第52話 戦士

「今日はとても楽しかったですね」


「うん! とっても楽しかった! 服が思ったより高くて驚いたけど……」


「それは仕方ありませんよ、ここは富裕層の街アルトゥヌムですからね」


 昼食後、アルトゥヌムの街を観光した俺達は日も傾いてきたので帰路に着いていた。


 はぁ……本当に今日は濃い一日だった……ラブコメの女神の襲撃を受けて曇らせの女神様は不在で謎の展開が続きまくるし……早く曇らせの女神様戻って来いよ……


「ごめんね、速水くん荷物待たせちゃって」


「いえ、大丈夫ですよ荷物持ちは昔から男の仕事って決まってますからね」


「ふふ、本当によく荷物待ちが似合ってるいるわね」


「うっせ」


 そんなことを話しながらホテルへの帰路に着いているとふとクリスティナが立ち止まる。


「……」


 彼女はビルの間の路地をじっとと見つめていた。


「綾乃? どうし——」


「……っ!」


 フィオナが心配そうに声をかけた瞬間、クリスティナは路地裏に向かって駆け出す。


「綾乃!」


「(……結衣、追いかけましょう。)」


「(うん、わかった)」


 フィオナは残りの二人にも目で意思疎通をしてから一斉に路地裏へと駆け出す。


 さて、ここからはいつも通り……


「み、みんなどこいくんだ?」


「少し寄り道よ、あなたは早くホテルに帰っておきなさい。」


 そして俺を置いて魔法少女達は路地裏へと姿を消していった。


 さて、行ったか……くくく……きた……ついに来た! ここから曇らせが始まるんだ!

そうなれば……乗るしかねぇよなぁ! このビッグウェーブに!!


「さぁ、俺はまたオメガになるとしよう。」



 ◇



「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」


 その少女は何かから逃げるように夜の路地裏を駆ける。


 脇腹からは血が溢れ、高そうな服も泥と血によって汚れているがその少女はそんなことも気にせずただただひたすらに逃げる。


 その時、少女の足に激痛が走った。


「きゃっ……!」


 その痛みで少女は勢いよく前に転倒した。


「早く……逃げな……きゃ……」


 必死に起きあがろうとするも足がピクリとも動かない。それどころか意識も朦朧としてきていた。


 その時背後から声が響く。


「鬼ごっこは終わりか?」


「ったく、手間取らせやがって」


「っ……!」


 振り返るとそこには黒いスーツを着た二人の男が立っていてその手には拳銃を握っている。


「お前に生きていられるとあのお方の障害となる。2人がかりで仕留めるのは本望ではないが……せめても情けだ、苦痛なく殺してやろう。」


「だ……れか……助け——」


「させないっ!」


 男が銃の引き金を引こうとした瞬間雷閃が走り銃が飛ばされる。


「……なるほど」


「間に合った……!」


 少女が黒いスーツの男からに逃げる所を目撃し、すぐさま現着したクリスティナは二人の男達を睨みつつ後ろの少女の様子を見る。


(腹部と足に撃たれた跡、出血もしている。これは早く手当をしないと……!)


 クリスティナは一瞬で現況を確認すると少女を守るようにして二人の男の前に立つ。


「治安が悪いとは聞いてたけどまさか銃を使うやつがいるなんて……悪いことは言わない、銃を捨てて投降して。」


「そちらこそどけ、我等はその娘に用がある。」


「なら、どかしてみれば? 悪いけど簡単には通さない!」


 クリスティナが男二人に向かって武器を構えると男達は面倒くさそうにため息を着く。


「予定変更だ……」


「ああ、そのようだな」


 その直後、二人の男の顔がドロリと溶けだし、体が肥大化し黒いスーツがビリビリと破れる。


 そしてその溶けた顔の下からは禍々しい角を持った二人の魔族が現れた。


「っ! 魔族……!」


「この姿を見たからには生かしては返さぬぞ」


「お前諸共その娘を殺す」


「くっ……」


 目の前の魔族は恐らくこの並々ならぬオーラからして上級魔族。それもクリスティナ達がかつて敗北を課した魔族よりも殺気が強い。


 弱者をもて遊び楽しむタイプの魔族ではなく、この魔族達は全力でクリスティナと少女を殺すつもりだ。


(でも私一人じゃこの魔族達相手に一分……いや、持って十秒くらいか……せめてみんなが居れば——)


 その時、何処からか声が響く。


「クリスティナ!」


「みんな……」


「一緒に闘いましょう! みんなで!」


「うん!」


 そして全員揃った魔法少女達は魔族二人に向き直る。


「……また増えたか……だが雑魚が何匹増えたところで同じことだ。」


「さぁて、それはどうかしら?」


 次の瞬間、その場からルナの姿が消え魔族の片腕が切り飛ばされる。


 その圧倒的な強さにその場の誰もが沈黙した。


「……訂正しよう、どうやら一人強者が混じっていたようだ……名は?」


「『氷姫』のルナ。」


「我が名は、ザガート。ルナ、戦士としてお前を屠ってやろう。」


「屠られるのはそっちの方よ……これも彼の意志……その邪魔をするなら容赦はしない……!」


 そしてクリスティナと魔族の戦いが始まった。


「俺もあっちがよかったな……まぁいい……早くお前達を処理してあっちで楽しむとしよう」


「お前達は私達が倒す……! みんな、力を貸して!


「うん!」


「もちろんです」


「了……解……」


「よし、行こう!」

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