第6話 一皿のスープ

毎日、フランは朝早くに庭に出た。


二十日大根や葉物の野菜、それに根菜類。

ほとんど自生しているようなベリーの実は取り放題だった。


水をやり、雑草を取り除き、自分の手で愛情を込めて育てていった。

日が経つごとに愛着も増し、虫がつくと必死で追い払うようになった。


数日が過ぎ、野菜や果実は順調に育っていた。

鮮やかな緑色の葉を広げ始めた様子を、フランは驚きと喜びと共に見守った。


そして、ついに収穫の時が来た。

フランは慎重にラディッシュやニンジンを引き抜いて、きれいに洗って厨房へと運んだ。新鮮な野菜にはおいしさだけでなく、それでしかとれない栄養がある。フランは一心不乱にスープを作り始めた。


庭から収穫したばかりのラディッシュを丁寧に洗い、薄くスライスする。ラディッシュの鮮やかな赤い皮と白い中身が、切り口の美しいコントラストを描き出す。その次に、ニンジンを細かく刻んだ。小さな四角い粒は、細かくした太陽の光のようだ。


鍋肌にオリーブオイルを流し入れ、中火で温める。フランはそこに刻んだオーリオと玉ねぎを加えて、ゆっくりと炒め始めた。オーリオと玉ねぎの甘く食欲をそそる香りが立ち上って、厨房は香ばしい熱気に包まれていく。


玉ねぎが透き通ってきたところで、フランはスライスしたラディッシュと刻んだニンジンを鍋に加えた。野菜が鍋の中で踊るように混ざり合い、色鮮やかに溶け合っていく。木製のスプーンでゆっくりとかき混ぜながら、塩と胡椒で味を整える。


次に、フランはミルクを鍋に注いだ。スープの温かい香りがさらに豊かになり、心地よい湯気が立ち上った。鍋の中で野菜たちはじっくりと煮込まれ、旨みがスープに溶け込んでいく。


しばらく煮込むと、ラディッシュとニンジンは柔らかくなり、その自然な甘みがスープ全体に行き渡った。フランは味見をしながら、最後に少量の新鮮なハーブを加え、香りを引き立てた。


スープをボウルに盛り付けると、ラディッシュの赤とニンジンのオレンジが美しい色彩を描き出した。

クリーミーなスープの中から、刻まれた野菜たちが顔を見せる。


ひとさじ味見をしたフランは頷いた。


(うん、完璧)


フランは満足げに微笑み、出来上がったスープをギルの部屋へと運んだ。


「失礼します。ギルさん、いつもグレッドばかりだと味気ないと思ったので……、今日はラディッシュとニンジンのスープを作りました。どうぞ召し上がってください」


部屋から音沙汰はない。

それでも、フランは自信があった。


「あたしの自信作です。これまで食材を育てたことなんて無かったけど、やっぱり全然違う。新鮮な食材って、あたしが知ってたつもりになってた野菜たちとは別の物みたい。ありがとう、ギルさん」


フランはそう言い残して部屋を離れた。

(もしあのミルクスープが残っていたら、料理人をやめるかもしれない)


と頭の端で思うくらいには、自信のある味だった。

あれを町の食堂で出せば、そうとう人気になっただろう。

フランは自分が思った以上の物を作り出せたことに、静かな満足感を感じていた。


翌朝、フランは早くに目を覚まし、ギルの部屋へと向かった。

トレイの上に置かれたスープのボウルは空になっていた。

いつも半分は残っている、グレッドも綺麗に無くなっている。


「完食……」


フランは廊下に立ち尽くしていた。

手負いの獣のような、姿を見せたこともほとんどないギルがスープを飲んでくれた。


(えぇ……なんだ、この感じ)



名状しがたい思いが胸を震わせる。

じんわりとあたたかくなっていく体の鼓動を、静かな廊下でフランは感じていた。





(※グレッド … 小麦で作ったパンのようなもの だと思って下さい)

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