第20話 曇り

 今日も屋上で昼休みを過ごす俺はいつも通りベンチに腰掛け、ルナと一緒にお弁当を食べているんだが……


「……」


「……」


 先程からなんだ……この沈黙は……気まずい……


 もうかれこれ10分はお互いに何も喋らず、無言の状態が続いている。正直この沈黙は地獄並みの居心地の悪さである。


 だが俺にとって救いだったのはルナがいつもより元気がなく、何処か覇気のないような、絶望しているような様子だったことだ。


 ああ……いいな……

 

 しばらく楽しませてもらっているとルナが口を開いた。


「ねぇ……私って嫌なやつかしら……」


「……急にどした?」


 やはり……いよいよ始まったか。


 俺は曇らせの予感に胸をたかならせつつも落ち着いて話を聞く。


「最近思うのよ……私って、周囲に対して冷たいから……」


「確かにそれはあるかもな」


「やっぱりそうよね……」


 更に表情が曇る。


「何かあったのか……」


「別に……何も……」


「そんな顔で何もないわけないだろ、人に話せば少しは楽になる。そうだろ?」


「……それも……そうね……」


 よしっ! これで曇らせの詳細を聞く事ができるぞ! 


 俺は内心ガッツポーズをした。


「実は最近友達に避けられているような気がして……私が話しかけてもすぐに何処かへ行ってしまうの……」


 間違いない。


 やはりこれはあの特大曇らせイベントだ!


「なるほどな、玲奈が何かしたとかじゃないんだよな?」


「ええ……心当たりはないわ……本当になんで避けられているのかわからないの……」


 魔法少女、『氷姫』のルナ、玲奈は一見、才色兼備の完璧冷酷美少女に見えるが実は違う。


 その周囲を寄せ付けないオーラと毒舌は自分を守るための武器。本当は飴細工のように繊細で壊れやすい心で魔法少女の中で一番精神的強そうに見えて実はその逆、一番精神的に脆く、不安定だ。


 そんな子が誰よりも大切に思っている仲間から避けられたらどうなるか……それは今のルナの様子が物語っている、


「そうか、それは大変だな」


「どうせ、あなたには何もわからないわよ……」


 こちらを睨み八つ当たりするようにそう呟いた直後、すぐにその表情が後悔に染まる。


「ご、ごめんなさい……! 私ったら……っ! お願い……見捨てないで……あなたも居なくなったら私は……っ!」


「別に気にしてねーよ、いつものことだろ?」


 いつも通りの俺の様子に安堵したのか怯えるような表情が少し柔らかくなる。


「そう、だったわね……ふんっ、あなた私が落ち込んでいるのに慰めの一つもないの?」


 あ、いつものルナだ……


「慰めて欲しいのか?」


「別に、あなたの慰めなんていらないわよ」


「えー……さっきと言ってること違くない?」


「はぁ……あなたと話しているとなんだか落ち込んでた私が馬鹿に思えてくるわね……」


「それならよかったよ。……でも、まぁ……もし限界って時は俺を呼べ。上手い慰めとかはしてあげられねーけど、側にいてやることはできるからな。」


 そうそう、やっぱり曇らせは一番近くで拝みたいからな!


「……ありがと、そうさせてもらうわ。」


 彼女は少し頬を赤く染めそう呟いた。


 

 ◇



 放課後。


 既に空は暗くなり始め、部活動がある生徒達も徐々に帰宅を始めている。


「そろそろ、帰ろうかしら」


 生徒会室で作業していた私はペンを置き椅子から立ち上がる。


 何かに集中しているとその間は不安なことも忘れられるのでついつい遅くまだやってしまった。


「蒼太も……たまにはかっこいいこと言うのね……」


 私は昼休みの事を思い出して呟く。


 あの時の彼はいつもよりたくましく見えた。まるでオメガのような……


「いえ、全然違うわね」


 蒼太とオメガはまるで真反対のような存在だ。あんなだらしのないやつがオメガに似ているわけがない。


 ……はずなのに私は何処か蒼太に惹かれる。


 何度も命を救ってくれたオメガの方が圧倒的にかっこいいはずなのに……オメガと同じくらい私は蒼太のことが好きになっていた。

 

 なんなのかしら……でも蒼太のお陰で少しだけ勇気が出た。


「明日……もう一度みんなと話してみよう。」


 そう心に決めた時、携帯の通知がなった。


 誰かしら……


 携帯を手に取り通知の内容を確認するとそこにはクリスティナから一通のメッセージが届いていた。


『今から会えない?』

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