 「…!なぜ知ってる!?」

 「ほら、やっぱり怪しいわよ!なんであのが悪魔のこと知ってるのよ!」

 「昨日その山羊頭に襲われたんです。なんとか倒すことが出来て、その山羊頭が、人間に追われてきた、と言っていたので逃げてきた方向に進んでみたんです。そしたら皆さんと出会えて…」


 「倒した…?嘘だろ?」

 「ならその山羊頭が持っていたものがあるはずよ。本当に倒したっていうなら出してみなさい」


 山羊頭が持っていたって、一つしかないよな?

 俺はインベントリから赤い宝石の嵌ったペンダントを取り出して4人に見せる。

 「これですか?あいつが死んだら塵になって消えたんですが、その場所にこれが落ちてたんです」


 「間違いない。聞いてたのと同じペンダントだ」

 「偽物かもしれないわよ」

 「いや、それはありえない。悪魔の情報は出回っていたが、あのペンダントのことは秘匿されていたはずだ。仮に偽物だとしてもこの状況は手が込みすぎている。あんなものがあるなら、もっと楽なやり方があるはずだ」

 「なら、どうするのよ」


 「連れて帰るしかあるまい」

 今まで無言を貫いてきた大盾の男が口を開いた。

 「正気!?」

 「ガウスの言う通りだ。あの娘はこの件を知りすぎてる、聞きかじっただけでは知り得ない情報だ」

 「はぁ…、わかったわよ」

 やっと結論が出たようだ。どうやら街まで連れて行ってくれるみたいだな。


 「待たせてすまない!今から街へ案内するから着いてきてくれ!」

 良かった…、交渉成功だな…。

 「だそうだ。リリー、アリア行こう。……リリー?アリア?」

 「なんですか?あの無礼者共は」

 「こんなことになるなら俺が行って無理矢理聞き出しても良かったな…」

 え!?二人ともそういうキャラだっけ!?


 「ま、まぁ街に行けることになったんだしいいじゃないか。ほら、早く行こう」

 「スズ様がそう言うなら…」

 リリーもアリアも、納得のいかなそうな顔で俺の後ろに着いてくる。



 「俺はアレックス、アレクって呼んでくれ。こっちのうるさいのがミアで、」

 「誰がうるさいよ」

 「このデカいのがガウス」

 ガウスと呼ばれた大男に目を向けると軽く会釈してくれた。

 「それでこいつがロシュー」

 「よろしくねっ!」

 残った緑髪の男がロシューか、人の良さそうな笑顔をしてる。


 「私はスズです。こっちがリリーで、こっちがアリア」

 二人を紹介するが、無愛想に会釈をするだけで無言を貫いている。



 「スズちゃんはどうしてこの森に?」

 「気付いたらこの森に3人でいたんです。それでどうにか森から出ようと3日ほど彷徨って、皆さんにあった次第です」

 「それは大変だったね…。ところで、ペンダントをもう一度見せてくれるかな」

 「はい、これですよね?」

 インベントリからペンダントを取り出してアレクさんに見せる。


 「さっきも思ったけど、それどこから出してるの?」

 「え!?これって普通じゃないんですか?」

 「少なくとも俺は見たこと無いかな…、みんなは?」

 アレクさんが他の3人に目を向けるが、3人共首を振っている。


 「そうなんですか…、この穴に色んな物を入れたり出したり出来るんですよ。ほら」

 インベントリの中から色んな素材を出し入れしてみせる。

 「すごいな…、その魔法(?)があったら荷物持ちポーターとして引く手数多だろうね」


 「荷物持ちポーター?今スズ様を荷物持ちポーターと言ったか?」


 え、なに?どうしたの?


 「さっきから聞いていれば、貴様らスズ様に気安すぎるぞ。ましてや荷物持ちポーターなどと…無礼にもほどがある」

 マズい、アリアが何故かキレてるぞ。リリーもうんうん頷いているし、止める気は無さそうだ。


 「ま、まぁまぁ!私は全然気にしてないから、ね!大丈夫!」

 「むぅ…。わかりました」

 渋々と言った感じではあるが、引き下がってくれたみたいだ。

 ふぅ…、なんとかアリアを宥めることが出来たぞ。こりゃ先が思いやられるな…、まさか俺以外の人間に対してここまで攻撃的だとは…。それにリリーもアリアの行動を支持しているようだし、どうしたもんか…。





 それからはアレクさんからも他の3人からも話かけられることは無く、気付けば森を抜けた先に大きな城壁が立っているのが、小さくではあるが見えてきた。

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