チンピラ②
噎せる。
咳が止まらなかった。
涙が溢れてくる。
「大丈夫か?」
ガラガラした声が降ってくる。俺は尻餅をつきながらも、口から吐き出した拳銃を相手に向けた。
「な、なんだ、てめえ! どっから入ってきた!」
「俺はどこからでも入れる」
男が涼しい顔で言う。涼しい表情だが、真っ黒な顔をしていた。ナイロンのロングコートを羽織り、サンダル履きだ。
「自殺はやめとけ」
ガラガラ声で言う。
「はあ? 関係ねえだろ。誰だよ、てめえ!」
「俺か? 俺は死人だ」
「……舐めてるのか?」
俺は立ち上がり、男の胸に銃口を突き付けた。
「やめとけ。死人だと言ってるだろう。弾が無駄になるぞ」
「……」
男が俺の腕を払う。
「こ、この野郎!」
尚も掴みかかろうとしたが、思わず動きを止めていた。
男が、拳銃をくるんでいた古新聞に目を落としていたからだ。
自殺者の記事をじっと見ている。
「おい、オッサン!」
「……ん? なんだ?」
「どうしたんだよ。その自殺した男、オッサンの知り合いか?」
「……まあ、そんなところだ」
「……マジかよ」
俺は何となく気を殺がれ、再び床に座った。
「自殺はやめとけ。自殺はダメだ」
男が再び言う。
「だからほっといてくれよ」
「ほっとけない。あんたの担当になったからな」
「はあ?」
「俺は、あんたを自殺から守らなければならない」
「……」
「俺も自殺経験者でな、自殺には成功したが、成仏できないでいる。だから、こんなことをしているんだ」
「……さっきから何言ってるのかわからねえよ! 担当だとか、自殺から守るだとか、死人だとか……わかるように説明してくれよ!」
「わかりやすく説明したつもりだがな」
「つまりこういうことか? オッサンは自殺をした、でも成仏できず、自殺志願者を救う仕事をさせられていると。ふん、そんなこと信じられるかよ! それじゃあ、なにか、オッサンは天使なのか?」
「天使か……どうかな、悪魔かもしれん」
「……どっちでもいいよ、そんなもん! とにかく、俺のことはほっといてくれよ!」
「そうはいかん。担当だからな」
「……担当、担当って杓子定規に……オッサンは公務員か!」
「公務員のような楽な仕事はしていない」
「……」
「俺も自殺経験者だ。偉そうなことは言えない。でも、経験者だからこそ言えることもある」
「……」
「生きていりゃ色々ある、でも、死ねば何もない」
「……」
「あんた、自殺しても、両親には会えないぞ」
「!」
「俺のように、天界とこの世の間を彷徨うことになるのが関の山だ」
「……」
「成仏できない」
「生きてても……何もねえんだよ。というか、もう終わらせたいんだ」
「何もなければ花火でも上げればいいじゃないか……俺はもう二度と花火を上げられないが……あんたはまだ花火を上げられるじゃないか」
「花火……」
「そうだ。両親のためにも花火を上げろよ」
「両親のため?」
「そうだ」
「なんで、親のためなんだよ! あいつらは俺を見捨てたんだぞ!」
「……そうか……やっぱり知らないのか」
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