第37話 リゾート都市
「ふぁぁぁ……ねむ……」
俺は今すぐにでも家に戻って寝たい衝動を抑えながら前で教師が何やら説明していることを適当に聞く。
昨日の夜は曇らせの俺の理想のシチュエーション、ベスト100を考えそこから更に理想かつ、至高の曇らせを10個にまで絞っていたらいつの間にか夜が明けていた。
まだ32個までしか絞りこめていないのに……これは今日も徹夜だな。
『全く、お主の狂気的な思考量に圧迫される我の気持ちになれ……』
(ふっ、これは俺の生きがいなんでな……辞めることはできないな)
『というかお主、前から思ってあったのだが理想の曇らせとやらのシチュエーションを見たいのな自分でそのシチュエーションを作れば良いのではないか? 我の力があればそれも可能であろう』
(ヴォルディア君……わかっていないな……いいか、俺はな俺の想定していない曇らせが見たいんだ。)
『ん? どいういことだ?』
(俺が魔法少女達を曇らせるのは簡単だ。だがそれは本当の曇らせなのか? 曇らせとはやはり魔法少女達が自然に絶望する姿だと思うんだ。だからこそ俺は曇らせを自ら作り出しに行こうとはしない。俺は自然に発生した曇らせを誰よりも近くでみたいんだ……)
『……なるほど……よく分からないがよく分かった……』
なんだかヴォルディアにちょっとだけ引かれた気がする。
今の話でそんなドン引きするような要素あったか?
「おーい、蒼太聞いてるか?」
「ん? なんだよ聖斗、今授業中だぞ?」
「おいおい、話何も聞いてねぇのかよ……」
聖斗は呆れたようにため息を吐くと説明を始める。
「今度、リゾート都市アルトゥヌムへ行くだろ? そのホテルとクルーズ船の部屋決めだよ」
「あー、あれか……」
私立流星学院は金持ちの子供が多く通ういわば超お嬢様、御坊ちゃま学校。なので必然的に定期的にあるイベントの規模も桁違いだ。
今回のイベントは一年生全員が対象の夏休み前のリゾート都市、アルトゥヌムへのバカンス。
リゾート都市アルトゥヌムは俺の前世の日本にはなかったこの世界だけの島で最先端の技術、娯楽、サービスの全てが整った高級リゾートだ。
当然、アルトゥヌムに向かう際のクルーズ船も豪華で映画館、プール、バー、トレーニングジムなど様々な施設がありこれだけでも主役を張れるレベルだ。
「ホテルとクルーズ船一緒の部屋でいいか?」
「ああ」
「了解、じゃあ書いとくわ。」
正直、今回のバカンスイベントはどうでもいい。だって原作でもアルトゥヌムなんて出てこないしな。
つまり、少なくとも旅行期間中、俺は曇らせを摂取することが出来ないことが確定しているのだ。
俺の曇らせ……
……まぁ、少しショックだが切り替えよう。せっかくだし今回は英気を養うとするか、心を休ませねば真に曇らせを楽しめぬって言うしな。
「にしてもまじで楽しみだよな! まさかあのアルトゥヌムにいけるなんて!」
「ん? まぁな。」
「あっちについたらビーチで一緒にナンパしようぜ!」
「するかアホ」
◇
魔界。
瘴気が満ちた一室にはセレクにより七魔帝全員が召集されていた。
「皆様、私の召集に答えお集まりいただき誠にありがとうございます。」
セレク席から立ち上がるとは集まった七魔帝に対し丁寧にお辞儀をする。
「セレク、早く話を進めろ。俺は暇じゃないんだ」
「そうだぞ、とっとと終わらせてしまおうではなきか!」
「私も早く趣味にもどりたいわ〜」
「クフフ、そうですね。では早速本題から……オメガについてです。」
七魔帝も今日の議題がわかっていたのか誰一人として驚く素振りを見せない。
「聞いたぞ、セレク。お前、オメガと闘って負けたんだろ。七魔帝の恥め。」
「ええ、分体とはいえ確かに負けました。私の命もあのお方があの場にいなければなかったでしょうね。ですがそれはここにいる七魔帝全員に言えることです。」
「何だと?」
「断言しましょう。オメガは私達よりも強い。それも圧倒的に。」
「肉弾戦最弱のお前の言葉など当てにならん。」
「クフフ、確かにそうですね私は肉弾戦最弱です……ですが総合力で七魔帝最強の私が判断するのです。彼はあのお方の障害に十分なり得る。」
セレクは眼鏡を上げながらそう断言する。
「ですので皆さんもオメガには十分注意してください。」
「うむ、心得たぞっ!」
「わかったわ〜」
「それとヴァイツ。あなたがアルトゥヌスで行なっている例の計画は順調ですか?」
セレクが進捗を尋ねるとヴァイツは嫌そうにしながらも報告をする。
「ああ、今の所問題はない。」
「そうですか、今度そちらに魔法少女達が行くらしいです。計画と同時進行で魔法少女の始末をお願いしますね。」
「……何だと?」
「これは命令ですよ、ヴァイツ。返事はどうしましたか?」
「セレク……貴様……俺に命令するな……!」
「おや、私より弱いあなたが私の命令を無視するなど———」
その瞬間、ヴァイツの怒りが限界に達した。
ヴァイツは剣を抜き高速でセレクの首を目掛けて振るう。だがあと少しで首に当たるというところで剣がピタリと止まった。
ヴァイツが力を入れようともその剣はおろか、全身が固まったように動かない。
「おっと危ないですね……物騒なものはしまってください」
「っ!」
ヴァイツがセレクの背後を見ると暗闇の中に白い人影が見える。
その人影が消えると同時にヴァイツの体が元に戻った。
「お願いしますね、ヴァイツ。」
「チッ」
「では、これで話し合いを終わります。それぞれ帰っていただいて結構です。」
会議が終わった途端、七魔帝は足早にゲートでそれぞれの場所へと帰っていく。
「さて、今回オメガはどう動きますかね」
セレクは微笑みを浮かべながら呟いた。
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