第618話

「大試、紅葉が奇麗だね」

「そうだなぁ……。開拓村の周りの樹も紅葉は奇麗だったけれど、のんびり楽しめる程温い環境じゃなかったからなぁ……」

「うん、ちょっと森の中歩くだけで、魔獣が襲って来てたからね」

「ここも、本当ならそうなハズなんだけどなぁ」

「全く襲われないね」

「寧ろこっちから襲いに行ってるからな」


 秋の味覚が美味しい季節となりました。

 そして今年も届きましたあの招待状。

『ドキドキ!秋の味覚祭りイベント開催のお知らせ』と書かれた、どこからやって来ているのかさっぱりわからないハガキ。

 ドキドキ!秋の味覚祭りイベントとは、特殊な地上型ダンジョンが発生し、そこには、秋の味覚をドロップするモンスターが湧き出てくるという有りがちな物だ。

 去年は、ソラウがボスとして発生し、死にかけながらもなんとかクリアしたこの秋の味覚を存分に収穫できるイベント。

 元になったゲームだと、100レベル越えが前提というオンライン版のみに存在していたらしく、この世界基準だと地獄のような難易度となっている。

 そのため、一応誰でも入ろうと思えば入れるっぽいんだけれど、入場制限をかけている。

 つまるところ、100レベル越えじゃなければ入っちゃダメって事だ。

 まあ、100レベル超えている人間が複数集まっているとこにしか招待状も届かないらしいので、一般の家庭はこのダンジョンの存在すら知らんだろうけれど。

 とはいえ、うちの家族というか、うちに滞在した人間は、お手軽に100レベルに成れるというとんでもない状態なので、我が家周辺には参加資格を有する者が多い。

 そうなると、どういうコトになるかといえば……。


「あ!あれシオリがもらう!えい!」

「ぬお!?ワシもあの栗を狙っていたんじゃぞ!くっ!小癪な!」

「このアキアジは、このリコが討ち取った!チャンチャン焼きにする!」

「シシャモなのです!本物のシシャモなのです!カラフトじゃないのです!」

「柿美味しい!リリアも食べる?」

「ありがとうございます!んん……!これは本当においしいですね!」

「余が倒した蜘蛛から、タラバガニの脚がドロップしたのだが、蜘蛛はカニなのか?そもそもカニは秋の味覚なのか?」

「ベティ!あのリンゴの化け物を狩りますよ!きっと弟にピッタリな真っ赤な林檎をドロップしてくれるはず!そしてプレゼントすれば、きっと私の目に入ってくれるでしょう!」

「ご主人様、リンゴ好きですかね……」


 とまあ、美女や美少女たちが入り乱れて、魔物がリポップするたびに即死させているという、いわばリスキル状態となっている。

 ある意味、物凄く安全なダンジョンだなココ……。


「おやおや、皆さんやる気満々ですね」

「お帰りソラウ。ボスはどうだった?」

「やはり、私がダンジョンの力を勝手に使い続けていたせいで、ボスに関してはかなり弱体化しているようですね。無視でよろしいかと」

「そうか、わかった」


 白川郷リゾートで提供する食材を確保するために、ソラウがダンジョンボスだった経験を活かして作ったダンジョン。

 そのダンジョンを運営するエネルギーは、実はドキドキ!秋の味覚祭りイベントのダンジョンから勝手に引っ張って来た物だったらしい。

 といっても、そこらの雑魚敵に関して言えば、何の問題も無い程度のエネルギー盗用らしいんだけれども。

 影響があるのは、ソラウと同じようにこのダンジョンのボスを生み出すためのエネルギーだ。

 それを勝手にソラウが使っていたため、今このダンジョンのボスは、ソラウと比べるとかなり弱いらしい。

 実際に確かめに行っていたソラウが無視して良いというくらいだから、本当に弱いんだろうな……。


「まあ、無理して倒したとしてもドラゴン肉がドロップするだけだろうし、敢えて倒しに行くことも無いか」

「おやおや?私の肉は、お口に合いませんでしたか?」

「いや、美味しかったけど、そう言われると抵抗があるだろうよ……」

「何なら、今この場でまた尻尾を提供しても良いのですが?」

「良くねぇよ」


 どうしてこうもこいつは俺に尻尾を食わせようとしてくるのか?

 まあ、体の他の部位だと再生しないからかもしれんが……。

 あれ?肉を切り取った後、聖羅が回復させたら、切り取った肉ってどうなるんだろう?


 怖い事を思いついた気がするから、考えるの止めておこう。


「それで、何をされていたのですか?」


 しばらくここを離れていたソラウが、俺の姿をみて疑問に思ったらしく、そんな事を聞いてきた。

 何って言われてもな……。


「炎出してた」

「それで何をなさっているのです?」

「俺は、炎を出しているだけだ。実際にすごい事をやっているのは、リンゼだな」

「ではでは、リンゼ様は何をなさっているのです?」

「俺の出す炎を魔術で操って、芋を焼いている」

「おやおやおや……」


 俺は、右手に持っている剣から横に伸びている火柱の先を見る。

 そこには、必死の形相で炎を操り、30トン程のダンジョン産サツマイモを焼くリンゼの姿が。


「今話しかけないで!気が散ると、このサツマイモが全部灰も残らず消えるわよ!」

「だってさ」

「リンゼは、甘い物の事になると割と本気になる」

「ほうほう、何はともあれ、焼き芋が楽しみですね」

「きゅるるっ」


 俺と、聖羅と、ソラウと、ソラウに抱かれているなんか知らんトカゲの4人は、地獄の業火に焼かれる芋を見てルンルン気分で待つのだった。




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