第2話
「おかえり。どっかいってたの遅かったね」おかあさんが帰ったらいう。遅いといっても五時すぎだ。五時は十何時だろう。アタシはそう思いながら。
「アルバイトの面接にいった。明日からコンビニでバイトする。面接して採用されたから明日からバイトする」
「はぁ。アンタがアルバイトなんか無理に決まってるでしょ。おかあさんあやまってくるから、どこの店で」今日面接に行くともアルバイトをするしたいともおかあさんにはいっていなかった。なにを誰になんで謝るの。まだ働いてもいないのに。
「おかあさん履歴書ってしってる。アタシ書いたんだ」アタシは胸を張った。ちいさな胸を精一杯。はじめて書いた履歴書。アタシひとりで書いた履歴書ではないが採用された。「おかあさんはあやまらなくていいから」上からいった気がするがもうしわけないよりテンションが上がる。めすらしくいつもいないのがあたりまえのおとうさんもいたので。
「おとうさんはアタシがアルバイトをするのは反対」訊いた。
「桜子がアルバイトか。おとうさんは想像したこともなかったな。でもやってみてたらいいんじゃないか。でもやめるときはちゃんと連絡してやめます。それは先方にはいういうんだぞ」
いや、明日から働くのになんでやめるのが前提でいう。まぁいいか。アタシも今日の今日でアルバイトができるとは思ってもいなかったのだ。
「アルバイトの話はあとで訊くから早く着替えてきなさい」
「は~い」専業主婦のおかあさんアタシがアルバイトをすることは、もしかしたらくやしいのではないか専業主婦だから。そんなことをかんがえたらアタシはちょっと気分がよかった。
「めずらしいね。おとうさんがこんな時間に家にいるのは」時刻は六時すぎ晩御飯。十何時だろう。いつもよりはやい夕食。おとうさんがいるからだ。
「ご飯食べたらでないといけない」
「事件」
「そうだ」
どんな事件おしえて。いつもおとうさんはおしえてくれない。だからアタシは、もうしつこくしない。
「そんなことより。アンタホントにアルバイトなんか。なんで急に。お小遣い月三千円いつも余ったって返してくるのに」と母がいう。
おとうさんは警察官だ。事件というのは犯罪だ。おおきな事件なら尚更ちいさな事件でも加害者も被害者も一生つきまとう。事件とはそういうものだ。それをアタシがアルバイトをはじめる。事件とアタシがアルバイトをする。それはそんなことよりではけっしてないのだが。
「将来を見据えてコンビニで働きます」
「将来っていまはなんとか学校行ってるけどアンタに就職なんかできないでしょ。だったらうちにいればいいでしょ」おかあさんはアタシがなにもできないとしっている。おかあさんはアタシよりアタシのことはわかっている。
「でもね。ダメもとでアルバイトしたいんですけどって店に入ったら履歴書かいてくださいっていわれて書いたら学校帰りにシフト入ってくれたらおもいきり助かる。明日から毎日でもいいよっていわれたんだ」アタシは話を盛って面接の話をしたら。
「桜子。明日休むなら遅刻するならちゃんと先方に連絡しろよ。それにやっぱ無理なら先方にはちゃんと連絡するんだぞ」おとうさんは警察官だ。だから慎重なのだ。
「わかってるよ」
「じゃあおとうさんは仕事にいってくる」おかあさんの得意の大好きな鍋焼きうどんを食べたおとうさんが立ち上がる。
「ちょっとまっておとうさん。」アタシはまだ半分も食べてない。「おとうさんは朝から夜まで。寝ないでお仕事してる日もあるでしょ。でも面接で聞いた話だと一日にちはたらくのは三四時間くらいなんだけど、そんな短い時間で時給もらってもいいのかな」
「あたりまえだろ」立ち上がったおとうさんは「はじめはなにもできないだろうけどちゃんと店長や先輩の話を訊いて早く仕事を憶える。それが桜子の仕事だ」
「わかった」
「じゃあいってくる」
「うん。気を付けてね」アタシはおとうさんに手を振った。
「それにしてもね。アンタがアルバイトをするなんてね」おとうさんを見送ったおかあさんがいう。「もしかして高校卒業してどっかに就職してもつづかない。すぐに辞めるからそのあとをかんがえてなの」
「なにそれ」そのとおり。さすがおかあさん。アタシをしっている。
「家にいたらいいのよ。」
「引きこもりになりたくないの」
「今もそうでしょ。ちゃんと学校は行ってるけど毎日おなじ時間に帰ってきて日曜日と祭日もずっと家にいるでしょ」
「コンビニに行くことはあるよ」
「アイスやお菓子買いにいくだけでしょ。日曜日は図書館に毎週通ってる。まぁ引きこもりよりはマシな生活をしているレベル。毎週そうでしょ」おかあさんはアタシのことはなんでもしっている。
かといってアタシには反抗期はない。ネットや雑誌で中高生のむずかしい年ごろの娘の反抗期。アタシには意味がわからない。おかあさんが毎日ご飯を作ってくれる。洗濯掃除もしてくれる。おとうさんが毎日仕事をして給料をもらう。それで生活ができる感謝しかない。おとうさんとおかあさんがいないとアタシはなにもできない。それくらいはわかっているつもりだ。
ありがとな。たった一言それだけでアタシはしらなかったことがたくさんあることをしった。 @aidol
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