第16話 二代目
「なぁ、聞いたか? また都内に魔族だってよ」
「ん? ああ、昨日のやつか。」
俺は屋上で珍しく聖斗と昼飯を食べながら昨日のことを振り返る。
昨日の魔族の襲撃はなかなかによかった。特にフランを人質に取られ、何もできずに自分達の無力さを感じるシーンはまさに名シーン。
そしてこの後に待ち構えている曇らせシーンも楽しみで仕方がない。
「まじやばいよな、そろそろこの世界滅びるんじゃね? なんかオメガってやつもいるらしいしな。」
「あー、らしいなニュースでやってた」
現在、俺オメガの市民からの評判は街を破壊し、都市に巨大なクレーターを作った邪神や死神、悪魔などと言われているらしく、かなり嫌われている。
……だがまぁ、正直そんなことは心底どうでもいい。例え世界中から罵声を浴びせられようが、罪を問われようが俺は変わらない。
ただ、全力で魔法少女の曇らせを拝むだけだ。
◇
放課後、鬼龍院さんによって召集された私達は円卓状の机を囲み今後についての話し合いをしていた。
「皆、まずは急な呼び掛けすまない。だが皆に今後について少し話して起きたいと思っていたんだ。」
「今後について……ですか?」
「ああ……現在、魔族の勢力は飛躍的に拡大している。それは上級魔族と戦った君達はよくわかっているだろう?」
全員揃って頷く。
あの触手の魔族以降、魔族の強さが一気に上がった。今の私達では上級魔族と呼ばれる存在に手も足も出ないのが現状だ。
もっと強くならなくちゃ……
拳を強く握りしめながらそう誓う。
私達の悔しそうな表情に気づいたのか鬼龍院さんが優しく微笑む。
「気に病むことはない、君達はまだ魔法少女になってから3ヶ月ほどしか立っていないんだ。本来なら君達の一つ前……二代目と共に魔族討伐に当たる予定だったのだが……」
そう言う鬼龍院さんの表情は暗い。
二代目魔法少女……私達、三代目魔法少女の前の魔法少女達。私も小さい頃に見たことがあるがその姿は凛々しく、そしてとてもかっこよかった。
だがある日を堺に二代目は姿を表さなくなった。それ以降は二代目ではなく初代の鬼龍院さんが魔族を討伐してきた。
ある時、私は一度だけ鬼龍院さんに聞いたことがあった。二代目魔法少女はどうしたのかと。
その時鬼龍院さんは少し話すのを躊躇うような様子を見せながらも渋々教えてくれた。
『二代目は全滅した。』
私はその言葉を聞いてとてもではないが信じられなかった。あんなに強かった魔法少女達が負けるはずないと。
その理由も聞いて見たがそれだけは話してはくれなかった。
初代の四人、と二代目の五人。
これまでに九人の魔法少女達が亡くなっているとわかってからは私は仲間を失うのが怖くて怖くてたまらなかった。
「……最近の魔族は本当に強い。以前は上級魔族もこうも続いての出現はなかった。これは異常だ……悪いことは言わない。魔法少女を辞めたければ辞めてくれ。もう私は二度と仲間や後輩を失いたくはない。」
その表情には深い後悔が見えた。
正直、魔族と戦うのが怖くないと言えば嘘になる。初めて魔族と相対して時は体の震えが止まらず、一瞬で逃げ出してしまいたい欲求に狩られた。
だが私達が逃げれば多くの人々が命を失うことになる。それだけは絶対に許してはならない。
例え、どれだけ弱くとも戦える力を持つなら戦う。
それが魔法少女だ。
「鬼龍院さん、私達は前も言った通り魔法少女を辞めるつもりはありません。これからも魔族と戦い続けます。」
「うん、ルナの言う通り! 私達は戦います!」
「私も人々の平和を守りたいですから」
「……私も」
「……そうか……なら私からはもう止めない。だがこれだけは約束してほしい……誰一人死なないこと。そしてもし、七魔帝と遭遇したら必ず逃げること。あいつらは君達が相手できるような奴らではない。」
七魔帝……それほどまでに……
先日の男は七魔帝ではなかった。
七魔帝は複数の強力な能力と高い身体能力、再生力を持っているのだという。
一体どんな強さをしているのかしら……もしかしたらオメガと同じくらいの……
「そういうことだ、今後はより一層気をつけて討伐にあたってくれ。それとクリスティナはどうなっている?」
皆の視線が空席のクリスティナの席へと視線が注がれる。
「一応連絡は入れてあるんですが……今日も学校に来ていなくて……」
あの戦いからクリスティナは学校にも来ていない。最後に会った時もどこか覇気のないような虚のような表情をしていたのを覚えている。
大丈夫かしらね……
「ふむ、クリスティナは先の戦いでの怪我が一番大きかったからな。まだ回復しかっていないのかもしれないな。だが無理しない程度に学校には行くようにと伝えておいてくれ。」
「わかりました。」
「先程も言ったように無理はするな。逃げたいと思ったら逃げていい。君達が手に負えない魔族が次に出た際は———私が直接相手をしよう。」
そんな心強い言葉を私達にかけて鬼龍院さんは仕事に戻って行った。
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