第三話 操り人形
「逃げるんです。ほら、早く立って」
そう言われた鯨崎さんは、すごく辛い表情をしていた。
だって、そりゃあそうだ。
騙された自分のために、死んだ人が居る。これだけでも、胸が張り裂けるような思いだろう。
アイサが死ぬことをテレビの前で予言しろと、多分言われたのだろう。
これからの失踪の理由付けには、もってこいだし。
「ハタゾンビ。今から敵が2人ほど来るけど、対処できるかな?」
「ウンウン!!ボクにまかせといてヨ」
「偉いね〜!帰ったら一緒にスマブラしようね」
「ハァーい!」
ヤクザが僕の鼻を騙してまで、僕を殺そうとする理由も、なんとなく分かる。
僕らが居ちゃ、これからやろうとすることに支障が出るのだ。
鯨崎さんを利用してまで始めたかった、なにかに。
「その子は…?」
「僕のハタゾンビです。人間ではないんですけど。すっごく良い子で…。ハタゾンビが居てくれたから、歴の浅い僕でもここまで来れた」
「へぇ…。確かに、ついついお小遣いあげたくなっちゃう感じ、あるね」
「でしょー!」
と、話している内に、とうとう彼らはやって来た。
「うわぁああっ!?」
「僕達と同じく、騙された人達です。あの方を除き、全て捨て駒だったようですね」
目の前には、昨日依頼をしにきてくれた若中の二人が。
確か、三浦と加藤だったか。恐らく一番の切れ者だった成瀬がいろいろ仕込んでくれたのだろう。
「なんであんな風に…?」
「あれも、桐馬の呪言です。顔が人形のようになっているのは、一時的に心を奪われてしまったからでしょう」
まるで操り人形のような二人。
デカイ日本刀を持たされている。これで僕を切り刻む魂胆だ。
「よし。では行ってきます。貴方はそこで身をまもっておいてください」
「あっ、えっ!?わかった!!!」
ハタゾンビが先刻まで収まっていた、肩掛けカバンを預ける。
そして、ハタゾンビの元へ行く。
「僕はまず、あのガタイの良い方を正気に戻す。取り合えずハタゾンビは、あの背の低い方をボコボコにしちゃって。殺しちゃ駄目よ」
「はぁい!じゃあ、いっせいのーデ…」
「いけぇーーっ!!!」
僕達と、若中が同時に足を踏み出した。
ハタゾンビは、加藤の頭に飛びかかり、刃物を振り落とした後、身軽に首に足をかけた。
そのまま後へ、ばたーんと倒れることにより、絞め技をかけて拘束に成功したよう。
僕は飛んできた三浦のデカイ拳をなんとかすり抜け、腕をつかんで、膝をみぞおちに入れる。
人形のような目がぎゅるんと裏返り、白目になる。
「ハタゾンビ、そのまま大人しくさせといてね!!」
「ハイヨ!」
それで、思い切り三浦のほっぺに、ぺちーんと平手打ちをする。
そんなんで良いの!?とばかりの鯨崎さんの視線が刺さる。
こんなんで良い。逆に、これくらいしか俺は出来ない。
「起きろ!!良いようにされてばっかりじゃ駄目だ!!!おい!!!」
「ん、うぇ?」
三浦がフラフラと地面に倒れ込む。
よし、案外簡単な呪詛だった。これ以上暴れてもらっちゃ、体術に関しては経験値で押されてしまう。
「ハタゾンビも今から…
ぐさ
「ハタ!!!!」
「刺されタ」
振り下ろしたはずの刀とは違う、刃渡りの短い短刀を、ハタゾンビの横腹にさした。
そして、その動揺の最中、加藤はハタゾンビの拘束を抜け出してしまった。
「くそっ、ハタゾンビ、後ろに下がって…」
そこで、誤算が起きた。
加藤は僕らを襲うどころか、ぎゅるっと方向転換をし、出口の方へ走っていってしまった。
「…あっ、待て!!!加藤!!!!」
恐らく、彼らは此方の入口ではなく、窓から侵入をしてきたのだろう。
三浦の肩に刺さっているガラスの破片で、ようやく気がついた。
なら。
あっちの出口は、いけない。
今の彼には、あまりにも
「加藤っ、止まれーーーっ」
バチン、バチバチバチッ
加藤は、入口の札に引っ掛かった。
目を覚ました三浦が、入口でもがく加藤を認識する。
「あれ、なんで…。加藤?」
「もう駄目だ!!あれじゃ助からないっ」
「健太郎!!!!」
三浦が名前を叫んだ所で、加藤の体に火が回った。
青い炎が、加藤を焼き尽くすのに、およそ十秒もかからなかった。
「あ、あれ、なん、っで」
「…人をやめた『障り』に、あの札は反応します。防衛本能が働いたばかりに、加藤さんは…」
「そんなっ、俺は…。なんて馬鹿なことを!!!」
地面に伏せる三浦。
結果として、大切な部下を奪ってしまった、僕は。
「すいません。僕の札のせいだ。ごめんなさい」
「…いや、のこのこ成瀬の言う事を聞いた、俺達が一番馬鹿だったんだ。すまねぇ、九条の若当主。…こんな目に合わせちまって」
あの時、喫茶店の前で楽しそうにしていた彼とは、もう誰も分からないほどにやつれてしまった。
「ハタゾンビ、動ける?」
「ウン。後でいっぱい寝なきゃだけド」
そういって、横腹をおさえるハタゾンビ。
僕が不甲斐ないせいで、またハタゾンビを傷つける結果になってしまった。
「ごめんね。痛い目にあわせちゃったね」
「ボクもゴメンナサイ。僕が逃しちゃったから、あの人は灰になっちゃっタ?」
僕の腕にしがみついて、頭をぐりぐりと押してきた。いつもハタゾンビが落ち込む時にやるやつだ。
心が痛い。
「…ハタゾンビはなんにも悪くないんだよ。大丈夫。ほら、手つなご?」
「…ウン!」
ふと見ると、鯨崎さんが三浦の側についていた。
なにか話していたようだけど、あることをきっかけに、うわーんと二人して泣き始めた。
「ごめん、ごめんなぁ。無知で…、なんにも分かってなかったよぉ、俺…つ」
「アイサさんごめんね。ごめんね…!!!」
僕は、こんなこと初めてだったもんだから、なんて言えばいいか分からず、ただハタゾンビの手を強く握った。
第三話 操り人形
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