第647話

「リンゼ様は言いました!『このゲームのラスボスは魔神よ!魔神を倒した時、プレイヤーたちは真の勇者になるの!』と!だから、頑張りました!」


 俺の脚の上で、ニッコニコのニパリジェネ。

 とりあえず、頭を撫でておこう。


「頑張れば何とかなるもんなのか?」

「準備次第です!魔神は、長生きすればするほど厄介になります!なので、生まれてすぐの魔神を見つけることが重要です!私たちは、魔神が生まれたらわかるようにずっと世界中に探査魔術を広げていました!で、魔神が生まれたので、皆で寄ってたかって聖水をぶっかけまくって、このゲームのプロトタイプをぶつけました!このゲーム、実は使用者の精神をゲーム世界に呼びこむシステムになっているので、弱っている上に半分が魔力で半分が精神生命体である魔神は、一発ですぽっとゲームの中に封印できたのです!どうですか!?偉いですか!?」

「あー……偉いかどうかはわからないけど、すごいとは思うぞ!」

「えへへへへー!」


 魔神とやらは、確かにヤバいんだろう。

 でもそれはそれとして、もしかしてこのゲーム、ヤバい物なのでは?

 精神を何するって?

 いや、考えると怖くなりそうだから止そう……。


「……リスティ様、仮にその邪神を放っておいた場合、何か大変な事になったりします?」

「いやぁ……このゲームが進行不能になったりすることはあるかもしれねぇけど、現実世界には影響無いと思うぞ?だからオレも放置してたんだし……」

「あ、現実世界は大丈夫なんですね」

「ぶっちゃけるとだな、魔神なんて存在は、割とポンポン生まれてんだよ」

「そうなんですか!?」

「年に数回はな。だがよ、リアルで魔神なんて存在に会った事あるか?」

「無いですね」

「だろ?魔神ってのは、何かの存在に何かの影響で魔力が集まって、神格を得ちまった奴の事だ。大抵の場合、その集まった魔力自体に耐えきれなくて、自滅しちまうんだよ」

「えぇ……?」


 そんな大き目の地震位の頻度で魔神って生まれてんの?

 数千年前に1度だけ生まれたとかそんなんじゃなくて?


「でもな、魔神の中にもたまに生き残っちまう奴もいるんだ。そいつらは、アホみたいに強いし、世界全てを破壊する勢いで暴れまわる。体内で暴走する魔力を制御するためには、そうしないといけないんだわ」

「タチ悪いですね」

「まあなぁ……。だから、そこのバカ真面目な妖精たちが1体とはいえ魔神を封じてくれた事自体は、オレとしても褒めてやりてぇとこなんだけどな……」


 そこまで言って、未だに汗をダラダラ流しながら視線を逸らしているリンゼの方を睨むリスティ様。


「そこまでなら良かったんだよ。でもよ……そこのクソ真面目な妖精共は、更に追加の指示まで受けてたんだよ。それが問題だ」

「追加の指示?」

「ああ。まあつまり、『元のフェアリーファンタジーオンライン』の話になるんだがな……」


 リンゼの目線がグリングリン泳いでいる。

 何?

 どんだけヤバイ事言ったんだお前?


「まず、ゲーム内かリアルに於いて100レベル以上のプレイヤーじゃないと、即死するフィールドを張る」

「……あ、そういや、100レベル以上じゃないとまともにプレイできないゲームだっつってたもんな……」

「…………」

「次に、そもそも100レベル以上じゃないとまともに戦えないスペックにする」

「どんだけ100レベルに拘りがあるんだ……?」

「…………」

「んでもって、オンラインゲームのボスって事で、倒されても1時間もすれば復活するようにする」

「あれ?長生きすると厄介になるってさっき……」

「…………」

「そしてだな、ある意味これが一番問題なんだが……。というか、大試に対して重大な威力がある条件というかだな……」

「俺に対して?」


 なんだ?

 魔力を使った攻撃じゃないとダメージが全く通らないとかでしょうか?

 だったら俺はもう観客でしかなくなりますが。


「その魔神の見た目はな、そこのニパと瓜二つな姿になってんだよ……」

「……んん?」

「ハイです!可愛くしたです!そういう設定だったらしいので!」


 話が見えないんだが?


「……それが、俺に何の効果があるんです?」

「お前、自覚ねぇのか!?」

「え?え?」


 リスティ様に問われても、多分ない。

 しかし、よくわかっていない俺とは違い、隣の聖羅は何となく理解できたようだ。


「大試。大試は、小さい女の子には、基本的に優しい」

「そりゃそうだろ?女の子は、守護るべき存在だ。敵じゃない限りはな」

「でも、その魔神ちゃんは、生まれたばっかりの状態でゲームの中に封印された上に、その後も多分誰も挑める所まで行っていない。行ったとしても、別にゲーム内で倒された所で、普通は死なずにリスポーン?とかいうのをする」

「そうだな」

「別に悪いことしたわけじゃ無い小さな女の子を大試は殺せる?」

「無理だわ」


 はい、解散解散。

 可哀想なのは嫌いなの俺。

 可哀想な展開を続ける少女マンガとかすぐ読めなくなっちゃうタイプなの俺。


「大試様は、小さい女の子相手だと、理由も無く戦うことはできないんです?」


 脚の上のリジェネが、そんな事を聞いてくる。


「そりゃそうだろ」

「わかりました!」


 何を?

 と聞く前に、リジェネが消えて行った。

 ログアウトしたのか?

 よくわからんが、まあいいや。


「リンゼ、常識を持たない働き者に仕事投げっぱなしにするのは、かなりリスク高いと思うんだ」

「アタシだってそこまで投げっぱなしにするつもりなかったわよ!でも、人間にされちゃったし……」

「オレも、最初の方は、世界の運営ってもんに不慣れでなぁ……。気が付いたら、とんでもない事になってやがった……」


 この女神2柱、可愛いけれど、可愛さだけじゃ許してあげられないこともあるんだぞ?

 とりあえず今回は、可愛いから許すが。


 なんて思っていたら、すぐにリジェネが戻って来た。


「いきなりいなくなったけど、どうかしたのか?」

「ハイです!魔人がログアウトできるようにしてきたです!1時間以内に倒さないと、魔神が現実世界に戻ります!倒すしかないです!」

「なるほどなぁ」

「あと、私たちが組んだプログラムを簡単に書き換えられるリスティ様は、2時間アク禁にさせてもらったです!」


 いわれてみれば、いつの間にかリスティ様居ないわ。

 ……それで、えーと?


「リンゼ、どうしたらいいと思う?」

「…………」

「大試のカッコいいところ、見たい」

「殴れば倒せるでしょうか!?」


 視線が泳ぎすぎて白目を剥いているリンゼ。

 キラキラとした目をこちらへと向けている聖羅。

 キラキラとした目でシャドーボクシングをしている有栖。

 その他、とりあえず戦う事に対して前向きな始めたばかりでレベル1の皆さん。


 誰だ?

 ゲームで世界を救う展開なんて考えた奴は?

 ポコポコ世界壊そうとしてんじゃねぇよゲームのボスたちさぁ。


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