第18話 失ったもの

「はぁ……やれやれ……社長になったはいいものの……やはり大変だな……」


 書類の確認を終えた私は一人天を仰ぐ。


 私はあらゆるものを手に入れた。


 力、富、権力、社長の座。


 一見何もかも満たされているように見えるが私の心が満たされたことはただの一つもない。


 私は数々の失ったものをなんとか埋めようとしたに過ぎずその大きな損失はどれだけ足掻こうと二度と戻ることはない。


「みんな……逢いたいよ……」


 デスクの脇に飾られた写真に映ったかつての仲間に語りかけてみるが返答はない。


 写真に映ったみんなはあの頃のままの姿なのに私だけがどんどん歳をとっていて今ではもう32の年になってしまった。


 あの子達に早く結婚しないのかと言われるが……まぁ、私はこのまま独身を貫くがね。


 こうしていると自分が孤独だということを強く実感する。もう、仲間達とは永遠に会えないのだと。


 仲間を懐かしむ気持ちと同時に私の中にずっとしまっていたドス黒い感情が湧き上がる。


「あの二人だけは絶対に私の手で……大切な仲間と可愛い後輩を亡き者にしたあの二人の魔族だけは……!」


 二代目魔法少女……その結末は実に悲惨なものだった……私が駆けつけた時には既に殲滅ししていた。


 あの時のアイツの嗜虐的な笑みが私の脳裏に色濃く焼き付いている。


 私はもうあんな光景はもう二度と見たくはない。


 今の所あの子達はなんとか全員かけることなくここまで来ている。なんとか全員最後まで生き残ってほしい。


 私は椅子から立ち上がりガラス越しに広がる夜景を眺める。


「……変わらないな」


 昔みんなで揃ってみた夜景はからわず今も輝き続けている。これは人々の安寧の証拠であり、私達が守り抜いたものだ。


 これから先もこの夜景を私達は守り続けなければならない。


 ふっ、もう私も30を超えてしまった……この年で魔法少女と名乗るのは恥ずかしいがな……

 

「あの子達を見守っててあげて……みんな……」



 ◇



「あ、優菜」


「れ、玲奈……すみません、私図書委員の仕事がありますので……」


 私が声をかけると優菜は気まずそうに視線を逸らし足早に何処かへ行ってしまう。


 またね……


 ここの所私が声を掛けてもみんな何故かすぐにどこかへ行ってしまう。まるで避けられているかのような感覚だ。


 何か自分が仲間達に何かしてしまったのかと思考を巡らせてみるが何も思い浮かばない。


 もしかしたら私が気づかない内にみんなに酷いことをしてしまったかとしれないわね……私は不器用だから。


 そのせいで小中学校は友達が一切出来なかった。


 せっかく出来た友達を失いたくはない。


 そう思いながらも私はいつも通り屋上へと向かう。


 昨日も屋上には来たが蒼太はいなかった。


 もし今日もいなかったら……


 そんな不安を感じながらも私は扉を開いた。



 ◇



「蒼太。」


「ん? なんだ、玲奈か」


 屋上にいると珍しくルナが姿を表した。


「今日はいるのね、あなた昨日は何処にいたの?」


「ん? 昨日は来栖さんと一緒に食堂で食べてたけど———って、なんでそんな怖い顔すんだよ!」


「別に、してないわよ」


「してるだろーが!」


『また、私以外の女友達と仲良くしてたのね……』


 何やら小さく呟いてから俺の横へと腰を下ろす。


 なんか今日機嫌悪い気がする……


「……まぁいいわ。そんなことよりお昼にしましょ。ほら、餌よ。ありがたく受け取りなさい。」


「なんか複雑なんだが……ま、さんきゅ、助かるわ」


 俺は弁当を受け取り、包を開く。


 するといつも以上に手が込んだ和食が並んでいた。


「おぉ……これはまた美味そうな……いただきます!」


 うん、美味い!


 最近はずっとコンビニ飯続きだったから染みる……俺もなんだかんだでルナのお弁当の味がかなり気に入ってたんだなー

 

「ねぇ、蒼太。」


「ん、なんだ?」


「あなたは……ずっと私の友達でいてくれる?」


「ん? ああ、弁当くれるならずっと友達だな。」


「あら? それなら友達ではなくて私のペットになるけど? 名前は何にしようかしら……」


「くっ……まぁ、別にそれでも……いや良くなーい! 誰がペットだぁっ!」


「ふふ、冗談よ。あなたはいつも通りで本当に安心するわね。これからもずっとそのままでいてね。」


「ん? ああ……」


 どういう意味だ?



 


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