第45話 最高の曇らせとは

「よし、また俺の勝ちだな」


「うぅ……なんでお前こんなにつぇぇんだよ!?」


 魔法少女達との夕食から戻った俺は聖斗との明日の夕食をかけたトランプで圧勝していた。


 ふっ、俺にとってはただただ明日の夕食を確保するための作業だな……


 昔から魔法少女のグッズを買う為の金を集めるにはトランプで勝って巻き上げるのが一番効率がよかったのでボードゲームは全て得意だ。


 よし、これで明日の夕食はいいものが食べれそうだ。


「さて、楽しんだし寝るか。」


「おい待て、逃げるな卑怯者! 逃げるなぁ! もう一勝負しろぉぉ!」


「仕方ないな……明日の夕食も確保しておくとしよう。」


 明日はシャトーブリアンでも食べようかな。


 その勝負も俺は聖斗を完膚なきまでに叩きのめし、俺は勝利の愉悦を感じながら眠りについた。


 

 ◇



「ふぁぁ……ん? まだ夜か……」


 しばらくしてふと目が覚めるるとまだ夜中の2時だった。


 寝よ……


 そう思い再び布団にくるまるが昼間に寝たせいか特に眠気を感じなかったので俺は再び起き上がり靴をはくと部屋の扉を開け外に出る。

 

 俺は部屋から出ると階段を上りデッキへと向かった。


「おお、すげぇ……」


 扉を開けるとそこには満点の星空が水面に反射して実に幻想的な光景が出来上がっていた。


 今までこんな星空はみたことがないな……流石はアニメの世界だ。


 せっかくだし柵の側でみようと思い視線を向けるとすでにそこには一人の少女がいた。


「……」


 その少女、九条綾乃ことクリスティナは特に星空を見上げる訳でもなくただただ海を眺めている。


 なるほど……曇らせの女神よ、全てはこの時の為だったんだな? 中々趣味がいいことをしてくれる……!


 やはり曇らせの女神は俺に微笑んだ! まさか1日の最後にこんな曇らせイベントを用意してくれているなんてな!


 俺は胸を高ならせながらもクリスティナはまだ俺の存在には気づいていないようなので取り敢えずは物音を立てないようにしながら見守ることにした。


「……私は……これから……どうすれば……どう罪を償えば……」


 クリスティナの瞳から一粒の涙がこぼれ落ちる。


「もう……ここから落ちた方が楽になるのかな……」


 彼女から力なくそんな言葉が溢れる。


 最早彼女には生きる気力がないように見えた。


「——それは違うんじゃないか?」


 今まで黙っていた俺はクリスティナの背中に声をかける。


 いや、流石にね? 俺は曇らせは好きだけど死ぬのはNGなのよ。俺の好きな曇らせが減っちゃうし。


「え?」


 クリスティナが振り返り覇気のない瞳が俺を捉える。


「……」


「……」


 更に静けさが目立つ夜に波の音が微かに響く。


「あなたは……あの子の……」


「ああ、覚えててくれたのか。」


「……一応ね……邪魔な奴ってことで覚えてたよ……それで、何の用?」


 クリスティナは先程の破棄のないような表情から一転こちらを警戒するように睨みつける。


「いや、特に。ただ風に当たりに来ただけだ。」


「なら帰りなよ、先に私がここに来てたんだから」


 そうそっけなく言い放つと再び海へと視線を向ける。


 相変わらずこの強気な性格……いいね……クリスティナの曇らせはこの強気な表情が崩れるのが堪らなくいい。


 帰れと言われたが俺は特に気にすることなくクリスティナの隣に立つ。


「帰れって——」


「九条さん、何か悩み事でもあるの?」


 俺がそう問うとクリスティナの表情が強張る。


「……特に……何もない……」


「そうは見えないけど?」


「……あなたに私の何がわかるの……? あの子とあんなに仲がいいあなたに……」


 クリスティナ八つ当たりするようにそう言い捨てる。


「いや、よく知ってるさ。」


 よく知っているに決まっている俺が知らない魔法少女の情報など存在しない。


「え……」


 直後、クリスティナが俺のことを不審者を見るような視線で見ながら俺から少しずつ距離を取る。


 あれ? そんなにおかしい?


「気持ち悪い……あなた頭がおかしいんじゃない?」


「流石にそこまで言われると傷つくぞ……」


 俺のような至って健全な趣味の男のどこが頭がおかしいのだろうか。


「はぁ……もう付き合ってられない……私は戻る。」


「そうか、暖かくして寝るんだぞ」


「……」


 クリスティナは何も答えずにそのまま山内へと帰って行った。


 さて、多分効果は薄いと思うがほんの少しくらいは精神が回復してるといいな。


 曇らせは表情の落差が何より素晴らしい。最初から曇り顔の状態もいいが少し立ち直ってきた所で更に一気に曇るのが一番最高なんだ。

 

「さて、どうなるかな。」


 俺は夜空に向かってそう呟いた。

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