剥げたシールにいつかの家族を見つめてた。

神永 遙麦

剥げたシールにいつかの家族を見つめてた。

 たまたま近くに来たレンは実家に寄ることにした。

 たまたま両親も末妹も不在だった。父は仕事だとして……。冷蔵庫のホワイトボードを見ると、「ママはノエルとフランス(来月の28日まで)」と書かれている。


 レンはハァとため息を吐くと、自室に向かった。少女時代にリアと使っていた部屋だった。

 壁には所狭しと写真やポスターが貼られている。リアが集めたお気に入りの女優の写真、レンが撮った風景写真が貼られており、日に焼けたせいかやや色褪せていた。

 レンはベッドに寝転がり、仮眠をとった。長時間のフライトと時差ボケで限界だった。とりあえず1時間寝よう、そのあと夕ご飯を調達。

 8人兄弟だったが、気がつくとこの家に残ったのはノエルと両親だけ。父も母もノエルも不在の今、この家に残されているのはガランドウの空間だけ。そんな騒がしさとは無縁となってしまった実家でレンは眠った。

 旅慣れた体のせいか本当に1時間で目を覚ますと、レンは部屋を出た。


 あくびをかきながら、部屋の表札を見ていると輝夜の部屋が目に止まった。輝夜は3歳年下の気に入りの妹で、今は沖縄を拠点としている。表札には「KAGUYA」という名前とイルカの絵が彫られていた。

 一応、ノックしてから入った。輝夜の部屋は何年か前に見た時と変わらなかった。いや、よく見ると窓下のラックに見慣れない小物が置いてある。小瓶に詰められた星の砂と、お気に入りのミュージカルを模したぬいぐるみが置いてある。

 ベッドの足元の壁にはミュージカルの切り抜き写真が所狭しと飾られている。ベッドのフレームには色が剥げて何なのか分からなくなったシール ——昔流行ったゆるキャラのシールだった——。


 何も考えず、シールの淵をカリカリと引っ掻いた。だが10年以上貼られていたシールは、簡単には剥がれない。

 レンはハァと息を漏らした。輝夜が覚えているかは知らない、だけど私は輝夜がこのシールを貼った日のことを覚えている。

 葵が買ったお菓子のおまけを恵んでもらった。それがこのシールだった。 ——シールをあげる時、葵はちょっと嫌そうだった——。


 もしも昔に戻れたら……。らしくもなく、レンは思った。

 もう大人だからこそ、行きたい時に行きたい所に行けるのだと分かっている。だけど、今はただ懐かしい。

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剥げたシールにいつかの家族を見つめてた。 神永 遙麦 @hosanna_7

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