第616話

『皆さんこんにちは。今週も始まりました美須々ラジオ、パーソナリティは私、美須々がお送りします』


(OPと提供~20秒~)


『今話題の方と私が対談するこの美須々ラジオも、今回で5回目です。最初は、素人っぽい雰囲気も隠せていませんでしたけれど、最近は多少スキルが上がってきている気がするのですが、皆さんからするとどうでしょうか?』


(笑い声)


『はい、プロデューサーがスタジオの外で大笑いしているので、この話題は一旦辞めます!今日のゲストは、ここ数週間で一気にトップコスプレイヤーとなった麒麟児、KIRIKAさんをお呼びしております。KIRIKAさん、本日はよろしくお願いします』

『よろしくお願いします!』

『早速ですがKIRIKAさんは、コスプレに対してとても強い信念があると聞いているのですが、その辺りを教えて頂いてもよろしいでしょうか?』

『はい!といっても、これを語るとなると、私の過去も教えないといけなくなるので、少し恥ずかしいんですけどね……』

『過去ですか?』

『はい。実は、私って、最近みたいに皆さんから話題にしてもらえるようになるまでは、とにかく露出する事が一番だって考えに憑りつかれていたんです』

『露出……というと、下着とかまで出してしまう感じでしょうか?』

『いえ、もっと酷いですね……。といっても、流石に大事な所は、見せたことありませんよ?』

『下着より酷いって……えぇ?』

『本当に、どうかしていたんです……。最初は、SNSにコスプレ画像を上げていただけだったんですけど、それを見た方々から、もっとエッチなのが観たいって言われて、私も自分が認められているような気がして、舞い上がっちゃって……。気が付いたら股間と乳首さえ隠してあれば、後は全部出して行く感じになっていまして……』

『それはまた……随分と大胆な事になっていたんですね』

『アレは完全に病気ですね。我ながらそう思います』

『でも、今はそんな感じしないですよね?むしろ、衣装の着こなし方が話題になっていると聞いているのですが?』

『そうなんです!そうなったのは、ちょっとした切っ掛けがあって……』

『切っ掛けですか?』

『はい!美須々さんは、ピリカマーケットという同人誌即売会の事をご存知ですか?』

『知っていますよ。私のかぞ……知り合いが、そのイベントの関係者なんです』

『そのピリカマーケットに、私も参加していたんです。と言っても、コスプレコーナーでコスプレしていただけで、同人誌を売ったり買ったりと言う事はしていなかったんですけど』

『コスプレイヤーさんが多いって話は、聞きましたね』

『そして、そこでも私は、あの頭のおかしいコスプレ……コスプレと呼んでいいのかもわからない痴女みたいな恰好をしていたんですよ』

『それはまた……』

『正直、黒歴史ですよ。あはは……。そこで、自分がどんな風に言われているのか気になって、その日のピリカマーケットの話題をネットで検索していたんです。そしたら、なんだかすごい話題になってるサークルさんがあって、自分を差し置いてコスプレで話題になっていたものですから、ちょっと嫉妬してしまい、チョッカイを掛けに行ったんですよ。最悪ですよね?』

『厄介ですね!』

『でしょー!』


(笑い声)


『実際に行ってみたら、本当にすごいコスプレの売り子さんが2人いて、どちらもすごい美人だってわかるのに、それを活かすつもりもない、ホラー全開だったんです。だから、「ネタで話題になってるだけだ!」って騒いじゃって……』

『で、怒られたんですか?』

『ガン無視されました!』

『あらら!』


(笑い声)


『それで、無様にプリプリ文句たれてた私だったんですけど、いつの間にか近くに、売り子さん2人の後ろで死体役してた方が近寄ってて、「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ……」って言いながら襲い掛かって来たんです!』

