第三章 陰陽・人形・祓
第十五話 陰陽連
「マジで疲れた」
「おっつぅ〜」
一番忙しい金曜日。
補修を済ませ、なんとか家に帰る。
先にスマブラをじいちゃんとするリン。ここは君の実家か?と突っ込みたくなってやめた。
「過労死せんように気をつけるんじゃよ」
「あんまイジんないで」
どさっ、と重い教科書を部屋に置く。
音にびっくりしたハタゾンビが飛び起きてしまった。
「ナマリ!?」
「ごめんごめん。鉛じゃないよ。これ僕のカバンの音ね」
「それ、背負うの止めた方がヨイ!」
「ごもっともです」
すぐに涼しい服に着替える。
汗でべちょべちょの服を洗濯機に放り込んで、帽子を被る。
「あれ、もう行く?」
「気になるじゃん。モモの入学式」
あれから数日が経って、相生兄妹は施設に入り、モズは人間としてこの街で暮らし始めた。
「
「どっから来たの〜?」
「森から!!」
「…あれって大丈夫なの?」
「まぁ、思ったよりダイナミックな自己紹介だけど、みんな面白がってるし…」
林百。
やっとのことで知ることができた、彼女の本名。コウスケが役所に何度も電話をして知ることができた。
「ここって、児童養護施設なんだよな?なんか…すげぇ和風だよな。昔の家みたい」
「そうそう。もともと神職につく人達の宿舎だったらしいんだけど、神社自体が随分前に火事で無くなっちゃったみたいで」
「あらひどい」
山を降りる道路の横道にある、この養護施設。
すぐ街へ行く事ができて、とても便利な立地。あと、森が背後にあるから、夏でも比較的施設の中が涼しい。
ツツジの植木を通り過ぎて、フェンスで仕切られた敷地に入ると、朝顔がたくさんおいてある縁側が登場。
簾の中にいる子供達は、遊んだり昼寝したり、自由に過ごしていた。
「田舎だから心配だったけど、こんなに良い施設があって良かったよ。子供も少人数だし、人馴れしてないモモも安心してた」
「だな」
リンはにこにこしながら、そこら辺にいた蝉を服にくっつけた。
僕のシャツにも、そこら辺にいたカブトムシをつけてきた。
「そこの蝉うるさいぞー」
「思ったより元気だなぁ、こいつ」
セミを剥がそうとして、ジウジウ耳元で鳴かれる。
そうして、自分達がわちゃわちゃしている間も、モモは着実に皆と仲良くなっていた。
「…なんだかんだコミュ力はあるよな、アイツ。ほんと、初対面のお前と比べると雰囲気からして違うもん…」
「僕は極端な例だろ。他の人と喋れなくて、筆談までしてたんだから…」
「おまえっ、よくここまで…!!成長したんだなぁ」
「うっさいんだよぉ」
肩まで登ってきたカブトムシが、ぶーんと飛んでいった。
さっきまで居た木とは違う、セミの大量についた木に着地した。
「…てか、こういう施設って、何歳まで居られるんだっけ?」
「んー、特に決まってないって。施設自体の年齢制限は、ちょっと前に撤廃されたしね。ちゃんと自立できるところまで、施設側がサポートしてくれるんだよ」
ほー、とリンがうなずく。汗がぽたぽた髪から落ちた。
「初めて知った。そうかぁ。モモも、これから社会に出ていくことになるもんな」
「うんうん」
「三浦も早く独り立ちしてほしいわ」
「ふふふ」
「へへへ」
けらけら笑っていると、後ろから人影がのびてくる。
「ん?」
「お前らぁ、そんなとこでなにわらってんだぁ?」
「お゙おおお」
頭を拳でぐりぐりされる。リンがもう二段階笑いのギアを上げた。
「いでで。なんでこんな所にいるんですかぁ」
「仕事帰りに、ちょうど相生のガキンチョと会ったんだわ。ほら、あそこにいるぜ」
「えへへっ、それマジー?」
リンがぴょぴょーんっと、施設の後ろの小さな庭に飛んでいった。
そこには、コウスケとリノちゃんと、そしてモモがいた。
「師匠!」
「ししょー」
「ははは!お前ら元気か?」
相変わらず自分のこと師匠と言い張ってんのかコイツは…。
テスト補修組に二人で並んでたじゃないか。まったく調子の良い奴め。
「ねぇねぇ!あれやってー」
「やれやれ!」
「いいぜ」
モモとリノにせがまれて、連続逆上がりを披露するリン。
キャハーっと笑う子どもたちを見て、リンもガハガハ笑っている。
「アイツ、子供好きだよな。ハタにもすごい甘いし」
「いい奴なんですよ、単純に。お年寄りと子供喜ばせるのが趣味だって自負するようなヤツですよ?困ってる人がいたりすると、必ず僕より先に動くし。ほんと主人公」
「ジャンプマンガの主人公だな…」
モモとリノが仲良く追いかけっこをしているのが見える。
相生兄妹といつの間に仲良くなったのだろう。
「歩いてる時、相生のガキンチョに教えてもらったけどよ。モモちゃん、リノを自分の妹みたいにかわいがってあげてるみたいだぜ。同じ孤児院で暮らすことになったのもあるけどよ。本当良い子なんだな。モモちゃんは」
