第48話 部屋に二人きり

 なんでこんなことになった……


 俺は部屋に置いてあったコーヒーを二人分入れながらチラリとリビングのソファを見る。


 するとこちらをじっと見ていたノアと目が合い、俺は反射的に微笑みを浮かべる。


「来栖さん、ミルクと砂糖はどうしますか?」


「お願いします。私苦いのはダメなんですよね」


「俺もです、俺的にはコーヒーは甘いくらいが一番美味しく飲めるんですよね。」


 コーヒー二人分を入れ終わりティースプーンとミルクと砂糖を持ちリビングの机に置く。

 

「すみません、お菓子も何もないですが」


「いえ、速水くんが入れてくれたこのコーヒーだけで十分ですよ。ありがたくいただきますね」


 ノアは俺に向かって優しく微笑むとミルクと砂糖をコーヒーにいれティースプーンでかき混ぜると一口飲む。


 すると少し熱かったのかふーふーと可愛らしく息を吹きかけて冷ましていた。


「美味しいです」


「それはよかったです、流石は高級ホテルのコーヒーですね」


「ふふ、それもあるとは思いますがきっと速水くんの入れる腕がよかったからだと思いますよ」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 俺もコーヒーに砂糖とミルクを入れ、一口飲む。


 うん、美味い! やっぱりコーヒーは甘くして飲むに限るな!


 ……て何を普通にノアとお茶をしているんだ俺は……


「ところで来栖さん、俺に何かご用ですか?」


「いえ、特にそう言った訳ではありません。ただ速水くんに会いたくて来ただけです」


「そ、そうですか」


 まじで最近どうなってるんだ? こんなのおかしい、絶対ラブコメの女神の仕業だ。


 くっ、あの邪神め……早く我等が曇らせの女神を返せ!


「まぁ、それだけではないんですけどね……」


 ノアが頬を赤く染め何かをボソッと呟く。


 よし、今こそあの技を実践使用する時だ!


「あの……今なんて?」


 奥義! 難聴鈍感男発動!


 このスキルはヒロインが小さく呟いた時だけ異様なまでの難聴と鈍感ぶりを発揮することが出来る素晴らしいスキルだ。


 このスキルはいいぞ。なんたってこのスキルさえあればヒロインのデレセリフも全てスルーすることが出来る! そして絶対にヒロインは同じセリフを二度は言わない!


 ふっ、この勝負俺の勝ちのようだなラブコメの女神よ! 貴様の建てたラブコメフラグを全てこのスキルでへし折ってくれる!


「……」


 さあ、こいつまじで駄目だなと呆れるがいい!


 失望の言葉を全力で待っているとノアが俺の耳に口元を近づける。


『今日ここに来たのはこういうことをするためでもあるんですよ?』


 その直後、ノアが俺の腕に抱きつく。


 流石に耳元で囁かれてはスキルを生かすことは出来ず俺は何も抵抗できなかった。


 あれれ、おかしいぞーなんで更に攻撃力が上がって帰ってくるんですかね?


「えっと……これは……」


「こうしているとなんだかとても幸せな気分になりますね」


 そう言うノアの顔は朱色に染まっていた。


 そして今度は俺の肩に身を預けるように頭をのせる。


「ふふっ」


 嬉しそうに微笑むとそのまま目を閉じるノア。


 ……調子に乗ってすみませんでした……ラブコメの女神様の力まじで強いです……だからお願いします、もうこれ以上は……


「そういえばあの人はいないんですね」


「ええ、聖斗なら浜辺に行ってますよ」


「そうなんですね……では今この部屋には私達二人だけ……ということですね」


「……そうなりますね」


 おい、なんだその確認は……ちょっとなんで顔を赤くして目もうっとりしてるんですかねぇ! ちょっと!


 ピンポーン


 その時部屋のチャイム室内に響き渡る。


「あっ……」


 ノアから悲しそうな声が溢れる。


「誰か来たようですね、少し見て来ます」


 俺はソファから立ち上がり玄関へと向かう。


 そして扉を開けるとそこには見慣れた少女の姿があった。


「おお、どうしたんだ?」


「この部屋に優菜が来なかったかしら?」


「ああ、来栖さんならリビングにいるぞ」


「そう……」


 ルナは一言だけそう呟くと俺を通り過ぎてリビングの扉を開ける。


「何をしているの、優菜。」


「あら、玲奈。どうしたんですか?」


「あなたが遅いから来てみたのよ……それで、こんな密室で何をしていたのかしら?」


「ただお茶をしていただけですよ。ね、速水くん。」


「ええ、その通りです」


 あれはただのお茶なのだろうか……


「ふーん……」


 ルナが訝しむような視線で俺を睨む。


 いや、俺悪くないよね?


「なんだよ」


「別に……それより優菜、あんまり蒼太に関わらない方がいいわよ、この男とんでもないダメ男だから」


「おい」


「まぁ、それはそれで私はいいですよ」


 むしろそっちの方が……と何かを想像して喜ぶノア。


 その様子を見たルナに再び睨まれる。


「最低……」


「それはひどくない?」


 その後、しばらくルナの態度が冷たかった。

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