第2話

「明日から期待しててくださいね、薫さん♡」


 どこか悪意のあるような笑顔でそう言ったシエラが脳内に映し出された。


 ああ、もうその次の日がきてしまった!!


 現在、俺は制服に着替えて、学校に向かう最中。

 うちは、母と妹の三人で暮らしているわけだが、まだシエラのことは言っていない。

 というか、言えるはずがない。

 なんて言えばいいんだ。


「シエラ、絶対に誰にも見つかるなよ!」


 家を出る際、俺はシエラにそう忠告をしておいた。


「ええっ、私のことをご紹介してくださいよ」

「んなことできるか!!」

「まあ、いいです。私も、透明マントを使ってあなたの隣を歩くので」


 そんなドラえもんのような秘密道具を持ってんのかよ。


 実際、シエラは異空間から目には見えない何かを取り出した。

 どうやら、この見えない何かこそが透明マントのようだ。


「す、すげえ……」


 シエラはそれを被るや否や、姿が消えた。


 てなわけで、今、俺の隣には見えないがシエラがいるわけだ。


 俺は周りに変に思われないために、小声でシエラに話しかけた。


「本当に今日からモテ期なんだよな?」

「そうですよ、薫さんからはモテ期の匂いがぷんぷんとします♡。ああ、とろけてしまいそう///」


 モテ期の匂いってなんだよ。

 つーか、喘ぐな!!

 朝から興奮するだろーが。

 はあ……。


 なんだか、昨日、あんなにも衝撃的な現場を見たというのに案外落ち込まないもんだなあ。


 モテ期だというのに、そんな感じが一切しない。


「具体的にはモテ期ってなんなんだ」

「モテ期ですか、モテ期は、名前のまんまですよ。めちゃくちゃモテる期間ですよ」

「振られてるんだぞ、モテるはずじゃないか?」

「ちちちっ、薫さんそれは違いますよ。むしろ、それがトリガーになってモテ期になってます」


 どういうことだろうか。

 シエラのいうことがさっぱり意味がわからない。


「薫さんが別れたという事実が広まり、今まで薫さんが付き合ってたから我慢していた女の子たちが、薫さんにアタックしてくる!! そういうわけです。その数はまさに無限!!」

「いやいや、流石に俺はそこまでモテるはずないだろ?」

「さあ、それがどうでしょう……」


 シエラの表情が見えていないというのに、ニヤけているのがめちゃくちゃわかる言い方だった。


 シエラの言った言葉は、すぐに実感することとなった。


 学校に着き、上靴へと履き替えるため、ロッカーにローファーを入れようとした時、中からは一枚の手紙が出てきた。


 こ、これは……。


「ずいぶん古典的なやり方ですね」


 ラブレター!?


 おいおい……。


 慌てて、ポケットに手紙をしまった。


 やっべ。

 これ完全にラブレターじゃん!!


「私の言った通りでしょう、すでに、薫さんが別れたことは薫さんのことが気になっていた女の子たちの間に広がっているはずです」


 まじかよ。

 すげえスピードで広まってるな。


「とりあえず、中身を確認しましょう」

「だ、だな」


 ということで、俺がやってきたのは男子トイレの洋室。


「あ、開けるぞ……」


 赤いハートマークのシールで留められていた手紙を開けると、中には山折の手紙が一枚と……。


「なんだこれ……」


 一枚の布……黒色、バラ柄……。


 俺は一瞬にして顔を真っ赤にした。


「パンツ、ですね」


 それは、パンツだった。

 それも、めちゃくちゃ生温かい。


「いかにも脱ぎたてほかほかですね」


 こ、これがモテ期なのか?

 やっべ、最高すぎだろ。


 手紙を読んで知ったことだが、このパンツは俺が手紙を手にするちょうど一分前まで履いていたパンツだった。


 モ・テ・期・最・高・⭐︎!!

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カノジョを寝取られた俺に何故かモテ期が到来したんだが? 今更復縁なんて無理に決まってるだろ? さい @Sai31

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