第50話 観光

 ホテルを出た俺達はアルトゥヌムの中心にある巨大な噴水がある広場に来ていた。


「わぁ……! すごーい!」

 

「むぅ、見えない……」


 安全用の柵が少し高かったのか少し背が低いフランが必死に背伸びをする。


 その様子を見ていたノアがフランをそっと見やすいように抱っこする。


「これでよく見えますか?」


「優奈、ありがと……すごい……! ねぇ、優菜……噴水……すごい……!」


「ふふ、そうですね。」

 

 まるで親子のような二人のやり取りに自然と心が和む。


 それにしてもすごいな……この建設費いくらかかってるんだろ……


 巨大な池のような大きさの噴水はよくある中央のオブジェから水が流れるタイプではなく、下から水が噴き上げられるタイプで巨大な水柱がいくつも出来る様はまさに圧巻だ。


「全く、噴水ごときで大袈裟ね……」


「いや、実際すごいだろ。アルトゥヌムの観光スポットの一つだぞ俺なんて今すぐあそこに飛び込んで泳ぎたいくらいだ」


 俺が冗談混じりにそんなことを言うと人ならざるもの……否まるでゴミを見るような冷たい視線を向けられる。


「別に泳いでくればいいじゃない……知り合いだと思われたくないから私達とは他人とさせてもらうけど」


「いや、冗談だって……そんなヤバいやつを見るような目で見ないでくれ」


 どれだけメンタルを強くしようと魔法少女に冷たい視線を向けられるのは少し悲しいものだな。

 

「本当にすごいですね」


 フランをクリスティナに託したノアが俺の横に並ぶ。


 いや、距離近くね?


 俺とルナの距離が知り合いくらいなのに対しノアはもう少しで触れてしまいそうなほど近い距離でこれはもう完全に恋人同士の距離だろう。


「あの来栖さん?」


「はい、なんでしょう?」


「少し距離が近くないですか?」


「そうですか? 私は適切な距離だと思っていますよ」


 そう言って俺に優しく笑顔を浮かべる。


 俺はとりあえず心の中でラブコメの女神を曇らせの女神に吹っ飛ばしてもらった。


 よし、これで邪神は去った。


 そう思い安心しているとノアが何かを言いたそうな表情で俺の顔をじっと見つめ、そしてようやく決心が着いたのか口を開いた。


「それと……ここの噴水夜に男女で訪れると結ばれるって言われてるの知ってますか?」


「い、いえ……初耳ですね……」


「そ、そうですか……あ、その……もしよかったら今日の夜……」


 その直後、ノアが俺の腕に抱きつこうとするがルナにガン見されていることに気づいたのか少し残念そうに腕を戻す。


 そして恥ずかしそうに頬を真っ赤に染める。


「来栖さん、どうかしましたか?」


「い、いえ……その、忘れてください……」


 よし、フラグは完全に破壊された。


 ラブコメの女神よ残念だったな!


 ナイスだ、ルナ。俺はお前に救われた。


 ふとルナの方を向くと何故かさっきよりも冷たい極寒の視線で睨まれる。


【この浮気男……】


 そうボソッと呟かれる。


 ん? どういうことだ? いつまでも情報が完結しない……なんだ……わからん……

 

 少し呆然としていると何処からか女性の悲鳴が聞こえた。


「キャァァァァ! ひったくり!」


 声のした方向を見ると金持ちそうな若い女性から高級そうなバックを奪い取った男が何処かに逃げていくところだった。


 聞いてはいたがやはり金持ちの多いアルトゥヌム。ひったくりやスリも多いんだな。


 そんなふうにその様子を眺めてるいると俺の横をフィオナが駆ける。


 魔法少女達は通常の状態でもプロのスポーツ選手波の身体能力で動けるのでフィオナはあっという間にひったくり犯に追いつくと足をひっかけて転ばせ拘束する。


「あの女性にバッグを返してあげてください」


「離せっ! 俺はこれをしてかなきゃ生きて行けねぇんだっ!」


「それでも人から物を取るのはいけないことです」


「ちっ!」


 そしてしばらくフィオナがその男を抑えていると騒ぎを聞きつけたのかスーツを着た男達がその場に駆けつけた。


 その男達を見た途端、男の表情が青ざめ、フィオナの拘束を抜け出そうと更に暴れる。


「ご協力感謝します。」


「あなた達は?」


「我々はこのアルトゥヌムの治安を維持する者達です。その男は我々が預かりましょう。」


 そう言うとスーツの男たちはフィオナに拘束された男を持ち上げると何処かへ連れて行く。


「嫌だっ! 誰か助けてくれっ! 誰かかぁぁぁぁぁぁ!」


 その悲鳴には誰も耳を貸すことはなくひったくり犯は連れて行かれていく。


「結衣、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だけど……」


「……とりあえず移動しましょうか。」


「そうだね」


 皆がそれに納得し、全員で広場を後にする。


 俺はひったくり犯を連行するスーツの男達をじっと見つめる。


『ヴォルディア、あの男達……」


(ああ、間違いなく魔族だな。まさかこんなところにまでいるとは)


 やっぱり俺の感覚は間違っていなかった……!


 魔族、その存在は人々に取っては恐怖かもしれないが俺に取っては曇らせに必要な大切な素材だ。


『クフフ、楽しそうだな、蒼太よ。今度は何をする気だ?』


(ふっ、まぁ待て、楽しみは先に取っておくものだろう?)


 俺は曇らせの予感に胸をときめかせながら彼女達の後を追った。

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