第53話 白い外套の人物

「ほう……やはり中々やるようだな。」


「そういうあなたは思ったより大したことないのね」


「ククッ言いよるな……ならばお望み通り本気を見せるとしよう!」


 その直後、魔族のオーラが一気に膨れ上がった。


 そしてそれに比例するように魔族の待つ日本刀が赤黒く染まっていく。


「もうどうなっても俺は知らんぞ?」


 魔族は嬉しそうに不適な笑みを浮かべると刀を鞘に納め居合いの構えを取る。


 やっぱりこの魔族明らかに異様ね……魔族がこんな剣技を使うなんて……


 今まで戦ってきた魔族というのは力だけで全てを壊すような豪快な戦い方で剣技というより自身の圧倒的な力で剣を振り回しているという方が近かった。


 だがこの魔族は違う。


 剣の達人のような鋭い剣技に徹底した間合い管理。


 それにこの魔族は殺戮を楽しむタイプではなく純粋に戦いそのものに楽しさを見出しているように見える。


 まるで武士のようね……この剣技も誰かから教わった物なのかしら……彼の美しい剣には到底及ばないけれど彼の少しでも障害になりそうなものは私が排除する……!


「……参る」


 魔族が地面を踏み込んだ途端、圧縮されていた魔力が一気に膨れ上がり地面を抉り物凄い速さでこちらに迫る。


「《氷壁》」


「そんな氷で我が剣を防げると思うなよ!」


 私が生成した氷の壁が一瞬にして真っ二つに切断される。


 流石にこれだけじゃ止められないわよね……


 氷を切り裂いた魔族の剣は私の首元へと迫る。


「取った」


 魔族が勝利を確信したように笑みを浮かべる。


「油断するのはまだ早いんじゃない?」


 私はその瞬間、自身を中心に冷気を爆発させる。


 直後、私の周囲の全てが凍った。


「……まさか……これほどの力を隠し持っていたとはな……」


 魔族はさっきとはあってかわり負けを認めたような表情を浮かべる。だがその表情に憎悪はなくむしろ清々しさまで感じる。


「負けた……まさかこんな小娘に負けるとはな……あのお方に合わせる顔がない……」


「それにしてはいい表情ね」


「最後にいい戦いができたからな……お前、名は?」


「《終焉の氷雪》ルナよ。あの人……魔神オメガの忠実なる下僕……」


「ふっ、なるほど……どうやら俺はとんでもない奴を相手にしていたようだ……」


「さよなら、いい勝負だったわ」



 ◇



「どうした、もっと楽しもうぜ!」


「くっ、強い……!」


 一方、クリスティナ達四人はもう一人の魔族相手に苦戦していた。


 数は圧倒的にクリスティナ達の方が有利。だがそれすらも上回るほどの魔族の力、そしてその剣術、そして能力がクリスティナ達を苦しめていた。


「6本も腕があるとか……ずるい……」


「しかも腕一本一本であの剣技を使えるなんて!」


「クハハッ、お前たちは我が能力に手も足も出ないか!」


 この魔族の能力は腕が6本に増えそれを自由自在に操れるという特別強いわけでもない能力だがその能力を最強にしているのは七魔帝のヴァイツが編み出した剣術、空絶流だ。


 この剣術は切り裂くことに特化した剣術であり、最も相手を殺すことに特化した剣術でもある。

 

「くっ、このままじゃ……! クリスティナ、私達がこの魔族を止めるからその子を連れて何処か遠くへ!」


「え!? な、何言ってるの? みんなも———」


「クリスティナ、行ってください。これはあなたのスピードでしか出来ないことです。」


「その通り……ここは私達に任せて先に行く。」


「……っ! みんな……ごめん……」


 クリスティナは涙を流しながらも少女しっかりと抱き抱え全力で戦場を離脱する。


「まずい……! あの女を始末しなければ任務がっ!」


「行かせないっ!」


「勝負は終わりだ、もう貴様らに興味はない! どけっ!」


「きやっ!」


 魔族を止めようと正面に立ったフィオナだったが邪魔なものを振り払うかのように裏拳で吹き飛ばされ壁に勢いよく打ち付けられる。


「まだそこまで遠くには行っていない……今なら」


 魔族が前に進もうと足を踏み出した瞬間、ベッタリと足が地面にくっつく。


 同時に壁に設置された装置から金属製のワイヤーが放たれそれぞれが魔族の腕を捉え、魔族をその場に拘束することに成功する。


「なっこれは……!」


「私の能力で創造した……粘着シートの超強力バージョン……と私特製の超合金ワイヤーゾウでも身動き一つとれない……よ……」


 フランは魔族の目の前に立つと自身の能力で小型の爆弾を創造し、それを魔族の周囲に投げる。


「終わり」


 フランが手に持ったスイッチを押した瞬間、空間が爆ぜる。


 常人ならまず耐えられない爆発だが当然魔族の姿はまだそこにあった。


「むぅ……市街地だからって威力を抑えすぎた……今度はここら一体を吹き飛ばすくらいの威力に——」


「絶対ダメですからねっ!?」


 割と本気で検討していたのでノアは全力で止めた。


「くっ、小賢しい真似を……こんなもの……!」


 魔族が手足に力を入れ始めると外壁にひびが入り、タイルが盛り上がる。


 そして次の瞬間、装置が取り付けらせた外壁を壊し、タイルごと足を持ち上げ再び進行を開始する。


「フラン、もう一度罠を貼れますか?」


「無理……あんな速さに追いつけない」


「そんな……」


 このままでは確実に人通りの多いところに出る。そうなれば被害はさらに大きくなり人々を混乱させてしまう。


(でも……間に合わない……)


 街のあかりが見えもうダメかと思ったその時魔族の前に空から白い外套を纏い、仮面をつけた人物が舞い降りた。


「……」


 その人物は特に構えるわけでもなくただただ迫る魔族を見据える。


「なっ、お前は……! レ———」


 その人物に気づいた魔族が何か言いかけたその時だった。白い外套の人物が魔族の背後に一瞬で移動していた。


 そしてその直後、魔族の6本腕全てが切り落とされ、魔族の首が呆気なく地面に転がる。

 

「……」


 その一瞬の出来事にフランもノアも理解が追いつかずただ呆然とその様子を見つめていることしかできなかった。


 動きが一切見えなかった。


 その事実が二人にただただ恐怖を与えていた。


「任務完了……」


 そう呟きその人物は外套を翻し街の明かりの方へと歩いて行く。


「待ってください、貴方は誰ですか? 何故私達を助けてくれたのですか?」


「知る必要はありません……あなた達には関係のないことです。」


「ならあなたは——」


 ノアがそう言おうとした瞬間白い外套の人物の姿は既にそこにはなかった。


「今のは……」


「……わかりません……もしかしたら私達の味方かもしれませんね。オメガのように」


「そうだね……私もそうだと嬉しい……」


「そうですね、ではフィオナを回収してルナの援護に行きましょう」


「うん……」


 白い外套の人物が気になりつつもノアとフランはフィオナを回収してルナの援護に行った。

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