第35話 思い出の場所
エリザベートに連れられ、遊園地内の高級カフェに訪れた俺達はコーヒーとケーキを注文し、ただ無言でコーヒーをちびちびと飲んでいた。
いやなんだよこの空気……
しばらく無言の状態が続いているとエリザベートが口を開いた。
「さて……まさかこんなところで会うとはな、玲奈。」
「はい、本当に奇遇ですね、鬼龍院さん。」
もちろん俺の前で魔法少女同士として接するわけにはいかないのであくまで知り合いという感じの距離感だ。
ここは俺もあわせておくか。
「えっと……」
「すまない、自己紹介がまだだったな。私は鬼龍院刹那。アルテミスグループの代表取締役兼社長だ。」
「えっ! あのアルテミスグループの!?」
もちろん知っているがここは大袈裟に驚いておく。
それにしてもこの人32だってのにめちゃくちゃ若いなぁ……20代って言われてもわからないぞ……
「ほら、あなたも自己紹介しなさい。」
「お、俺は玲奈と同じ流星学院の速水蒼太と申しますっ!」
よし、圧倒的大物の前で緊張しまくる一般生徒モブの演技は完璧……流石に初対面で堂々としてたら目立つしすぐに忘れそうな印象のほうがいい。
「そこまで緊張する必要はないよ、気を楽にしてくれ。……」
「は、はい」
「それで? 二人はどうして今日ここへ? 二人はどういう関係なんだ?」
まるで可愛い娘に悪い虫がつかないように俺のことを睨んでくる。
いや、怖いなおい。
さっきまでの笑顔はどうした。
「彼は私の友達です。今日は前に彼にお世話になったお礼も兼ねて遊園地に遊びに来たんです」
「ほう、友達……か。それはいいものだな。てっきり私は彼氏が何かかと思ってしまったよ」
「彼とはただの友達ですよ、それ以上でもそれ以下でもありません。」
エリザベートの質問をルナは笑顔でバッサリと否定した。
あまりの「ありえないです」という態度に最初は疑っていたエリザベートも俺に憐れみの視線を向けてくる。
まるで「少年、元気出せよ」と言いたげな感じだ。
「そ、そうか……てっきり先を越されたかと……少年、蒼太と言ったな。玲奈とずっと友達でいてやってくれ。この子を頼む。」
「は、はい」
なんだこの結婚のあいさつ的な空気は……
「ところで鬼龍院さん遊園地好きなんですね意外でした」
「あ、ああ……まぁ、な……年間チケットを持っているくらいには好きだ……それに……昔後輩達とここに来たことがあってな……今日はその思い出を振り返りに来たんだ……」
誰かとの楽しい思い出を思い出しているのかそう話すエリザベートの表情は楽しく、儚げだった。
だがそれと同時に静かな怒りも感じた。まるでその大切な思い出を踏みにじった元凶を恨むかのように。
しばらくして自分の表情が少し暗くなっていることに気がついたのか先程と同じ笑顔に戻る。
「おっとすまない、少々昔を思い出していた……ああ、あと私が遊園地にいたということはくれぐれも内密にしておいてくれ。いいか、絶対に内密だ。」
「はい、わかりました」
よほど他の人に知られたくないのか念入りに口止めをしていた。
「助かる。さぁ、二人ともまだまだ好きなものを注文するがいい。ここの会計は全て私が待とう。」
◇
「「ご馳走様でした。」」
「構わない、二人ともまだまだ若いのだからな。」
結局あの後食事も食べさせて貰ったため結構な額になったのだがそれを黒いカードでスマートに払う姿はめちゃくちゃかっこよかった。
流石はアルテミスグループの社長。
魔法少女の円盤何枚位買えるんだろ?
「それにしても玲奈が元気そうで私は安心したよ。」
「私ですか?」
「ああ、結衣から少しトラブルがあったと聞いてね、心配していたんだ。」
「何も問題ありませんよ、私は大丈夫です。」
「そうか、また何かあれば私に相談してくれ。あとあの子のことも出来れば許してあげて欲しい。私は君達にはずっと仲良くいてほしいんだ。」
「わかりました、私は気にしていないと伝えておきます。」
「ありがとう、では私は行くとしよう。そろそろ仕事に戻らなければ。」
そう言って俺達に手をひらひらとふると何処かへ歩いて行く。
だがエリザベートが歩いて行った方向は遊園地のマスコットキャラクターとの写真撮影の場所だったことを俺は見逃さなかった。
「さて、私達もいきましょ、せっかく来たんだからまだまだたのしまなくちゃ」
「ああ、そうだな。」
俺達は再び遊園地内を歩き始めた。
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