第646話
いつの間にか巨大になっていた✞黒猫の集い✞のギルドハウス。
最初掘っ立て小屋だった場所は、数日で屋敷になり、今は城だ。
多分、ファンタジーなお城で女性が一番イメージする類のデザイン。
ノイシュヴァンシュタイン城っぽいけど、この世界でもあるんだろうか?
まあ、前世の世界で作られたゲームをモデルにしているわけだから、この世界に無いとしても、前世のゲームにあれば再現されるのかもしれんが。
因みに、現在家具は殆ど無い。
そもそも、居住スペース自体が殆ど無いのもあるし、制作している張本人が、デザインには拘りつつも、求めているのが、自分の採集してきた素材を詰め込む倉庫であるため、外観とはかけ離れた内装をしている。
それでも一部には、流石に城っぽい部屋も存在していて、ここだけは皆がイメージするお城の謁見の間といえばこんな感じ!といえばいいのかな……。
まあ、庶民……一応貴族の子息になったので、庶民とは言えないのかもしれないけど、メンタル的には庶民である俺からすると、ちょっと落ち着かない場所に俺は今居る。
ただ、この謁見の間なんだけど、何故か小さい。
普通に見れば巨大な謁見の間なんだけど、実際に人が入ると、一般的な民家の居間くらいの広さである事が分かる。
なんだこれ?
トリックアート的な感じなのか?
階段の上に玉座はあるけれど、サイズは人形用くらいなので、俺が座る事は無理だろう。
かといって他の椅子も無い為、床に胡坐をかいて座っている。
大理石の硬さと冷たさが俺の尻を苛む。
「なんでこんなミニチュアみたいなサイズなんだ?」
「倉庫をいっぱい作って、残った部分にこの会議室を作ったので。もしよければ、もっと城を大きくして本物みたいなサイズの謁見の間会議室も作れますよ?」
「いや……まあいいや。それよりも、現状を整理しないと……」
俺は、部屋の中を見渡す。
このミニチュア謁見の間会議室、謁見の間と考えると小さいけれど、普通の民家にあるとしたらそこそこの面積だと感じるかもしれない。
しかし、現在ここは狭い。
なんなら、隣に座っているリンゼと、逆隣りの聖羅のキャラとは肩が触れているし、それでも座る場所が足りなくて、リジェネが俺の脚の上に座っているくらいだし……。
「まさか、ここまで人が来るとは思わなかったな……」
「そうね……」
部屋の中には、興味深そうに周りをきょろきょろと見ていたり、体の動きを確認している女キャラが沢山居る。
大体10人くらいか?
皆、姿はゲームのアバターになっているけれど、なんとうちの家の中からアクセスしているらしい。
家って、ギルドハウスじゃなくて、リアルのな。
「聖羅、どんだけゲームを布教したんだよ……?」
「30台位玄関に置いておいた。大試とリンゼもやってるから、皆さんご自由に、って張り紙と一緒に。あと、私と有栖のキャラのIDっていうのも書いておいたから、フレンド登録っていうのもできるし、それを辿ってここに来ることもできたんだと思う」
「このヘッドギア、お値段が割としますので、そこまで売り切れる心配も無さそうでした!市場を探すと在庫がまだまだありました!買い増しもできますよ?」
「そこまでしなくていいわよ……」
昨日まで、このギルドにいるのは、俺、リンゼ、リスティ様、ニパ(リジェネ)だけだった。
それが、いきなり10人もの大所帯になってしまっている。
ここ何年かで、家の中に人がいっぱいいるのにも慣れて来たとはいえ、正直ネトゲの最中は例外だ。
なんていうか……俺の中で、ネトゲっていうのは、かなりアンダーグラウンドな世界なんだよ。
そこに家族が2ケタも来ちゃったら、なんていうか……エッチな本を隠し忘れた状態で自分の部屋に母親が入って来たくらいの緊張感がある。
因みに、今世では現在エロ本の類は、本当に1冊も隠していない。
王都にくるまでまともに本なんてもんがなかったっていうのもあるけれど、王都に来たら来たで、聖羅センサーの凄まじい性能によって即時発見されてしまうんだ。
それ以来、その手の本を入手する事すら無くなってしまった。
スマホとかパソコンで見ればいいかと思ったけれど、見ようとするたびに何故か聖羅かAIメイドの誰かが部屋に来てノックするんだよなぁ……。
不思議な力を感じてしまう。
さて、新しくやって来た方々に関して、聖羅と有栖以外には自己紹介をしてもらっていない。
リンゼもそうだし、聖羅と有栖に関しても、もうどうしようもなく本人だってわかっちゃったから名前を指摘したけれど、本来ネトゲなんてお互い匿名でプレイした方が良いと思うんだ。
別に俺がコミュ障だからって訳じゃなく、お互いの名前がわかっていると、たまにポロっとゲーム内で相手の名前を出しちゃうこともありそうだし、あまりよろしくないと思うんですよボカァね。
ただ、まあ……聖羅じゃないけれど、一緒に暮らしている相手だと、案外挙動でわかるもんだな。
ゲームのアバターとは言え、動かしているのは紛れもなく本人だ。
自分の肉体みたいな感覚で動かせるし、肉体能力や魔術の技能なんかもリアルの肉体を反映しているとのことなので、生の動きが再現されてしまう。
その観点から察するに……。
あの何とか皆の間に空いている隙間を足場にしてピョコピョコ動き回っているのは、シオリだな?
