第6話 第一村人?発見

 テントが地面に沈み込む衝撃な光景を見てから、約3時間後のことだった。

 「なぁ、音が近くなってきてないか?」

 昨日あれだけ歩いても近くづく気配の無かった音が、徐々にだが大きくなってきていた。


 「確かに大きくなって来ていますね。スズ様、レーダーに何か反応は?」

 アリアに言われて、右手に持っているレーダーを確認する。

 これは円形の手のひら大の大きさで、表面のディスプレイに敵対存在などが映ると赤い点として表示してくれるアイテムだ。ゲームでこのアイテムが実装された当初、       某大人気漫画に出てくるレーダーにあまりにそっくりだったため、色々と話題になったが、何故かそのまま実装されたままだった。


 そんなものがあるならなんで昨日使わなかったんだ、と声が聞こえてきそうだが、まさかレーダーまで使えるとは思ってなかったからだ。ゲーム内でレーダーが使えるのは、プレイヤーとゲームサーバーが繋がっているからであって、サーバーも何も無いだろうこの世界で使えるとは微塵も思っていなかった。

 だがテントの一件から、持っているアイテムは何でも試してみるべきだろうと、思い至り、その結果意外と使用可能なアイテムがあることがわかった。

 レーダーもその一つだ。もちろん、使えないアイテムもそれなりにあったが。


 「レーダーに反応は無いな、動物もいないみたいだ。とりあえずこのまま進んで水音の正体が何なのか突き止めよう」


 アリアが先頭に立って森を進んでいくと、奥の方に開けた場所があるのが見えた。

 三人が足早にそこへ向かうと、そこには小さな湖があった。


 「水の流れる音の正体は湖、というよりそこに注ぐ滝だったわけか」

 その小さな湖の奥には、5メートルほどの崖の上から滝が降り注いでいて、湖に水を供給していた。

 俺達が聞いていた水の流れる音はこれだったわけだな。


 「それにしても、ここは随分景色がいいな。この森の中とは思えん」

 不思議なことにこの湖の周辺だけ木が生えておらず、水面に日光が反射してキラキラと輝いている。あの暗く鬱蒼とした森からは想像も出来ない清涼な空気も漂っていて、今までの疲れが洗い流されるようだった。


 「いい場所だし、一度ここでテントを出して休もう。また進む方向を考えなきゃいけないしな」


 「わかりま『おや、珍しいですねぇ。こんな場所に人間がいるなんて』

 突然の聞き慣れない声に、思わず声がした森の方へ顔を向ける。

 そこには執事服を着て、ねじれた角が生えた山羊頭の男(?)が一人立っていた。


 アリアとリリーが何かを察知したのか、俺を庇うように前に立つ。


 『厄介な人間たちから逃げるのは少々疲れましたが、こんなご褒美が待っているなら逃げてきたかいがあったというものですねぇ』

 やけにしゃがれた声で山羊頭が言う。

 逃げてきた…?よくわからないが、今の発言から俺達以外にもちゃんと人間がいるらしいことがわかった。


 「何者だ貴様!敵対するつもりなら容赦はしないぞ」

 アリアが剣を山羊頭に向けて言い放つ。


 『後ろにいる娘は特に良い…、女は若ければ若いほど美味しいですからねぇ』

 

 間違いなく友好的な存在じゃないな、発言が気持ち悪すぎる。


 「スズ様、下がっていてください。ここは俺がっ、!?」

 「うおっ!?」


 アリアが俺を下がらせようとした瞬間、山羊頭が物凄い速度でこっちに突っ込んできた。


 「大丈夫ですかスズ様!」

 よろついて倒れそうになった俺をリリーが支えてくれる。

 「大丈夫だ!それよりアイツはどこに行った!」

 突然のことに驚いて山羊頭を見失ってしまった。


 「あの無礼者ならあそこに転がっていますよ」

 アリアが俺の後方を指さしているので振り向くと、胴体と首が泣き別れになった山羊頭が倒れていた。

 「突然で驚きましたが、あの程度速いうちに入りませんね」

 あの一瞬で首を刎ねたのか!?とんでもないな…。


 「結局なんだったんだアレは…」


 「わかりませんが首を刎ねたのです、恐らく即死でしょう」


 「まぁ、そうだよな…はぁ…。…待て、レーダーに反応がある!まだ生きてるぞ!」

 ホッとため息をついた時に、ふとレーダーに目を向けると赤い点があるのに気づいた。

 赤い点のある場所には山羊頭しかいない。死んでいれば反応は消えるはずだ。


 『う~ん、油断しましたねぇ。はぁ、いやだいやだ』

 生首だけの山羊頭が喋りだすと、首のない胴体が独りでに立ち上がりその首を拾い上げた。そのまま持ち上げた首を本来あるべき場所へ載せると、接着面がぶくぶくと泡立ち始め、収まる頃には何事もなかったかのように胴体と首がくっついていた。


 『次は油断せずにいきましょうねぇ』

 山羊頭が腕を体の前で交差させると、指の形が変わり30cmほど伸びて黒い鋭利な爪のように変わった。

 山羊なのに爪が武器なのかよ!


