第39話 出航

 アルトゥヌムへの旅行当日。

 

 流星学院の生徒全員を乗せ豪華客船は動き出した。


 船だから最初はかなり揺れると思っていたがむしろ全然揺れていない。流石は豪華客船、揺れが最小限で済むようになっているのだろうこれなら快適な船旅が出来るだろう。


「うっ……」


 俺のルームメイト以外は。


「おい、大丈夫か?」


「あ、ああ……問題……ない……」


 全然問題ありそうな青ざめた表情で言われてもまるで説得力がない。


「酔い止めは飲んだのか?」


「一応……飲んだんだが……まだ効いてこない……っ!?」


 その時、聖斗の顔が一気に青くなる。


 あ、まずいな、これ。


 こんな所リバースなどされたら洒落にならない。


「よーし、よーし、どうどうどう………落ち着いて歩け、トイレはこっちだ。」


 俺は聖斗をトイレまで誘導し、トイレに閉じ込める。


 よし、これで元凶の封印は完了だ。これでもう安心だな。


 俺は一仕事終え、ふかふかのベットに思い切りダイブする。


 はぁ〜……最高だな、このベット。


 各部屋に備え付けられたベットは最高級品で寝心地がめちゃくちゃいい。これだけでもこの旅行に来た甲斐があったというものだ。


 このベットなら今夜は言い曇らせの夢が見れそうだな!


 そうしてしばらくベットで寛いでいると少し顔色がマシになった聖斗がゾンビのような歩き方でトイレから出てきた。


「お、出てきた。」


「すまんな……助かった……」


「じゃあ、少しデッキにでるか。そうすれば気分も——」


「うぐっ……!」


 俺がそう言いかけた瞬間、聖斗が口に手を当てる。


「テメェェェェ! 待てぇぇぇぇぇぇっ!」


 俺は急いで聖斗を再びトイレに連れて行き勢いよく扉を閉めや封印する。どうせまた吐きそうになるんだから完全に治るまではずっとトイレにいるようにとしっかり言っておいた。


 ふう、全く……世話の焼ける奴だ……


 聖斗はしばらくあの調子で暇になったので俺は外に出る事にした。


 出航の時はとんでもないくらい人がいたが今はほとんどみんな室内に引きこもって部屋を堪能している頃だろう。


 階段を上りデッキに上がると予想通り出航時の人混みは姿を消していたが一人だけ人がいた。


 その少女は海風に美しい銀髪を靡かせ、何処か遠い所を見るように海を見つめていた。


「————ガ……逢いたい……」


 海風と波の音でよく聞こえなかったが何か海に向かって話しかけているようだった。


 つまりあれだ、これは厨二病というやつだ。


 なるほど……ルナもそんな時期か……俺はルナのファンだからな。見られたくない事はそっとしておいてやろう。

 

 俺は見なかったことにして部屋に戻ろうとした時背後に声をかけられる。


「盗み聞きとは感心しないわね」


「いやぁ、別に。俺は今来た所だよ。」


「ふぅん……なら、ちょうどいいわ、少し付き合いなさい。」


「えぇ……」


「あら、私のペットの癖に飼い主に逆らうの? 今度から餌は抜きかしら?」


「……わかったよ。」


 俺は言われた通りにルナの隣に立ち海を見つめる。


 今日の海は波も比較的穏やかでいい航海日和だ。


「それにしてもいい天気ね」


「ああ、そうだな。」


「あなた、アルトゥヌムについてよく知ってる?」


「いや、超高級リゾートととしか。」


「はぁ……だと思ったわ……」


 ルナは軽く呆れたようにため息をすると説明を始める。


「リゾート都市アルトゥヌムは超高級リゾートとしても有名だけどそれ以外にもあそこにはカジノなんかもあって各国の権力者や大富豪が集まるの。これがどういう意味かわかる?」


「どういう意味だ?」


「つまり、権力者や大富豪が集まるということはそれだけ色んな闇の取引があるのよ。つまり、あそこはリゾートでありながら危険な島でもあるの。まぁ、それは噂でしかないんだけどね。」


 へぇ、そんなことがあるのか。


 正直どうでもいいので俺は適当に相槌を打ちながらカモメに景色のいいところで食べようと思い持ってきたパンのかけらを与える。


 あ、あいつ横取りされてる。


「あなたって本当に人の話を真面目に聞かないのね……」


「ん? 話は終わりか?」


「とにかく外を出歩く時は気をつけなさい。もしかしたら怖い人や魔族がいるかもしれないわよ?」


「魔族はいないだろ。」


「ふふ、そうね。」


 そして俺達は揃って海を見つめる。


 あーあ、なんかの奇跡で今回も曇らせが見れないかなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る