あっちの、メガネも無いのにメガネくいっとしようとしているのは、ソラウか。
……うん、胡坐がめっちゃ様になってるネコミミお姉さんは、完全にファムだな。
そんな感じで、何となくわかっちゃうなぁ……。
指摘はしないが。
「うちの中以外だと、誰か呼んでたりする?」
「水城と理衣、絢萌と薫子ちゃん、美須々さん、京奈には渡そうとしたけど、皆に断られた」
「そうなのか」
「水城は、忙しいからだって。理衣は、自分以外の体になるのもうちょっと怖いから嫌だって言ってた」
「ああ……」
「薫子ちゃんは受け取ろうとしたけど、絢萌に『このような物を対価も無しに貰うのは教育によろしくありませんわ!申し訳ありませんが!』って断られた。あと、お詫びにお土産としてカレー貰った」
「何故カレー?」
「作り置きするつもりで多めに作ってたみたい。その代わりに、こんど家にご飯食べに来てって言っておいた」
「そうか、それならよかった」
ふむ、婚約者たち全員に渡そうとしたのか。
でも、来なかったと。
それならそれでいいよ。
逆にモリモリ来られても困るよ。
今みたいに。
「美須々さんは、前に番組の企画で装着した時に、トラブルで故障させちゃったらしくて、大試と一緒に遊びたいけど止めとくって言ってた」
「トラブル?」
「美須々さんの中の魂というか、意識が、それぞれ別々の人格として認識されちゃって、ヘッドギアの処理能力超えたんじゃないかって」
「すごいな……」
まあね……。
何十人も女の子の人格入ってるらしいからね……。
なんなら、スライムもいるからね……。
「委員長は?」
「安倍晴明の怨霊に課題を出されて、それをクリアするために死ぬほど忙しいって言ってた。最初冗談かと思ったけど、目が本気だった」
「そう……」
晴明さん、委員長から怨霊認定されたか……。
まあ、俺もそう思う……。
「あと、玄関にヘッドギアおいてこようとした所にたまたまリリアがいたから渡してみたけど、使おうとしても認識されないとかで無理だったって。サポートされていない人物です、って言われたって言ってた」
「バグか?運営には報告したか?」
「対応中ですとしか言われなかった。対応する気あんまりなさそう」
うーん、もしかしたらリリアのギフトが妖精姫だからかな?
妖精が運営にいる場合、あのギフトでお願いしたら、簡単に要求が通っちゃうかもだし……。
何はともあれ、来ちゃったものはしょうがない。
皆で楽しくゲームやるとするか!
ゲームは楽しくやるもんだ!
だから、部屋の隅で膝抱えてるリスティ様も、もう少しこっち来ようよ……。
「大試様とリンゼ様はやっぱりすごいです!こんなに人脈が広いなんて!」
俺が、新しいギルメンたちと何するか考えていると、脚の上でニコニコしているリジェネが話し出した。
人脈って言われても、皆うちに住んでいるか、ほぼ住んでいるかって奴らだけどな……。
「ごめんなリジェネ。急がなくていいから、本当に急がなくていいから、このギルドハウスの居住スペース、少し広くしてくれないか?」
「畏まりました!」
ニッコニコだ。
本当に仕事を頼むと大喜びするなコイツ。
そういや、コイツも運営の一人だったな?
何かアイディア無いか聞いてみるか。
「リジェネは、これだけギルドメンバーが増えた場合って、何したらいいと思う?やっぱり折角だからみんなで遊びたい」
「それならば、魔神を倒してみるのはどうですか?」
「魔神?」
へぇ?
このゲームの場合、ラスボスは魔王とかじゃなくて、魔神なのか。
ファンタジー物のラスボスは、魔王ってイメージが強かったなぁ。
くらいに思っていたんだけど、その会話が聞こえたのか顔を上げたリスティ様が、マジトーンで会話に入って来た。
「大試、魔神は止めとけ。本気で止めとけ」
「何でです?ゲームとは言え俺達のリアルの身体能力とかが反映されているんですし、何とかなるかもですよ?」
「いや、そうなんだけどよ……。このゲームの中の魔神ってな、そこのバカ真面目な最高位妖精たちが頑張ってゲームに封じ込めた本物の魔の神なんだよ……」
ふむふむ。
ふむ?
「え?本物のってどういう?」
「だから、リアルのヤバイ神なんだって」
「……マジ?」
「マジ……」
マジでどういうことですか?
「リジェネ、説明してくれ」
「リンゼ様に、ラスボスは魔神だって説明されていたので、頑張ったです!」
「……リンゼ?」
リンゼの方を見ると、汗をダラダラ流しながら、誰もいない壁の方を見ていた。
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