『襲われたんですか!?』

『はい!怖かったですねあれは!でも、実はその人のおかげで、今の私があるんです!』

『どういうことですか?』

『その人は、私に噛みつくふりをして、噛み跡みたいなメイクを素早くしてくれたんですよ。ゾンビに噛まれたみたいな感じです』

『ゾンビ?あの映画とかのですか?』

『そうですそうです!噛まれたら、自分もゾンビになっちゃうアレです』

『へぇ。体に勝手にメイクされたら、流石に困りますよね?』

『普通ならそうなんでしょうけど、あの場所は、そう言うのが大好きな人が多かったんですよ。もちろん、私もです!』

『あー』

『……というかですね、私って元々、そう言うのが好きで、そんな作品のキャラに成り切りたくてコスプレを始めたんです。彼に襲われて、それを久しぶりに思い出して、痴女みたいな恰好をしている自分が恥ずかしくなっちゃって……』

『痴女みたいな恰好をしている時点で恥ずかしさを感じてなかったんですか!?』

『あんまり感じてませんでしたね!寧ろ見て!ってくらいでした!』


(笑い声)


『しかも、その彼なんですけど、私にメイクした直後、自分が着てたシャツを私に着せてくれたんです。服を脱ぐようにばっかり言われてた私にですよ?それだけじゃなく、彼のシャツの下もすごくて。本来ほとんど見えない筈の服の下なのに、ゾンビになってしまった被害者のメイクがされてた事もビックリなんですけど、腹筋とか胸板もバッキバキでカッコよくて……鎖骨も美味しそうで……。そこで私、その……ドキッとしちゃって……』

『あれ?もしかして?』

『はい、恋しちゃいました!』

『わー!』

『多分あの人からしたら、ほぼ全らの私を気遣っただけなんでしょうけれど、私からすると、もう……初めての体験で……』

『初めてですかー』

『そうなんです。それだけならともかく、ほぼ全裸だった状態よりも、その後シャツを着せられて、ヨロヨロとゾンビになりかけみたいな演技をしている時の方が、私の写真を撮りたがる人達が多かったんです!』

『へぇ!』

『着エロ?っていうんですかね。むしろ着ることで性的に見えるらしくて。その事に気が付いた時、私は、もっと着ていくべきだって思って……。それ以来、私のコスプレは、ただの痴女みたいなものは絶対にしなくなりましたね。痴女っぽくても、サキュバスっぽいとか、そういうストーリーを作れる物にしました。それ以外は、むしろ厚着になりましたよ』

『私もお姫様みたいなドレスを着ている写真見たことありますよ、奇麗でしたよね』

『本当ですか!?ありがとうございます!あのゾンビの方に会って以来、撮影される時の心構えも変わってしまったんです。彼に見てもらいたいな……って思うようになって……。そしたら、皆さんからの反応もすごくよくなって、いつの間にかトップコスプレイヤーなんて言ってもらえるようになっていたんです』

『因みに、その男性とお付き合いなどは?』

『してないですしてないです!そもそも、誰なのかもわかりませんし……。ただ、私が勝手にあの人が好きだなって思ってるだけで……』

『え?そういうコトここで言って良いんですか!?自分がその男性だって言いだすファンの方々多いんじゃ……?』

『心配ありません!彼はきっと、そんな事を言ってくるような人々の中にはいないので!』

『すごい理論ですね!』


(笑い声)


『いつか、あのゾンビさんが、私を白馬で迎えに来てくれないかなって期待しているんです。痛い女でしょう?』

『いえいえ、私もそういうコトがあ……そういうのに憧れがありますし、女の子だったら当然だと思いますよ』

『そうなんですか!?じゃあ私たち、ゾンビ仲間ですね!』

『ゾンビは嫌ですけど!』

『ですよね!』


(笑い声)


『そろそろ終わりの時間なんですけど、KIRIKAさんから最後に何かあったらお願いします』

『はい!えっと……ゾンビさん!大好きです!いつかまた会いましょう!』

『うわぁ……熱烈ですね!』

『なかなかこうやって大々的に言えるチャンスないので……』

『では、私たちもちょっとだけ協力しますね。もしゾンビさんに心当たりがありましたら、当番組当てにメールをお願いします!』

『お願いします!』

『美須々ラジオ、今日はこの辺で!パーソナリティは私、美須々。ゲストのKIRIKAさんでお送りしました!ありがとうございました!』

『ありがとうございました!』

『また来週もお楽しみに!せーの』

『『おやすみなさーい!』』


(EDと提供~20秒~)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る