第22話 彼の期待
夜、都心。
俺は何百メートルもあるタワーの頂点に立ちとあるビルの屋上をじっと見つめる。
そこには二人の少女、ルナとクリスティナが話していていてルナの顔が絶望に染まっている。
「……」
俺は特に感想を語るわけでもなくじっとその場面を見つめる。
まぁまぁの出来の作品を見る時は友達と楽しく談笑しながら見るが圧倒的な大作の映画を見る時は黙って全力で堪能するだろう? そんな感じだ。
そして場面はいよいよクライマックスへ。
クリスティナがルナをビルから突き落とす。
その瞬間、クリスティナが正気に戻る。
「いや……ちがっ! なんで……ルナ!」
その顔が絶望と後悔に染まりもう届かないとわかっているのにそれでも必死に手を伸ばす。
ああ……いい……!
夜の静けさに心地の良い夜風……そして魔法少女二人の曇らせ……今宵、俺は最高の気分だ。
本来ならこの気分のまま帰って布団の中でゆっくりと余韻を堪能したい所だが……まぁ、それは一仕事終えてからだ。
死なれちゃ困る……まだまだ曇らせを堪能させてもらわないと。
『……堪能する時間は終わったか?』
「おう、ありがとな。静かにしててくれて」
『お前にはもう慣れたからな……それよりあの娘から魔族の魔力を感じる……それもあの反応は七魔帝だな。』
「ああ、恐らく七魔帝のセレクだ。」
『なるほどな、それは楽しめそうだ。』
「俺達なら余裕だろ、相棒。」
『ああ、我らの足元にも及ばないことを思い知らせてやろう』
俺は瘴気で仮面を作り出し、被せる。
「……行くか。」
俺はタワーから音速以上のスピードで、落下するルナの元へと向かった。
◇
「クフフ、さぁ、始めましょうか」
セレクが指を少し動かした直後、その動きを見たオメガ最小限の動きで何かをかわすように身を翻す。
その直後、夜闇に黒く輝く鋼糸が先程まで私達がいた空間を切り裂く。
「ほう、なかなかに鋭い……」
「鋼糸か……なかなか面白い……」
「クフフ、少し趣味で嗜んでおりまして……糸には猛毒がありますので触れればたとえ貴方でも彼女を守るのは厳しくなるかと。」
「当たればな。」
「ほう……遊びですが少しだけ本気を出しましょうか。」
今度は両手の全ての指を細かく動かし、鋼糸による斬撃が幾重にもオメガめがけて襲いかかる。
だがその一つもオメガに当たることはなく、オメガは私を抱えているというのに全てを最小限の軽やかな動きで交わしていく。
(す、すごい……!)
オメガに抱えられている私はずっと心臓の鼓動が高鳴っていた。
今、触れれば即死の攻撃を私達が襲っているというのにオメガに抱えられた私はここが今世界で最も安全で安心できる場所だと確信していた。
でもオメガは私を守りながらだから———
「オメガ、邪魔なら私を下ろして!」
「ふっ、さっきも言っただろう。天使の羽ののように軽いと。この程度なんの支障にもならない。」
その言葉で更にうるさいくらい私の鼓動が高鳴る。
……もう……これじゃあバレちゃうじゃない……
私は鼓動の高鳴りがオメガにバレてないか恥ずかしくなり頬が赤くなった。
「クフフ、私の攻撃を交わしながら楽しげに会話とは……随分と余裕ですねっ!」
直後、網のように重なった鋼糸が私達の周囲を囲む。
「さぁ、どうしますかオメガ。逃げ道はありませんよ?」
「ふっ、くだらん。無いなら作ればいい。」
迫る鋼糸に向かってオメガが手を振り下ろすと鋼糸は簡単に切り裂かれた。
「クフフ、流石オメガ……期待以上ですね。これは楽しめそうです。」
「まだやるか?」
「当然です、私は貴方と闘うのを楽しみにしていましたから。ですがきちんと仕事もしないといけませんね……」
セレクがそう呟いた瞬間、セレクの背後に虚空が現れる。そこから続々と魔族達が出現し、合計5体の魔族が出現した。
その一人一人がセレクに及ばないまでも凄まじい力を秘めていた。
「ここに居るのは全て上級魔族の二つ名待ちです。都心の殲滅は彼等に任せるとしましょう。どうします、オメガ。私か上級魔族五人の相手か。」
「……」
オメガは何も答えずにゆっくりとビルの屋上に降り立つと私を丁寧に下ろした。
まだもう少しだけオメガの腕の中に包まれていたいという名残り惜しさもあったが私はオメガの迷惑にならないように自分に言い聞かせた。
そしてオメガは私に近づくと深淵に響くような声で言った。
「……任せるぞ」
すれ違い様に私にそう言って、オメガはセレクの方へと向かっていく。
「お前の相手は私がしよう。」
「クフフ、そうだと思っていましたよオメガ。楽しい戦いにしましょう。」
私が……この五人の相手を……
過去、私達はこの上級魔族達に何度も敗北してきた。正直怖い……でも恐らくオメガは危険な方の七魔帝を引き受けてくれた。
なら私も……!
「ええ……任せて……!」
私は彼の背中にそう返した。
彼の期待は絶対に裏切らない!
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