「…そう。よかった。本当」
モモは、僕よりよっぽど強いヤツなんだ。
「そうだ。お前今日暇か?」
「はい。これから、ハタゾンビと遊んであげる約束してて」
「おおそうか。…んん゙」
「良いですよ。言ってください」
若干申し訳無さそうに、三浦は俺にこそっと耳打ちをした。
「…それ、本当に僕で良いんですね?」
陰陽連。
東京都庁の地下に存在し、国から正式に任命された陰陽師の職員が在籍している。
なので、れっきとした国家公務員であるのだが、いろいろな成り行きから最近都庁に場所を移した。
内部構成が非常に雑なことで有名。大昔の陰陽寮とか言う役職が転じて『国家防衛的』な役割を持ち始めたことから陰陽連と名がついた。
つまりは、よくわからない役職。
「ううー、最近あつすぎんか!日焼け不可避なんだが」
「しょうがないよお。チキュウオンダンカ?いろいろ大変じゃん」
「あーもうムリ!!シロ〜!日傘貸してっ」
「やだね〜。リュウちゃんがガングロギャルになりなよぉ」
「ひどーい!」
職務内容。神と人間と妖怪のこと、大体全部。
障り神の封印。魂と肉体の研究。祓い屋と地方団体との仲立ち。
信仰をなくした神魂の定常化。教育機関へのカミサマ教育。交通機関を通す時の地鎮祭取締。
神と人間の生活を結ぶ、大切な役割を果たしている。
「…一般人からしたら、なんか胡散臭い団体だよねぇ、私達。また税金泥棒ってつぶやかれてるよぉ」
「はあ!?これでも立派な公務員だぞ!!私達は陰陽っぽくない仕事ばっかさせられてんのに、係員にばっかりアンチ湧きすぎでしょ!」
「ホントだよぉ。上の人はいいよね、市民の前に出なくていいし、会見で良いこと言うだけでいいもん。こちとら面接にやってくる中二病男子さばくのでせーいっぱい」
面接倍率0.2倍。就職人数は、良くても三十人以下が限界。
優良物件とは、口が裂けても言えない。
「はあーあ。なんか良いことおきないか…」
「
「そうなんですかぁ?今日って休日ですよねぇ」
「いやだ!休日出勤は事務作業しかしてやんないぞ」
「そうもいかない。相手は学生だからな」
「学生ィ!?」
休日出勤。命がけ。有能な働き手不足。
「はじめまして。九条朔太です。九条家から派遣された、陰陽連仮所属の祓い屋です。地方でやらせてもらってます」
「おお姉ちゃん達か。今日はよろしくな」
「三浦さん。今の御時世、そういうのあんまり良くないですよ」
「え、どこらへんが」
子どもとヤクザだーーーーーーー!!!!
落ち着けリュウ。最近の祓い屋はどうなってんの?とか、死んでも口走るんじゃないぞ。
兎にも角にも、私じゃこの情報量は捌ききれない。シロ、シロ…!
「あめちゃんいるぅ?」
だめだ、今世紀最大のダメ対応しちゃった!!!
これあれだよ、子供(多分高校生)くらいの逆鱗ふれちゃうよ〜??目もキツネみたいだし、センター分けだし!怖いよっ
「あ、それ美味しいやつだ。ありがとうございます」
「いいな〜。それ俺にもくれよ」
「わ、おとなげない」
「あっ、持ってきますねぇ!リュウちゃん、ここよろしくぅ」
あ、あれ
…満点叩き出したァ〜?
これでいいのかよ!!!ってか、私をナチュラルに囮にしたな、あンヤツは…
「リュウさんっていうんですね。はじめまして。こちらの要件は通っているでしょうか?」
「あっ、ええもちろん!!…少し資料を確認させていただきますね」
「おねがいします。三浦の同僚のことでして」
「なるほどです〜」
やばい、ガチガチの休日だったから、資料読むの後回しにしてたぞ…。
てか、要件的には後ろのヤクザがメインなんじゃないか?なんで高校生まで…
「えっとぉ…」
『成瀬隼人。松本アイサ呪言殺害事件の共謀罪及び鯨崎家への過度な干渉。道東山モズ騒動において、九条朔太を殺傷未遂。現在、東京都庁陰陽連の地下三階安置室に遺体を保管中』
「成瀬隼人様のご遺族の方で…よろしかったでしょうか」
「はい。この三浦です」
「うっす」
最近起きた、結構やばめな事件の羅列。
祓い屋一族の中でも、かなり秘匿性の高い鯨崎家と九条家での大きな騒動。
なにより九条家は、ウチと提携している祓い屋の中でも、上層部しか細かい情報の提供を許されていない。いわばブラックボックス。
極めつけは、現在陰陽連をざわつかせている『近衛会』というヤクザの集団。
「成瀬の遺体を調べてほしいと、陰陽連の方から依頼を受けました。案内をしてほしいのですが、安置室の取り締まりをしている方に通していただけませんか?」
「…私達です。責任を持ってご案内させてもらいます」
第十五話 陰陽連
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