第23話 あなたが私の生きる意味

「おい、小娘……まさかお前が我らの相手をするつもりか?」


「ええ、その通りよ」


 私がこの魔族達の相手を……分が悪いにも程があるわね……

 

 相手は私達が一度も勝ったことがない二つ名待ちの上級魔族五人。私一人で勝てるはずがない。


「……ルナ……私……なんてことを……!」


「クリスティナ……私は大丈夫だから。少し休んでて、ここは私がやる。」


 今の精神状態のクリスティナに戦闘はできない。やはりここは私一人で——


「【絶対零度の魔法少女】」


 私は唱えた。


 その瞬間、冷気が私へと集結し、白いドレスを生成していく。


「さぁ、始めましょ」


「哀れだな小娘……我等と貴様の強さの桁も計れんとは……」

 

「……わかっているわよ……そんなの……それでも私は彼の期待に全力で答える!」


「そうか、ならば我等相手に何秒生き残れるか試してみよ!」


 魔族が一斉に私に近づいてくる。

 

 その表情は余裕に満ち溢れていて自分達が負けるとは少しも思っていなさそうだ。


 絶対的強者故に生じる油断……この魔族達に能力という点において圧倒的に劣る私はそこを狙うしかない。


「コールドフリーズ!」


「随分と涼しいな!」


 魔族が剣を大きく振りかぶる。


 速い……けど見切れる……!


 私は先程彼がセレクの鋼糸を避けた動きを真似して最小限の動きで剣を躱す。


 っ! やっぱり彼のように完璧には行かないわね……


 完璧には避けきれず肌に一筋の傷が出来る。


 でも……相手が攻撃を振った今なら!


「なっ!」


「コールドフリーズ!」


 私は魔族の顔目掛けて威力を上げたコールドフリーズを発動させる。


 剣を振りかぶった直後で防御が間に合わず魔族の目に冷気が炸裂し魔族が苦しそうに目を擦る。


「がはっ……な……んだっ……! これ……は……!」


「今っ!」


 私はその隙を見逃さず、氷剣フリーズを魔族の腹部に突き刺すことに成功する。

 

「小娘がぁぁぁぁぁっ!」


「まだよっ!」


 私は突き刺したフリーザに冷気をこめる。


 すると魔族の体内が少しずつ氷結されていく。


「がぁっ! このままでは……! お前達!」


「ったく、小娘相手にいつまで何やってんだっ!」


 四方から同時にに魔族達が迫る。


 私は一旦魔族から剣を引き抜き、魔族の剣を最小限の動きで躱わす。


「ちっ、こいつっ!」


 いける! このまま彼のように避け続けながら隙を見て攻撃すればっ!


「ぐっ、やられたぞ小娘……正直お前をみくびっていた……ここからは全力だ!」


 直後、魔族達の気配が変わる。


 先程までの余裕そうな表情はどこにもなく人を殺すことだけを考えているかのようだ。


 ここからが本番……ということかしら……気を引き締めて行かないと……


 その直後、私の背後に凄まじい殺気を感じた。


 私は即座に反応し振られた剣を避ける。


「……っ!」


「ほう、やるな」


 背後に立たれるまで分からなかった……殺気に気づかなければ私は……


「だが、まだまだ……ここからだっ!」


 一斉に魔族たちの高速の剣が私を襲う。


 私はその一つ一つを紙一重で躱しながら隙を探ろうとするがそんな余裕もないほど避けることに全神経を集中しなければならなかった。


 このままではいずれ体力が尽きる……その前にこの魔族達を倒さないと……!


「ちっ! ちょこまかと……」


 魔族達も苛つきで集中力がなくなってきている……このまま避け続ければいずれ隙も——


 その時、身体がピクリとも動かなくなった。


 どうして……


「いつまでも時間を掛けないでください。私の金縛りで動きを止めましたので今のうちに。」


 声のした方向を見るとセレクがこちらに向かって手を向けていた。


「ありがとうございます、セレク様。すぐにそのように。」


 動けない……どうして……動いて……動いて……!


「小娘、ここまでだ。」


 その言葉が聞こえた次の瞬間、魔族の剣が私の腹部を貫いた。


「かはっ……」


 腹部が血で赤く染まり燃えるように熱い。


 全身から徐々に力が抜けていき、私の手から氷剣フリーズが溢れた。


 浮力を維持することが出来なくなった私の身体はゆっくりと地上へと落ちていく。


「かっはっはっはっ! みろっ! やってやったぞ」


「全く、小娘一人に時間かけ過ぎだ。」


「ルナっ!」


 声がした方を見るとフィオナ達が増援に駆けつけていた所だった。


「あっと追加の魔法少女か……ここは俺達三人でやっておく……お前たち二人はあいつらの相手をしてやれ……」


「ああ、わかった」


「くっくっく楽しませてくれよ魔法少女。」

 

「くっ、みんな行こう!」


「はい……!」


「……行く」


 魔族とフィオナ達が何やら喋っているが私には聞こえない。


 意識が薄れていく……腹部を完全に貫かれた……私は死ぬんだ。

 

 だが不思議と怖さはない。


 少しでも彼の役に立てたならそれでいい。


「これで——わりだ——ね」


 魔族達が何かぼんやりと呟いた直後私に向かってエネルギー弾が飛んでくる。


「オメガ……私……あなたの……役に……立てた……わよね……?」


 ゆっくりと目を閉ようとしたその瞬間、声が響く。


「ああ、勿論だ。」


 その声と同時に私に迫ってきていたエネルギー段が崩壊する。


 まさか……


 私が閉じようとした目を開けるとそこにはオメガが立っていた。

 

「オメ……ガ……」


「今治そう。」


 彼が私の傷口に手をかざすと瞬く間に傷が塞がっていき、体力も回復していく。

 

 暖かい……


「戦闘中に仲間の援護とは……随分と余裕そうですね」


「お前が言うな。」


 彼は私に手を差し出す。

 

「まだ闘えるか?」


「ええ、大丈夫。」


「そうか、なら必ず勝て。お前なら出来る。」


 そう言って再びセレクとの戦闘へ戻って行った。



「ええ、もちろんよ……オメガ……いいえ、オメガ様……ふふっ」



 有り余る喜びを抑えられず笑みが溢れる。


 彼が私に———ああ……考えるだけでも全身がゾクゾクする……


「オメガ……願わくば……私を……!」


「ふんっ、命拾いしたな……だが少し寿命が伸びたにすぎん!」


「ふふ、まずは彼の邪魔になるゴミの掃除から始めないとね……」


 彼の道の邪魔をする者は誰であろうと排除する……それが彼が私に望むこと……


 そして私は唱えた。


「【————の魔法少女】」


 オメガ……あなたが私の生きる意味。

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