第19話 疑惑

 嘘だよね……ルナがそんなわけ……


 私は先日クリスティナが言ったことをなんとも考える。


「ルナは裏切りものだよ」


 あの日集合していた私達にクリスティナは冷淡に告げた。


 直後、クリスティナの言葉を私の思考が全力で否定する。


 そんなはずない……だってルナは優しくてかっこよくて……いつだってみんなのことを大切に思っていた……ルナが裏切りなんて……


「そんなはずないよ! ルナは裏切りなんかしない!」


「フィオナの言う通りです、ルナは私達魔法少女の一員です。クリスティナ、それはあなたもよくわかっていますよね?」


「……そんなことは……ありえない……」


 するとクリスティナはみんなが反論することがわかっていたかのように理由を話し始める。


「オメガは私達がピンチの時によく現れて私達を救ってくれた……でももしそれが最初から仕組まれていたこと……ルナとオメガが最初から協力関係にあったら? そうだとしたらルナがオメガを庇ったのにも納得がいかない?」


「そんなこと———ッ!」


 否定の言葉を出そうとするが出てこない。今のクリスティナの言葉に少しでも納得してしまっている自分がいた。


 違う、違う、違う! だってルナは———

 

「ルナは最初から私達を騙していたんだよ。」


「違うよ、クリスティナは間違ってる!」


「……フィオナ、あなたはそれでも私達のリーダーなの?」


 子供を見るような目で呆れたようにため息をするクリスティナ。


「もし、ルナが本当に裏切りものだった場合、あなたはどう責任をとるつもりなの?」


「それは……」


「ほら、何も考えてない。本当に駄目なリーダーね。」


 クリスティナの一言一言が私の心に深く突き刺さる。


 前からずっと思っていた……こんな勉強もできない、運動もできない、強さも、人をまとめる力もない……本当に何の取り柄もない私が魔法少女のリーダーで本当にいいのかと……


 それでもなったからには一生懸命にリーダーをこなした。いつも明るくみんなに声を掛けて常にメンバーの様子に気を遣った。


 それでも私はリーダーとしての自信を得られなかった。


 私は……リーダー失格なのかな……


「クリスティナ、どうしたのですか? 今日のあなたは様子がおかしいですよ。いつものあなたなら仲間にそんなこと言わないはずです。」


「君も甘いよ、ノア。ただ優しいだけじゃ仲間は守れないよ?」


「……」


 クリスティナの言っていることは正しい、もし仮に……あり得ないとは思うけど……ルナの裏切りが本当だったら私は……


「とにかく、私はルナから魔法少女としての資格を取り上げるべきだと思うよ。でも、決めるのはリーダーだ。ルナを裏切り者と判断してこのチームから追放するか、それとも信じて泳がせるか。さぁ、フィオナ。どっちか決めてよ。」


「クリスティナ、あなたは———ッ!」


「クリスティナ……これ以上は見過ごせない……発言を取り消して。」


「私はただ思ったことを言っただけだよ。発言を取り消す必要性を感じないな」


 私が……決める……


 リーダーとしての重圧、それがこんなに重くのしかかるのは初めてだ。


 リーダーの私の言葉で全てが決まる。


「私は———」


 ルナはやっぱり裏切ってなんかないと言おうとしたところでさっきのクリスティナの言葉が脳裏をよぎる。


『ルナが本当に裏切り者だった場合……あなたはどう責任を取るつもりなの?』


 私はルナを信じたい……その為にも———

 

「……分かった。じゃあルナとは裏切りの疑いが晴れるまで接触を絶とう。」


「フィオナっ!」


「流石、我らがリーダーだ。いざという時は頼りになる。」


「でもルナの無実が判明したらルナに誤ってあげて。私達も謝るから。」


「もちろん、約束するよ。最も、その必要はないと思うけどね。」


「……約束だよ。」


 そうして私達はしばらくルナと接触を絶つことにした。


「結衣……おはよう」


「玲奈……」


 しばらく考えがながら歩いていると玲奈が声をかけて来た。

 どこか不安そうな、泣きそうな表情だった。


 今すぐおはよう! と元気な声で返してこの不安気な表情を飛ばしてあげたい……でも——

 

 いや、私は魔法少女のリーダーなんだ。ルナの無実を証明するたまにも今は……


 私はリーダーであることをもう一度自分に言い聞かせて必死にその気持ちを押し殺す。


「今日、よかったら一緒にお昼食べない? 私のペットもいるけど結衣もあいつとは仲良いって言ってたから———」


「ごめん、私少し急がないといけないから」


 玲奈の表情一気に絶望へと変わる。


「ッ……! そうよね……無理言ってごめんなさい……」


「大丈夫、それじゃあね」


 私は大きな罪悪感を抱えながら早歩きで教室へと向かう。


 ごめん、ごめん……玲奈……ごめん……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る