チンピラ③

「?」

「あんたの両親は、あんたを何とか今の状態から抜けさせようと、組長に直談判を繰り返していたそうだ。あんたに言っても聞かないのはわかっているから、直接組長に頼んでいたんだ」

「!」

「組は金を要求したらしい。まあ、ヤクザのやり口だな。そして、真面目なあんたの両親は金を払い続けたそうだ。父親の退職金もすべて組に流れたらしい」

「……」

「組は、あんたの両親をうまく丸め込み、どんどん金を引っ張ったそうだよ。嘘の約束ばかり並べ立ててな」

「……」

「ついには、借金までして、あんたの両親は組に金を払っていたそうだ。事故で亡くなったのも、借金を返すため、昼夜問わず働いたことで過労状態になっていたからだ」

「……まさか」

「本当だ。悲しいけどな……」

「……」

 全身の力が抜ける。

 両親は俺を見捨ててなどいなかった。それどころか……俺を立ち直らせようと……。

 虚脱状態のからだ全体に、怒りが漲ってきた。

 俺の心が暴力への衝動だけになった。今こそ、俺は鉄砲玉になる時だと思った。

 殺されるかもしれない。

 いや、間違いなく返り討ちにあうだろう。だが、両親のためにも、花火を上げなければならない。

 本来なら……両親の想いに報いるためにも、まっとうな道を歩むことこそが、俺の選択すべき道だろう。

 花火……一旗あげるというやつだ。だが、俺にはそんな花火は上げられそうにない。

 俺の上げられる花火はたったひとつ、両親の仇を討つことだ。

 馬鹿な俺の馬鹿な花火だ。

 拳銃を手に立ち上がる。

 男は何も言わなかった。少しだけ寂しそうな顔になると、スッと姿を消した。

「ありがとうよ、オッサン!」

 俺は拳銃を懐に忍ばせ、組事務所へ向かった。足を踏み入れることも近づくことも許されていない組事務所。

 殺されに行くのだ。最後はチンピラらしく殺されよう、そう思った。

 だが俺は死ぬ前に生きるのだ、そう感じていた。

 生まれてはじめて生きる。生きるということをはじめて意識していた。

 ついさっきまでの死んだような生活にオサラバし、俺は生きるのだ。一瞬後には殺されるだろうが……。

 だが、それで充分だ。満足だ。最後の最後にチンピラらしく生きることができて……。

 それに、あの世で両親にも会える。両親に会ったら、まず謝ろう。いや、まずはお礼か……。

 俺は一度ニヤリと笑い、繁華街を肩で風を切り、組事務所へ向かった。

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