第5話 探索
「それで、早速なんだがこの森から脱出しようと思う。アリア、聞きたいことがある」
「はい!なんでしょう!」
頼まれごとの気配を察知したようで、アリアが目を輝かせて次の言葉を待っている。
本当に犬みたいだな…、折角かっこいい顔立ちをしてるのに…まぁ、これはこれで…。
いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないな。
「この周辺には本当に何もないのか?人がいた痕跡とか、音や声が聞こえたりとか」
脱出するにしても、どの方向に向かうかは決めておいたほうがいいだろう。
進む方向を間違えて、脱出するどころか森の深い所に行ったり、いつの間にかグルグルと森を彷徨う羽目になるのは御免だ。
何か目印になる何かがあればいいんだが…
「ここを中心にかなり広い範囲を探索しましたが、道はおろか足跡などの痕跡もありませんでした。遭遇するのは、やけに凶暴な動物くらいです」
アリアが戻ってきた時にも言っていたが、やっぱり痕跡と呼べるものはないか。
それに…「動物?」
「はい。見た目は兎や狼などの動物に近いのですが、こちらを見つけると脇目もふらずに襲ってくるので、かなり厄介でした。幸いそこまで強くはないので、対処自体は楽ですね。レベルで言えば30から40程でしょうか?」
動物か…、ゲームで出てくる敵対存在は全て異形の形をしていて、動物との共通点はほとんど無いに等しい。まさにクリーチャーと呼ぶべき見た目だった。
出現する敵の種類まで違うのか…。だが、レベルが30~40というのは朗報だな。
俺は
「その程度の敵なら確かに軽く蹴散らせそうだな。だが進む方向がわからないと、どうしようもないぞ…」
う~ん、どうしたもんか…。
「何かいいアイデアはないか?」
こういう時は丸投げだ。頼ってくれと言われていたしな!
「そういえば…」
アリアが何かを思い出したようだ。
「お、何かあるか?」
「人とは関係ないと思うのですが、探索中に水の流れる音が聞こえたことがありました」
水か!川か湖か、はたまた海かもしれないが、水場の周りには人が暮らしてるものと相場が決まっている。
「目的地があるほうが探索もやりやすい。アリア、水の音がした場所は覚えてるか?」
「はい、問題ありません!任せて下さい!」
そう言うとアリアは得意げな表情で、胸をドンと叩いた。
「よし、じゃあアリアが先導してくれ。俺とリリーは後ろからついていく」
アリアが先頭、俺が真ん中で、リリーが最後尾。ゲームではいつもこの配置だった。これからも、この配置が変わることは無いだろう。
出発してから2時間ほど経ったあたりで、アリアが立ち止まった。
「ここです。水の音が聞こえませんか?」
どうやら、この場所でアリアが水の流れる音を聞いたみたいだ。
耳を澄ませてみると、確かに水の流れる音がかすかにだが聞こえる。
「うん、確かに聞こえる。でも本当にかすかにしか聞こえないな。相当遠いんじゃないか?」
耳を澄ませることで、辛うじて聞こえるレベルの音だ。実際、周りを見渡してもそれらしい水場もない、というより、鬱蒼と木が生えているせいで、視界がほとんど遮られている。
「リリーはどうだ?何かわかるか?」
「私も辛うじて聞こえる程度ですね…」
「そうか…。まぁここで止まっていても仕方ないだろう。もう少しだけ音のする方向に進んだら、一度休憩しよう」
鬱蒼とした森ではあるが、薄く木漏れ日が差しているのである程度は陽の傾きがわかる。恐らくだがあと1,2時間で陽がすっかり落ち込んで、森が真っ暗になってしまうはずだ。そうなれば、さすがに探索は出来ないだろう、危険過ぎる。
「わかりました。だが、ここから先は俺も行ったことがない。リリー、警戒を絶やすなよ」
「言われなくても」
さらに1時間ほど歩いたところで森が暗くなってきたため、広めの空間を探して、そこに仮拠点用の大型テントを建てる。
これはゲームの仮拠点用アイテムで、敵対MOBが周辺にいる時には使えないが、ホームポイントに帰らずともPTメンバーの回復が出来るために常用しているものだった。
探索を中止しようにも、地べたに寝るのもな…と考えているうちにこのテントのことを思い出したのだ。もしかして使えるかもしれないと、インベントリから取り出すと組み立て前のバラバラの状態で絶望したが、3人で協力してなんとか建てることが出来た。
