第55話 男の夢
「……と、言うことがあったんです」
『……ふむ……なるほど……』
画面越しの鬼龍院は固い表情で顎に手を当て何かを考える。
今回の一件で魔族の出現が噂ではなく事実だと言うことが明らかになった。
本来ならば今すぐアルトゥヌムの市民全員を避難させた上で魔族の討伐を行うべきだが、避難には時間がかかる上、避難の動きを感じ取った魔族が大きな行動を起こす可能性があるのでそれが出来ずにいた。
「鬼龍院さん、今回戦った魔族ほ今までの魔族とは違って鋭い剣技を使って来ました。」
「剣技……?」
「はい、あの魔族達は自らの力に胡座を掻くようなタイプではなく、努力し更に力を求めるようなタイプです。このまま放置するのは危険かと」
ただでさえ強大な力と、能力を持っている魔族が剣技まで習得しようものならそれこそ完全に勝ち目がなくなってしまう。
するとその話を聞いた鬼龍院が何か心当たりがあるかのように口を開いた。
「……今回の一件の首謀者に少し心当たりがある。」
「本当ですか?」
「ああ……剣技を得意とする魔族など私の知る中ではただ一人……七魔帝の『空絶』のヴァイツだけだ。」
その名前に部屋にいた三人の間に緊張が走り先日街を襲った七魔帝セレクとオメガの戦いが思い起こされる。
まさに強者と強者の圧倒的な闘い。
自分達では到底太刀打ち出来ないほどの圧倒的な力の差を見せつけられた。
そのレベルの魔族と再び戦うことに体が自然と恐怖で震えていた。
『……まぁ、あくまで可能性の話だ。なんせ奴は私の仲間が殺したはずだからな……だが決して油断はしないようにしてくれ。それから……』
「魔族を一瞬で倒したあの白い人の事ですね。」
あの白い外套を被った謎の人物の強さは完全に別次元だった。もしかするとオメガと同レベルの力を持っているのではないかとノアは考えていた。
『ああ……その白い外套の外套の人物だがもしかしたらオメガのように我々に力を貸してくれる存在の可能性もある。再び出会うことがあったら目的を確認するようにしてくれ』
「……わかりました。」
『……話を変えよう、君達が保護したと言う少女は今どうしている?』
「今はクリスティナと一緒に部屋で休んで貰っています。すごく怯えていて事情を聞くことは難しそうです」
『そうか……言いたく無いことを無理に聞き出す必要はない。だがまた狙われる危険性がある以上暫くは側で守ってやってくれ。」
「勿論そのつもりです」
『君達には本当に働いて貰ってばかりですまない……もしどうしようもならない事態になった場合はすぐに連絡してくれ、君達の所まで最低でも30分以内に駆けつけて見せよう』
「心強いです、ではその時はよろしくお願いします。」
『ああ、ではまた』
パソコンの画面が暗転し室内に重い雰囲気が流れる。
「……とりあえず温泉に入って気分転換しませんか?」
「……うん、そうだねせっかくのいいホテルだし」
「……湯に浸かること……それは心を癒すこと……」
残りの二人もノアの意見に賛成する。
「ではいきましょうか、アルトゥヌムは温泉も有名なんですよ」
「えっ! そうなんだ……ここってほんとなんでも揃ってるんだね」
「……フルーツ牛乳……あるかな……」
とりあえずは重いことを考えるのをやめ、フィオナ達は楽しそうに温泉へと向かっていった。
◇
「ただいま——って何でそんなに睨んでくんだよ」
「いやいや、俺はお前の金で高級寿司を食うことを楽しみにしていたのに結局コンビニの弁当を買う羽目になったことを怒っているだけだ」
「いやー、すまんすまん。少しビーチで知り合ったお姉さんに気に入られてディナーに誘われちゃってな……ふふふ……まーじで最高だったわ!」
コイツ……っ!
気色の悪い笑みを浮かべ鼻の下を伸ばす聖斗はソファに腰を下ろし自慢げにそのことを語る。
「それで連絡先まで貰っちゃって——って聞いてるか?」
「ああ、聞いてるよ」
正直まじでどうでもいいが。
「それでな——ってもうすぐ風呂閉まっちゃうぞ!?」
部屋に設置された時計を見た聖斗が先程の幸せな表情から一変焦るように風呂場に行く準備を始める。
「別に部屋の風呂に入れば良いだろ」
「バッカ野郎っ! お前、それでも男か? この手の旅行イベントと言ったら……温泉で女子と混浴だろ!?」
「いやいや、ここのホテルは当然男女別——」
「そんなの行って見なきゃ分からねぇだろ!」
どうやらこの変態は完全に目の前が見えていない暴走状態のようだ。
まぁ、俺はそんなことはどうでもいいし部屋でのんびりしているとしよう。
そう思いベットに寝転ぼうとするとがっしりと後ろから羽交い締めを決められる。
「何やってるんだ早く行くぞ!」
「いや俺はいい——」
「さぁ、いざ夢の園へ! 男の夢は!!! 終わらねェ!!!」
俺の意思など関係なく俺は強制的に引きずられて温泉へと連れて行かれた。
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