第26話 暴虐の魔法少女

「【暴虐の魔法少女】」


 鬼龍院がそう唱えた直後、鬼龍院を中心に周囲に強い衝撃波が発生する。


 ビルの窓は割れ、瓦礫が飛び散る。


 そして何処からか現れた黒いオーラが鬼龍院の体を包み、まるで大国の皇帝のような威厳溢れる衣装に変わっていく。


 そして変身を終えた彼女は漆黒のマントを靡かせ敵を見据える。


「な、ぼ、暴虐の魔法少女だと……?」


「あ、あの伝説の初代魔法少女か!」


 初代魔法少女。


 その名は人々の間では讃えられ、魔族の中では長年恐れられている。


 その五人の魔法少女はそれぞれが七魔帝と互角以上、上級魔族なら十人を相手にしても余裕で勝てるほどで人間界に侵略した魔族を一人残らず殲滅し、人類の平和を守り抜いた英雄だ。


「ほう、私の名を知っているとはな……そう、私こそが暴虐の魔法少女……エリザベート———」


「いや、その年でよく魔法少女と名乗れるな……むしろ魔女の方が似合———」


「少女だ。それ以上無駄口を叩けば貴様から血祭りに上げるぞ。」


「あ、すみません……」


 知らないうちに鬼龍院の地雷を踏んでしまった魔族は慌てて謝罪した。


「だがまぁ、どっちにしろ私の大切な後輩を傷つけたお前達の結末はは変わらないがな……」

 

 次の瞬間、鬼龍院の姿が消えた。


 まるで最初からそこには誰もいなかったように。

 

「私の可愛い後輩は返して貰うよ」


 背後でそう囁かれた直後、魔族の腕の中からフィオナが消え、鬼龍院先程いた位置に戻っていて回収したノアとフランを優しく抱き抱えていた。


(な、なんだ今のは……我等が反応出来なかっただと……)


 今、鬼龍院に攻撃されていれば自分達は死んでいたという事実に魔族達は心の底から震えが止まらなかった。


「フラン、二人を連れてなるべく遠くへ。」


「うん……わかった……」


 フランは二人を想像したベットに乗せ、自身も乗り何処かへなるべく遠くへ避難して行った。


 鬼龍院はフラン達が見えなくなるまで見送ると改めて魔族達に向き直る。


「さて、これで私も気兼ねなく戦える……」


 鬼龍院が深く深呼吸をした直後、地面がえぐれ、地震が起こる。


 暴虐の魔法少女エリザベート……その能力は———神の如き身体能力。


「まずは一匹目……」


「な、いつの間———」

 

 直後、言葉を発するまでもなく魔族の顔が粉微塵に吹き飛ばされ、鮮血が舞う。


「くっ、化け物めっ!」


 仲間が一瞬でやられたことに即座に気づいた魔族は次の標的が自分だと悟り、即座に全身に防御をかけつつ、対物理シールドを6重で展開する。


 魔族の予想通り空中で軌道を変え高速で向かってきた。


「無駄な足掻きを……」


 鬼龍院が拳を振りかぶった瞬間、対物理シールドは瓦割りのようにあっけなく全て割れ、魔族に衝撃が襲いかかる。


 まるで隕石に衝突されたかのような衝撃で激しく地面に叩きつけられた。

 

「少し手加減してやった……まだ生きているだろう? 立て。貴様にはもっと苦しみを与えなければ気が済まん。」


 鬼龍院は魔族をゴミを見るような目で見下す。


「は……はっはっは……なる……ほど……流石は初代魔法少女……圧倒的だな……だが所詮はヴェヌズフィア様に敗れた者達……お前を倒して俺は七魔帝に……」


「貴様……私の最も大切な仲間を侮辱したな……? 貴様のようなゴミが、私の仲間をっ!!」


 空気が揺れ、鬼龍院からこれまでにないほどの殺気が放たれる。


「貴様も頭を潰して殺そうと思ったがやめだ。」


 魔族に近づくと魔族の頭を片手で鷲掴みにしゆっくりと持ち上げる。


 そしてそのまま空高く放り投げると自身も追うように地面を蹴り、はるか上空へと飛翔する。


「貴様の生きた証すら残さず吹き飛ばしてやろう。」


「なに———」


「《暴虐たる神の憤り》」


 その瞬間、魔族は跡形もなく蒸発し、天に穴が空いた。


 時刻は夜の10時だというのに抉られた穴からは青く透き通った空がその姿を覗かせていた。


「……やりすぎたな……昔はよくあいつに怒られたものだな……」


 鬼龍院は物憂げな瞳で穴が空いた空を見つめ、地上へと降りて行った。



 ◇



「鬼龍院司令……」


「遅くなってすまない。無事に避難出来ていたようで何よりだ。」


 まだ司令と別れてから10分もたってないんだけど……


 私達があれだけ苦労していた上級魔族を倒すなんて……やっぱり司令の強さは異次元だ。


「うん……今手当てしているところ……特にノアの傷がひどい……」


「うむ、どれ。」


 司令がノアの頭を優しく撫でる。


 するとノアの傷口の血が止まり軽い傷は塞がった。


「すごい……」


「私ではここまでの回復が限界だ。私のかつての仲間なら全回復させられただろうがな……」


「ううん……十分すごい……」


「ふっ、そうか……ありがとう、フラン。」


 そう言って司令は私の頭を撫でる。


「むぅ……これじゃ子供みたい……」


「私にしてみれば可愛い子供のようなものだからね、君達は。……ところでフラン、他の子達の状況と魔族についての情報を教えてくれるかい?」


「うん……わかった……」


 私はこれまでのことを全て司令に話した。


 すると司令の表情がどんどん暗くなる。


「オメガ、セレク……本当に奴らがここにいるのか?」


「うん……」


「私は二人の救出と並行してセレクの討伐とオメガとの接触に行く。フランは引き続き二人の手当を頼む。」


「わかった……任せて司令……」


 私の返事を聞いて微笑んだ後、司令は飛び去っていった。


 クリスティナ……ルナ……無事だといいけど…… 

 







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