第40話 香ばしい曇らせの香り

「私、少し風に当たってくるわね」


「ええ、わかりました。気をつけて行ってきてください。」


 玲奈はそう言って部屋から出て行った。


 そして室内には私と優菜が取り残される。

 

「綾乃……」


 ベットの上で俯く私に優菜が心配そうに声をかける。


「私が言えた事ではないのですが……玲奈もあまり気にしていないといっていたのでそこまで気を病まないでください」


「……」


 駄目だよ……優菜……玲奈は私を許してくれるとしても私が自分を許せない……


「……ちょっと外に行ってくる。」


「そうですか……みんなでプールに行く時には帰ってきてくださいね。」


「……」


 私は優菜の言葉に何も答えずに部屋を出た。



 ◇



 あれからしばらく玲奈と雑談をしていた俺はふと時計を確認する。

 

 さて、そろそろ戻るかな。


「そろそろ俺戻るわ。」


「そう、私はもう少しここにいるわ。」


「そうか、じゃあまたな。」


 俺はそう告げ船内へと戻る。


 さて、どうするかな。


 この船でやる事と言えば色々ある、ゲームセンター、カフェ、映画館、プールは午後からなのでまだ開いていないが船に乗っている間は絶対に退屈することが無さそうだ。


 聖斗の奴もまだあんな調子だし、俺は俺で少し豪華客船を満喫させてもらうとしよう。


 まずは……そうだな……映画館にでも———ん?


 そんな事を考えながら船内を歩いているとふと見覚えのある少女を見つけた。


 白金色のショートカットヘアに真紅の美しい瞳を持つその少女、『轟雷』の魔法少女クリスティナこと九条綾乃はどこか物憂げな様子で休憩スペースのソファに座っていた。


「……私は……どうすれば……」


 まるで何かを深く後悔するような、今にも消えてしまいたいと思っていそうなその表情に俺は強く惹かれた。


 そして心臓の鼓動がドクドクと高鳴る。


 まるで初恋のように。


 なんだ……この感覚は……この全身が喜ぶような感覚はっ!


 間違いないこれは……曇らせの予感っ!


 俺の全身が超級の曇らせの予感を感じ取っていた。


 当然、曇らせは何よりも優先されるので俺はその場で足を止め、じっくりとその様子を観察する。


 いい曇り顔だ……しかし、この曇り顔はまだ最大のものではない……この間のルナを突き飛ばした直後のような最高の曇らせを俺は再び見たい。


 もしかしたらこの旅行中、クリスティナの曇らせが再び見れるかもな。


 この旅行中はクリスティナをよくみておくとしよう。


「期待してるぞ、クリスティナ。」


 俺はボソッと呟きその場を去る。


 さぁ、曇らせの花が開く時はいつかな……?

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