第54話 魔神ヴェヌズフィア
「……ふむ。」
魔法少女達の戦いをしっかりとビルの上から眺めていた俺は先程現れた人物のことを思い出す。
原作ではあんな人物は登場しない。
だがあの時見せた魔族の背後に回る動きは俺の目を持ってしても全く追うことが出来なかった。
『あの者……かなり強いな。』
(やっぱりか、俺なら勝てそう?)
『分からぬな、全力を出せば負けぬとは思うが……なんせ我もあの者の動きが見えなかった。相手の能力次第では我等と並ぶ存在である可能性もあるだろう。』
(なるほどな……)
まさか……あの白い外套のヤツも俺と同じ転生者? だとしたら奴の目的は魔法少女の救済と言ったところか。うん、俺と全力で趣味が合わないな。
俺は魔法少女のことは大好きだが別に純粋な善意で毎回救ってる訳ではない。俺はしっかりと曇らせを楽しんだあとまた曇らせを楽しめるように魔法少女を救う。
それが曇らせソムリエたる俺のポリシーだ。
そんな俺にとって曇らせが発生する前に魔法少女達を救われてしまうのは実に迷惑極まりない行為だ。
だがまぁ、いい。奴が転生者であろうとなかろうと俺の
「さて、そろそろ戻るか。今夜は聖斗の野郎の奢りだからな。精々高い寿司をたらふく食べよう。」
俺は今夜の晩飯を楽しみに思いながらホテルに向かって飛び去った。
◇
「……なに? やつを追ってた追手と連絡が途絶えただと?」
それまで自慢の刀の手入れをしながら部下からの報告を聞いていたヴァイツは手入れの手を止め訝しげな目で部下の魔族を見つめる。
「はい、何度連絡しても応答がなく……」
「あいつらは俺が直接剣を教えた者たちの一
人だぞ? そう簡単にやられるとは思えんが……ちっ、あの女を逃したのは想定外だな……俺が直接出向いて仕末すべきだった。」
「いかが致しましょう、もう一度刺客を放ちますか?」
「いやいい、これ以上我らの手勢を減らすわけにはいかん。それよりあいつはどうした?」
「分かりません、少し出掛けてくると言って何処かに行かれてしまいましたから」
「全く、相変わらずだな。奴なら確実に仕事をこなしてからそうだが……」
白い外套の人物は今は一時的にヴァイツ指揮下に入っているが元はヴァイツが嫌うセレクの配下だ。
奴に命令しあの女の抹殺に行かせ、成功しても失敗してもヴァイツにとっては両方都合がいい。
だが成功した場合あのセレクに対して借りを作る事になる。ヴァイツにとってそれだけは絶対に避けたいことだった。
(自身の力では戦わず、俺が認めた戦士を弄ぶようなゴミクズの力など誰がかりるものか。)
ヴァイツは決意し刀を鞘にしまい椅子から立ち上がる。
「あの女の捜索は続けろ、見つかり次第今度は俺が直々に手を下してやろう。」
「畏まりましたでは発見次第すぐにご報告させていただきます。」
「ああ、任せたぞ。信頼している」
「勿体なきお言葉です。それでは私はこれで」
深く頭を下げてから部下の魔族は部屋から退出する。
「さて、発見の報告が届くまで鍛錬でもしていく——」
「——ヴァイツ。」
部屋を出ようと思ったその瞬間、背後から声がした。
その声を聞いた瞬間、全身から汗が吹き出す。自分は何か失態を犯したのかと不安が襲う。
だがすぐに反応しなければ失礼に当たると思いヴァイツは振り返ると同時に刀を右側に置き跪く。
「ご無沙汰しております……魔神ヴェヌズフィア様。」
『……表を上げよ。』
そう許可されヴァイツは静かに顔をあげる。
そこには椅子に腰掛ける真紅のローブに身を包み紅の仮面をつけた主人の姿があった。
「申し訳ありません、アルトゥヌムにお越し頂いていることは存じて居たのですが……」
『良い、余も特に今回は手を出すつもりはなかったからな。』
「左様でございますか……して今日はどのようなご用件でこちらにまいられたのでしょうか?」
緊張と恐怖を強く感じつつ問うと思いの外意外な言葉が帰ってきた。
『特に用はない。ただお前の様子を見に来ただけだ……その調子だと今の所計画は順調なようだな。』
「はい、計画は順調に進んでおります。もう時期この土地はヴェヌズフィア様のものとなるでしょう」
『そうか、それは実に楽しみだ……期待しているぞ、ヴァイツよ。』
「ははっ!」
敬愛する主人に期待を寄せられたヴァイツは必ず主人の期待に答えようと決心した。
『さて……余は用が済んだので帰ろう。』
「ところでヴェヌズフィア様……そのお召し物は一体……」
『ん? ……ああ……オメガが黒いローブに仮面を身につけていると聞いてな、少し余も着てみたくなったのだ……どうだ、似合っているか?』
「は、はいとてもよくお似合いです」
『……そうか、それは良かった。では引き続き計画の遂行に専念しろ。』
「畏まりました。」
『ではな。』
次の瞬間、敬愛する主の姿はもう何処にもなかった。
無事に主との会談を終えられたことに安堵しヴァイツは深いため息をつく。
だが主と話したあとは不思議と気分がいい。今ならなんだって成功しそうなそんな最高の気分だ。
「あの方の期待に答えるためにも励まねばな。」
ヴァイツは一人呟き部屋を出た。
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