 そのまま何も言わずに爪を振りかぶって突っ込んで来る山羊頭だが、アリアが剣で受け止めて弾き返す。

 なおも爪で切りつけようとするが、アリアにうまくなされている。

 攻撃を往なすだけじゃなく逆に斬りつけて反撃しているところを見ると、間違いなく実力ではアリアのほうが勝っている。だが斬りつけられた場所が泡立ち始め、瞬く間に傷が治ってしまう。これではいくらなんでもキリが無い。

 何か手を打たないと…。


 山羊か…山羊頭といえばそんな悪魔がいたよな?

 ……物は試しだ。

 俺はインベントリから新しい弾倉を取り出して、右のホルスターに入ったハンドガンの弾倉と入れ替える。


 「リリー、あの山羊頭の動きをなんとか止められないか?」

 まずはアイツの動きを止める必要がある。間違ってアリアに当たったら大変だ。


 「確証はありませんが、やってみせます」

 リリーがそう言うなら問題ないだろう。よし…


 「アリア!そいつから離れろ!」


 「はっ!」

 アリアが山羊頭の男の攻撃に合わせて大きく弾き返し、その隙に離脱する。


 「リリー!」

 「はいっ!“バインド”!」


 『ぐっ…』

 リリーが魔法を唱えると、山羊頭を囲むように5つの輪が現れ、縛り付ける。


 どこを狙うか決めて無かったが、大抵こういうのは心臓を狙えば間違いないだろう。

 勢いよく引き金を2回引いて撃ち出した弾丸は、山羊頭の心臓を間違いなく撃ち抜いた。


 『はぁぁぁぁ、無駄ですねぇ。いくら傷をつけて……ぐっ、ぐああああ!あああああ!熱いぃ!熱いですねぇ!!!』


 ダメか…と思った矢先、突然山羊頭が苦しみだし身体全体が真っ白い炎に包まれて燃え出した。それからゆっくりと30秒ほどの時間をかけて、山羊頭の身体が徐々に塵になっていき、最後には跡形もなく燃え尽きてしまった。


 「お見事です、スズ様。これであの無礼者もやっと死にましたかね」


 「うん、レーダーに反応もない。間違いなく死んだだろう」


 「それよりもスズ様、どうやってアレを倒したんですか?」

 リリーが種明かしを聞きたいようだ。


 「あぁ、聖属性の銀弾を使ったんだよ。悪魔にはやっぱり銀が効くだろうと思ってね。正直なところ博打だったが、成功して良かったよ」

 ゲームには属性攻撃というものがあって、特定のジョブはそれを駆使して戦うことが出来た。俺のジョブであるガンスリンガーも弾薬を入れ替えることで様々な属性攻撃が出来るジョブの一つだ。


 「なるほど、さすがスズ様ですね」

 リリーが大袈裟に褒めてくれる。


 「へへ…褒めても何も出ないぞ。……ん?なんだあれ?」

 リリーの言葉に照れていると、山羊頭が燃え尽きた場所に何かキラリと光る物があるのに気付いた。


 「危険です。俺が見にいって来ますよ」

 アリアが近づこうとした俺を引き止め、光る物に近付いて鞘に入ったままの剣で軽くつついてから、それを拾い上げてこちらに向かってくる。

 どうやら安全だと判断したようだ。


 「どうぞ、スズ様」

 差し出された物をよく見ると、それはペンダントだった。

 金色の鎖にかなりデカい赤い宝石が嵌っている。宝石の中に何か模様があるようだが、それが何かはわからない。


 「ペンダントか?あの山羊頭の物ならなんでこんなもの持っていたんだろう」


 「ドロップ品か何かではないですか?」

 ドロップ品て…ゲームじゃないんだぞ。いや、元々ゲームの中にいたんだもんな、そういうこともある、のか?


 「まぁ危険は無さそう?だし、もらっておくとするか。なんかもう色々あって疲れちゃったからテントを出して今日は休もう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る