第4話 心配事 リリー&アリアside

  スズから離れ、トボトボとリリーのところへ戻って来るアリアだが、心なしかポニーテールがしょんぼりとしている。


 「なぁ、リリー」


 「なんですか?」


 「スズ様は本当に大丈夫だろうか?やっぱりどこか無理をしてるんじゃ…」

 アリアが、眉を八の字にした情けなさそうな顔でリリーに聞く。


 アリアはずっと心配だった。この森へいつの間にか飛ばされて不安だったが、リリーだけじゃなく、スズまでここへ来たことがわかった時には心の底から安堵した。


 だが、安心したのも束の間、スズは一向に目を覚まさない。


 初日はただ目覚めるのが遅れているのだろうと高をくくっていたアリアだったが、2日目も目を覚まさないとなれば、そうではないとわかった。リリーに、役割を分担して周辺の探索をして欲しいと言われた時も、アリアはその提案に納得しつつも、内心は心配でたまらなかった。


 リリーのことは信頼している。何かがあってもスズに傷一つつけずに守りきってくれるだろう。それでも、自分のいない時に何かあったら、そう考えるだけで不安だった。

 前いた世界では見たこともない生物に襲われた時は驚いたが、スズの脅威になると思えば、自然とアリアの剣を持つ手に力が入った。


 今日探索から帰ってきて、起き上がっているスズを見た時は、感動のあまり泣き出しそうだった。スズに泣き顔を見せたくなくて、涙を我慢するうちに力を込めてしまったのは、嬉しさのせいでもあるだろう。


 「はぁ…アリアは心配性過ぎます」

 リリーが軽くため息をつく。


 「心配性って…お前はスズ様が心配じゃないのか!」

 やけに落ち着き払った様子のリリーを見て、アリアが憤慨する。


 「そうは言ってないでしょう!ただ、今はスズ様が無事に目を覚ました、それでいいではないですか。それに、スズ様が無理をされているのは、私も百も承知です。その分、私達が支えて差し上げればいいのです。力不足かもしれませんがね…」

 今は落ち着いているリリーも、スズが眠っている間は気が気ではなかった。


 自らの膝の上で寝息を立てながらピクリとも動かない主人を見て、このまま目を覚まさなかったら、と何度も考えた。スズの目が覚める直前に、瞼がわずかに動いたのに気づけたのも、ひとえにリリーがスズへ注意を向け続けていたからだろう。


 「俺達が…支える…」

 アリアが、リリーの言葉を噛みしめるように呟く。


 「ええ、そうです。今まではスズ様に頼り切りでしたが、ついに私達がスズ様を支える時が来たのです」

 

 「そうだ…そうだな!今度は俺達がスズ様を支える番だよな!今までスズ様から受けてきた恩をついに返す時が来たんだ…!」

 リリーの言葉に触発され、アリアが拳を握りしめて決意を固めている。

 先程までしょぼくれていたポニーテールにも、艶が戻っているようだ。



 「お~い、待たせてすまなかったな。何の話してたんだ?」

 一人で考えにふけっていたスズが戻ってくる。


 「スズ様、もうよろしいのですか?」


 「あぁもう大丈夫だぞ、心配かけたな」


 「スズ様!俺、スズ様のこといっぱい支えますから!なんでも頼りにして下さいね!」

 アリアが決意を固めたそのままのテンションで、スズに猛アピールする。


 「え、あ、お、おう、いつも頼りにしてるぞ。これからもよろしくな」

 スズはアリアの謎のテンションに戸惑いつつも、内心嬉しい気持ちでいっぱいだった。こんなどこかもわからない森の中で、二人が眠っている自分を守りながら3日間も耐えて、目を覚ませば支えるとまで言ってくれる。

 それだけで、わずかに残っていた不安な気持ちは、どこかへ吹き飛んでしまった。

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