第29話 破滅の魔剣

「頼んだぞ、オメガ。」


 俺にセレク討伐を託し、エリザベートは二代目達の元へ向かっていく。


「……」


「リリ、ソフィア、ミュー、アリサ、マナ……すまない……あの時、私がもう少し早く現場に着いていたなら……君達はまだこの世に生きていたかもしれないのに……」


 彼女達には伝わらないとはわかっていても一人一人の顔を懐かしむように見て話す。


 その横顔はとても切なげだった。


「はは、すまない——亡き君たちに許しをこうなど……こんな情けない先輩ですまない……」


 その時、リーダーのリリの瞳が揺れる。


『し……れ……』


「リリ……?」


『し……れ……ど……か……わたし、たち……を……』


 魂だけで感情がないはずの彼女の瞳から一滴の涙が溢れた。

 

「リリ……!」


『こ……ろし……て———』


「黙れ、魂だけの分際で私に逆らうな。」


 セレクがそう命じた途端、感情のない瞳に戻っていく。


『い……や———』


 抵抗するようにセレクを強く睨むも抵抗虚しく、再び感情のない瞳へと戻ってしまった。


「ふぅ、まさかほんの一瞬とはいえ、私の支配を緩めるとは……流石は魔法少女……その意思の力は私の想像以上に強いようだ。今度もう少し実験してみるとしましょうかね。」


 興味深そうに微笑み二代目達を見つめる。


「さて、『自然』の魔法少女リリ。ちゃんと暴虐の魔女を殺せますね?」


『はい……お任せください……セレク様。』


 そして再びエリザベートに剣を向ける。


「リリ……」


『……皆、暴虐の魔女を殺すのです。』


『『『『了解しました』』』』


「私が、お前達を解放する……!」


 そして彼女たちの戦闘が始まった。


 ……


 素晴らしい……


 素晴らしいっ!!


 まさかこれほどの曇らせを拝めるとは……!


 ふふふ……ふっはっはっは! 


 やべぇぇぇ、まじでテンションあがってきたぁぁぁぁぁ!


「では私達も再開しましょうか。」


「いいのか、手下が居なくなってしまったが。」


「問題ありませんよ、私にはまだまだ手札が残っていますから。」


 薄ら笑いを浮かべるとセレクが空に手をかざす。


 何もないはずの空間が歪み、虚空が生まれ、その中から一本の剣がセレクの手に収まる。


 その剣は刀身が赤く染まり、内包された力も禍々しく強力なものだった。


「ふんっ、それが貴様自身の本気というわけか……」


「ええ、魔剣エヴム。私の自慢の魔剣です。」


「いい魔剣だ……最初から出して入ればよかっただろう。」


「ふふ、私も闘いを楽しみたいんですよ。それにこれを抜いたのはあなたが初めてです。」


「少しは楽しめそうだな」


「ええ、お楽しみいただけると思いますよ……その切れ味……味わって見てください!」

 

 セレクが魔剣を片手で軽々と振る。


 しかし何も起こらない——はずはない。


 次の瞬間、俺は何かを感じ取り即座に横に避ける。


 すると俺が先程までいた場所の後ろにあったビルが切断され俺のローブの一部も見事に切り裂かれていた。


 完璧に避けたつもりだったんだが……まだまだだな……


『うむ、なかなか厄介な能力だな。』


(これ、見えない斬撃か?)


『ああ、セレクが空を切った瞬間斬撃は確かに斬撃は生まれた。だがその斬撃は何者の目にも捉えることは出来ない。我等の視力強化を待ってしても視認することはできない。』


(音も、姿もない……まさに不可視かつ、無音の斬撃か……なるほどね。普通に強いな。世界最強クラスの魔剣だな)


『ふっ、ただ一つを除いてはな。』


(ああ、違いない。)


 アレを使う時が来たようだ、


「どうですか、オメガ……私の至高の魔剣は。ご自慢のローブが破けてしまいましたね。」


「ふっ、貴様はたかが布ごときを切ったのがそんなに嬉しいのか?」


「ふふ、嬉しいですよ。貴方のような高みの存在に少しでも手が届いたのですから。」


 セレクは嬉しそうに微笑み、俺に剣を向ける。


「そろそろあなたの実力の一角を見せていただけませんか?」


「……死ぬぞ?」


「それは興味深い……是非お願い致します。」

 

「……よかろう。」


 俺は自身の中で魔力を高め、天に手を翳す。


 直後、天に巨大な虚空が空いた。


「———我が願望に答え、その姿を現せ。」


 俺の呼びかけに答えるように深淵に続くような虚空からモヤに包まれた何かが落ちてくる。


 そして俺の手に収まるとそのオーラを解放する。


「なんだこれは……」


 その直後、セレクの肌の表面が徐々に崩壊を始める。


「これは……まずいですね……」


 セレクは崩壊が全身に周る前にひびを追いかけるように再生していき、なんとか崩壊を止めることができた。


「はぁ……はぁ……はぁ……これほどの労働は久しぶりですよ……」


 セレクは息が切れ、その額には汗が滝のように浮き出ていた。


「さぁ、共に暴れに行こうぞ……」


 俺は黒いモヤが晴れた魔剣を構える。



「破滅剣エクシティウム」




【あとがき】


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