その後3人で食事を取ってから寝ようと思ったが、さすがに無警戒ではマズいだろうと交代での見張りを申し出ると、
「スズ様は寝ていて下さい!責任を持ってスズ様は俺達が守りますから!ドンと任せちゃって下さい!」とアリアに鼻息を荒くして力説されてしまったため、お言葉に甘えて渋々ではあるが、今はこうしてテントの中で寝転がっている次第だ。
それにしてもアリアから聞いてはいたが、本当に動物が襲ってくるんだな。
戦闘も頼り切りは良くないだろうと中型犬くらいのウサギと対峙した時に、ビビって強化弾薬を撃ち込んだら、威力が高すぎたようで跡形もなく地面のシミになってしまった。
オオカミやクマはまだわかるが、ウサギなんかの小動物が牙を生やして物凄い形相で襲ってくると妙に迫力があるんだよ…。
それから何度か戦闘を重ねるうちに、使う弾薬は一番弱いものを使うことに決めた。これならほぼ無限に近い数の在庫があるし、この森にいる動物程度ならこれで事足りるからだ。
それに、ゲーム内で使っていた各種スキルも問題なく使えた。アリアが今までの探索中に色々と試していたようで、
武器、弾薬、スキル。全て問題なく使えているから戦闘に関しては本当に問題無さそうだ。
色々考え事をしていたら眠くなってきたな…。明日にはまた探索を開始しなくちゃいけない。今度こそ水場に着ければいいんだが…。
朝目が覚めると、こちらを見つめているリリーと目が合った。また膝枕されているらしい。
「おはようございます。スズ様」
蕩けるような笑顔で朝の挨拶をしてくるリリー。
自分でキャラクリしておいてなんだが、本当に美人だな。自分を褒めてやりたい。
「おはようリリー、2回目だな。アリアは?」
体を起こしてリリーに挨拶を返す。
「外で見張りをしてますよ」
「二人ともちゃんと寝れてるのか?いくら頼っていいと言われても無理をしてるならさすがに看過出来ないぞ」
実際こうして二人が見張りをしてくれているおかげで、安心して寝れるのはありがたい。だが、そのせいで二人が無理をしているなら話は別だ。
「大丈夫ですよ、ちゃんと交代しながら私達も寝ていますから安心してください」
「そうか?ならいいんだが…、辛くなったらちゃんと言うんだぞ?」
「はい、その時は必ず。さ、外でアリアも待っていますから早く出発しましょう。日の出ているうちに進まないとすぐに暗くなってしまいますよ」
「それもそうだな、テントも片付けなきゃいけないし」
俺とリリーがテントから出てアリアと合流してから、テントを解体しようとしたところで、アリアが待ったをかけた。
「あの、これってそのままインベントリに入れられないんでしょうか?」
「いや入れるたってどう入れるんだ?空間の
実際休憩する度にこのテントを組み立てるのは手間だし、組み立てたままインベントリに収納出来るならそれに越したことはないが…。
「ですが、入れるものや出てくる大きさによって穴の大きさも変わりますよね?なら、これが入る大きさにも穴が広がったりしないかなと思いまして」
確かに腕よりも大きいものを入れたり、出したりする時にはそれ相応に穴も広がっていたが、それはあくまで手に持っていた時の話だ。
ただ置かれているこのデカいテントを手に持つことは出来ないだろう。
「う~ん…、実際試してみる価値はありそうだな…」
前に検証した時、地面に置いた石を収納しようとして無理だったことから考えて、
少なくともインベントリに収納する条件は手に触れていることだろうということは察しが付いている。
ならまずはテントに手を触れて…どうする?初めての時みたいに念じてみるか?
入れ…入れ…中にはい…
「うお!?」
突然テントが地面に沈み込んで、そのまま空間の
「入っちゃった…」
「入りましたね…」
俺と同じように、リリーも目の前で起きたことに驚愕している。
まさか本当に収納できるとは思わなかったが、これでこの森での活動がかなり楽になるぞ。昨日も組み立てるのに3人で悪戦苦闘していたからな。
「アリアが言ってくれなかったら絶対に気づかなかっただろうな…。助かったよアリア」
「お力になれたようで良かったです!」
「よし、早速良いこともわかったし、そろそろ出発しよう。今日こそ水場を見つけるぞ」
「「はい!」」
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