第17話 慈愛のノアとのお昼

「はぁ、疲れた……」


 ようやく四時限目の授業が終わり昼休みへと入った。  


 授業中はいつの間にか寝ていてほとんど内容を覚えていないがなんとお隣の魔法少女、フィオナ様がノートを写させてくださるので今日も特に問題なく昼休みを迎えた。


 さてと……今日も屋上で飯食うか。


 そう思い屋上へと歩みを進める


 まぁ、今日もルナはこなさそうだけどな……

 

 ここの所ルナは屋上に来ていない。


 まぁ、どうせ生徒会と魔法少女としての仕事が忙しいんだろうな。

  

 そう思い歩いていると背後から肩をトントンと軽く叩かれた。


「速水くん」


 そう呼ばれ振り返ると頬に白く細い指が当たった。


「ふふ、成功しましたね」


 お淑やかな仕草でイタズラが成功した子供のようにクスリと笑う。


「……えっと……これは……」


「ふふ、すみません。何度かお声がけさせていただいたのですが気づかれていないようでしたので少しイタズラしちゃいました♪」


 振り返ると魔法少女、『慈愛』のノアこと来栖結衣がいた。


 ……学校で会うのは初めてだな。

  

 彼女は学校では図書委員会の委員長をしていてその恵まれた容姿と誰にでも優しい性格から図書室に行く男子が圧倒的に増えたのだという。


 だがまぁ実際はかなりドエス的な一面もあるらしく告白してきた男子は容赦のない言葉を浴びせられ、粉々に玉砕するらしい。


 そんな彼女が特定の男子に話しかけるなど滅多にないことだ。


「お久しぶりですね、速水くん」


「お久しぶりです来栖さん。俺に何か用ですか?」


「いえ、速水くんをお見かけしたので少しお声がけしてみただけです。速水くんは今からお昼ですか?」


「ええ、まぁ……今日は一人寂しく食べようかと」


「まぁ、そうなのですね……でしたら……」


 ん? 待てこの流れは……


「私も今からお昼なんです。よかったらご一緒しませんか?」


 …………………………やらかしたぁ……


『ん? 良いではないか。これは俗に言うらぶこめいべんとというやつなのだろう』


(いーやぁ! よくないよくない! 俺はラブコメするためにこの世界に来たんじゃなねぇんだよぉぉぉ!)


 とにかくここは断ろう、これ以上魔法少女と関わると俺のモブ生の危機だ!


「いや俺は———」


「どうしても、駄目ですか?」


 涙ぐんだ瞳でそう懇願され、俺の心が大きく揺れた。


「……わかりました」

 

「ふふ、速水くんならそう言ってくれると思ってましたよ。ではいきましょうか」


 まぁ、今日はルナも来ないだろうし……別にいいか……


 そうして俺達は一緒に食堂に来た。


 食堂内は友達と食べるもの、カップルの男女で食べるもので賑わっている。


 俺達は二人掛けの席を確保し、それぞれの品を受け取った。


「ここ、値段が良心的ですね。」


「そうなんですよ、生徒達には良いものを食べて育って欲しいという学校側の要望で通常よりもかなり安くなっているんです。」


 ちなみに俺が頼んだのはオムライスでノアはクリームシチューを頼んでいた。


「今日は少なめなんですね」


 てっきりこの間のラーメンくらいの量をお昼も食べるのかと思っていたので聞いてみるとなんだか慌てた様子で静かにと言うジェスチャーをする。


「が、学校では小食という設定にしたいんです……」


「なるほど、そういうことでしたか」


 流石に学校であの量を食べるのは恥ずかしいということか。案外乙女らしいところもあるんだな。


「あ、あの速水くん私が大食いだということは……」


「もちろん、秘密にしておきますね」


「そうしていただけると助かります。」


 流石の俺でも人が嫌がることはしたりはしない。


 曇らせに関しては……まぁ、あれは魔族がやっていることだし。俺はそれを見ているだけだし。


「では食べましょうか」


 二人揃って手を合わせてからいただきますと唱え、オムライスをスプーンで救い口の中へと入れる。


 流石超一流シェフを雇っている流星学院の学食。卵はトロトロでチキンライスも絶妙な味付けで最高にうまい。


『うむ、美味い! 蒼太! これ気に入ったぞ!』


 ヴォルディアが気にいるのも分かるくらい美味しいオムライスだ。


 しばらく夢中になって食べているとノアがこちらをジィッと見つめていることに気がついた。


 否、俺ではない。


 オムライスを見つめていた。


「……」


「あのぉ……来栖さん?」


「あっ!? すみません! 美味しそうに食べるな思いまして……」


 気にしないでくださいと恥ずかしそうに頬を染め目をそらす。


 もしかして……食べたかったのか?


「もしよかったら一口食べますか?」


 そう提案するとパァッと笑顔になった。


 どうやら当たりだったみたいだな。


「い、いいんですか?」


「もちろんですよ」


「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……」


 そう言って口を開け何かを待つノア。


「え、えっと来栖さん? これは……」


「分け合う時はこうして食べさせ会うのではないですか?」


 純真無垢な瞳でそう言われ俺もそれは間違いですとは言えなくなってしまった。


 俺はスプーンでオムライスをすくい恐る恐るノアに差し出す。


「ん……」


 髪を耳にかけ、艶っぽい表情をしながらノアは差し出されたスプーンを口に入れた。


「ん……美味しいです」


「そ、それはよかった……です……」


 周りからなんかすごい視線を感じる……ぬぉぉぉぉ! なんだこの空間は!


「では私からも……」


 今度は俺にスプーンを差し出すノア。


「ほら、おいしいですよ?」


「……じゃ、じゃあ……いただきます」


 差し出されたスプーンを口に入れると。


 甘いクリームシチューの味が口の中に広がる。

 が、そんな味など感じられないほどに俺は混乱した。


 なんで俺はモブのはずなのに……魔法少女とあーんしてんだよ……


「どうですか?」


「とても……美味しかった……です……」


「それはよかったです、ではもうひとくち……」


「いえ、もう大丈夫です!」


 俺は全力で断った。



 ◇



 放課後、いつも通り本拠地に集まった魔法少女達は円机を囲んでいた。


「まだ二人来ないね」


「ルナは今日は生徒会の仕事があると言っていました」


「クリスティナもまだ学校来ない……」


「私も家に行ってみたんだけど出なくて……」


 何度も連絡をしたり、家に訪れてみたフィオナだがクリスティナからの反応はなく、様子がわからない日々が続いていた。


 クリスティナは先の戦いで一番怪我が酷かった為、チーム全員が心配していた。


 クリスティナ……大丈夫だといいけど……


 その時、エレベーターの到着を告げる音が室内になった。

 それと同時にエレベーターの扉が開くと何処か虚な様子のクリスティナの姿があった。


「クリスティナ!」


 全員で駆け寄りそれぞれが言葉をかかるがその間もクリスティナは心ここにあらず、という感じだった。


「みんな……ごめん、しばらく会えなくて……」


 しばらくしてから覇気のない様子で話し始める。


 フィオナはその様子に疑問を待ったがその場では気にしないことした。


「私、少し考えてたことがあって……みんなにも……聞いて……ほしい」


 そして次の瞬間、クリスティナは信じられないことを言い出した。

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