第43話 ウォータースライダー
「ふふ、楽しいですね速水くん♪」
「え、ええ……そうですね……」
ノアと一緒に流れるプールないを周っていた俺はふと周囲を見る。
やっぱり目立ってるな……
予想通り周囲の生徒達からの視線が多い。
あの来栖優菜が男といることに対してもしかして……! と妄想を膨らませときめく女子達、それとは反対に恨めしそうな視線を向けてくる男子達。
全く、一般モブ生徒Aとしては目立ちたくないんだが……まぁ、無理か。
学年のマドンナ、来栖優菜がみたこともない一般モブ生徒Aと一緒に楽しそうに流れるプールを周っているのだ。
いつもは人の目にすら止まらない俺も今はこの世界の主役である魔法少女という光に照らされその存在が認識されている。
「来栖さん、歩くペースが早かったら行ってくださいね。すぐに調整しますので」
「ふふ、ありがとうございます。流れは少し早いですけど速水君に掴まらせてもらってるお陰でとても快適です」
「そうですか、それは何よりです……おっと。」
俺はノアを軽く抱き寄せる。
その直後、本日三匹目の嫉妬心に燃えたサメ、もとい男子生徒が勢いよく隣をバタフライで通過する。
全く、本当にノアは人気なんだな。
「すみません、何度も」
「い、いえ、ありがとうございます……その……速水君ってすごく紳士的ですね。」
「いえ、それほどでも。男として当然のことですよ」
「それにしても今日は元気な生徒が多いですね。」
「恐らく皆はしゃいでいるのでしょう。こんな豪華客船滅多に乗れませんからね」
「そうですね、せっかくのいいお船ですから私達も楽しみましょうか。」
それにしてもさっきからサメ(男子生徒)が多いな……これ以上注目されるのも面倒だしここは早めに別れた方が良さそうだな……
「あの、来栖さんそろそろ……」
「そうですね、このプールも堪能しましたし次はウォータースライダーにいきましょうか。」
違う、そうじゃない。
俺はそろそろ一般モブ生徒Aに戻りたいんだぁぁぁぁぁぁ!!
俺のそんな心の願いもノアには届かず、ノアは嬉しそうに微笑む。
「さ、速水くん。いきましょう」
「……はい」
ああ……俺のモブ生が……
◇
ノアと一緒に一番大きいウォータースライダーに訪れた俺は列に並びながら周りを見渡す。
お、おい……このウォータースライダーカップルしかいないじゃねぇか! このスライダーカップル限定かよっ!?
「け、結構高いですね……」
「もしかして怖いですか?」
「は、はい……私ウォータースライダーなんて初めてで……」
「何も怖がる必要はありませんよ、全力で楽しみましょう。」
「そ、そうですね、楽しみます!」
そんなことを話している間に前のカップル達が滑り終え俺達の番がやってくる。
「お、カップルのお兄さんお姉さん、いらっしゃい!」
「か、カップル!?」
従業員のお姉さんの言葉にノアの顔が真っ赤に染まる。
「いえ、違いますよ。俺と彼女はただの友達です」
「えっ、そうなの? てっきりカップルさんなのかと……じゃあせっかくだし二人一緒に滑ろっか!」
そう言うと従業員のお姉さんはカップル用の二人乗りの浮き輪を取り出す。
従業員のお姉さんは「こういうことでしょ?」と俺に視線を送ってくる。
いやちげぇよ……何もあってねぇよ……
「じゃ、じゃあ私が後ろでもいいですか?」
「わかりました、前は任せてください」
俺はもはや引き下がることは出来ないと察し、諦めて二人乗りの浮き輪の前方に座るとそれに続いてノアも後方に座った。
「あの……速水くん……」
「なんですか?」
「手……握っててもいいですか? やっぱり少し怖くて……」
「俺なんかの手で良ければいくらでもどうぞ」
「ふふ、ありがとうございます。では遠慮なく。」
ノアの白く細い手が俺の手を優しく握る。
「ではいってらっしゃーい!」
従業員のお姉さんの言葉と共に一気に水が流れ俺達が乗る浮き輪はスライダーを走り始めた。
中々速いな……流石ここの名物だな。
普通のスライダーでは楽しめないような速さに満足しながら楽しんでいると俺の後頭部に柔らかいものが当たった。
「……!」
後方に視線を向けると目を瞑ったノアが俺の頭を抱きしめていた。
「来栖さん!?」
だが返答はないどうやらあまりの怖さで俺の言葉も届いていないようだ。
……なんで今日はこんなにラブコメみたいな展開になってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
俺は心の中で思い切り叫んだ。
「く、来栖さん、そろそろ離してもらってもいいですか?」
「え? あっ、すみません!」
滑り終わった所でようやく解放された俺は心の中で安堵のため息をつく。
ふぅ、こんなにも心を乱されたのは限定フィギュアを買いそびれた時以来だな……
「どうでしたか?」
「ちょっと怖かったけど速水君がいてくれお陰でとても楽しかったです!」
「それは何よりです」
こちらも自分のモブとしての存在意義が崩壊していくのを必死に耐えた甲斐があったというものだ。
「もう一回乗ってもいいですか?」
「もちろん、今度は一人で乗ってみますか?」
「もう……速水くんはイジワルですね」
「冗談ですよ」
そんなことを話しながら俺達はもう一度列に並びに行った。
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