第21話 絶望

「やぁ、来たね、ルナ」


「クリスティナ……」


 待ち合わせ場所として指定されたアルテミスグループのビルの屋上へと行くとそこには覇気の無いような表情をしたクリスティナが待っていた。


 最近クリスティナは学校にも来ていなかった。会うのはかなり久しぶりだ。


「久しぶりだね、ルナ。元気だったかい?」


「ええ、私は元気……ではないかしら。あなたこそしばらく休んでいたけど傷の方はもう大丈夫?」


「それなら心配には及ばないよ、傷はもうある程度直って来ているからね」


「そう……それで、私を呼び出した理由は何?」


 私はこれ以上クリスティナと話しているのが怖くて早く本題を話すように促した。


 今日のクリスティナはどこか可笑しい。いつもなら言葉の節々から優しさが伝わってくるのに今日のクリスティナの言葉は何処か悪意を含んでいるように感じた。


「ふふふ、そうだね。それもそうだ……ルナ、最近皆から無視されているだろう?」


「ッ!」


 まるでこちらの心を見透かしているかのように私の悩みを当ててくる。


「可哀想だよねぇ、みんなに無視されて……もしかして仲間と話したのは私が久しぶりかな?」


「……それで、それがどうしたのよ」


「ふふふ、皆にルナと接触を断つように言ったのは私って言ったらどうする?」


「え……?」


 言葉が固まる。


 そんな……なんで……


「なんでって顔だね、教えてあげるよ。ルナ、現在君には裏切りの容疑が掛かっている。」


 私は必死に理由を探して見るが裏切りの心当たりなんてない。


「君はオメガと最初から手を組んでいてこれから先、何か大きな事を起こすんじゃないかと私が皆に言ったんだよ。」


「そんなことありえないわ!」


「君が疑われているのにはきちんと理由があるんだよ? 一つ、私達がやられているのに毎回君だけがオメガに助けられている。二つ、君がオメガを庇ったこと。以上から私は君を裏切り者と判断した。」


「彼は私達を助けてくれたじゃない! 恩人の彼を庇うのは助けられた者として当然よ!」


「まぁ、君ならそう言うと思ったよ。私にとっては君が裏切っていようといまいと関係ないんだ。」


「……どういう意味?」


 クリスティナは不適に微笑むとゆっくりと私の方へと歩みを進める。


「ルナ。私はね、ずっと君のことが嫌いだったんだよ。」


「え……」


 その言葉は私の心の奥深くまで突き刺さる。


「君のいつも上から目線の発言、人を見下したようなその目。私は君の全てが嫌い。」


 や……めて……


「みんなも私と同じなんじゃないかな。だから私の言葉に簡単にしたがってみんなでルナを無視した。」


「そん……な……」


 みんなが……私を……


 その時私は自分の心が、精神が音を立てて崩れていくのを感じた。


 私は……何のために……魔法少女を……


 魔法少女としての自分の存在意義をどんどん見失っていく。


「改めて言うよルナ……私達の前から消えて。」


 その言葉で私の精神は完全に崩壊した。


 私は……何のために……生きて……いるの……?


 大切な仲間からの消えてという言葉に私は最早生きる理由すら見失った。

 

 気づけば私は無意識歩みを進め、屋上の端へと向かっていた。


 黒い私の心とは逆に目の前には煌めく夜景が広がっている。歴代の魔法少女達が守ってきた夜景だ。


 もう……いいわよね……


 私は……みんなの迷惑になるんだったら……死を選ぶわ……


 そう思い足をビルの外へ落ちようとしたその時、背中に強い衝撃が走り私は輝く夜景に倒れた。


「そう、それでいいよルナ。今までありがとね。」


 最後にクリスティナが嗜虐的に笑ったのが見えた。


 そう……クリスティナは私をそこまで……


 仲間にこれほどまでに嫌われていたことにさらに心が壊れる。


「え……」


 だがその直後だった、嗜虐的な笑み浮かべていたクリスティナの表情がどんどん曇っていく。


「いや……ちがっ! なんで……ルナ!」


 彼女は何故か私に向かって手を伸ばす。


 なんで……そんな顔で手を伸ばすの……? まるで大切な友達を失いそうな子供みたいに……


 もう全てに任せて目を閉じようとしたその時、脳裏に彼の言葉がよぎる。


『死ぬな』


 オメガ……ごめんなさい……!


 目から涙が溢れたその時、何処からか声が響いた。


「貴様はそれで終わりではないだろう。」


 その瞬間、落下して行く私の体が何かに抱えられ、ふわりと宙に浮く。


「あ……」


「軽いな、まるで天使の羽根のようだ。」


 仮面で隠れているが私には彼が優しく微笑んだのがわかった。


「オメガ……!」


 私は衝動的にオメガに抱きつく。


 オメガも落ち着かせるように優しくトントンと私の背中を叩いてくれた。


「まさか落下する彼女を救うとは……お見事で御座います。」


「……貴様は七魔帝のセレクか。」


「私の事をご存知とは……光栄です。まさかオメガに認知されていたとは。」


 この男が七魔帝……!

  

 禍々しい角に背中から生えた龍のような翼その男からはこれまで闘ってきた魔族など比較にならないほどの力を感じた。


「それにしても……クリスティナ、素晴らしい演技でしたよ。あなたには役者としての才能がある。」


「あ……ああ……」


「まぁ、氷姫のルナを潰すという使命は果たしてくれませんでしたが、よく働いてくれました。」


 まさかクリスティナはこいつに操られて……!


 その直後、セレクが空に向かって手をかざすと空が赤黒く染まっていく。


「さぁ、始めましょうか……大災厄を。」

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