第15話 災厄の魔剣

「オメガ、来るだろうとは思っていたぞ」


「……」


 俺は目の前の魔族の言葉を無視しながら魔族から回収したフランを回復させる。


 最初は苦しそうにしていた表情がどんどんと柔らかくなっていき少しだけ目が開いた。


「あとは任せて休むといい」


 そう告げると疲れからか、はたまた安心したのか俺の腕の中で小さな寝息をたてて眠ってしまった。


「……ルナ」


「え、ええ」


 俺はルナにフランを手渡すと魔族に向き直る。


 さて、やるか。


「なんだぁ、オメガ。魔法少女の子守かぁ? 聞いてたよりずっと大したことのないやつだな」


「ふっ、笑わせるな、外道」


「クフフ、口の不快さは本物のようだな。だが、ちょうどいい。一方的に痛ぶるのも飽きてきた所だ。」


「私とやる気か?」


「当然だろう、俺はお前を倒して『七魔帝』へとなるのだ! さぁ、剣を構えろ」


「必要ない。」


「なに?」


「必要ないと言ったのだ。貴様如きに武器を使う価値はない。」


「……面白い、後悔するなよ!」


 その瞬間魔族が空を蹴り一気に間合いを詰め、巨大な魔剣を袈裟斬りの構えを取る。


 俺はその様子をゆっくりと観察してから今振り下ろされようとしている魔剣の側面に手を添え、小さな力で押す。

  

「なっ!」


 すると魔族は体勢を崩し、慌てて俺から距離を取ろうとする。


 剣は横からの力に弱い、常識だろう。


 俺は後退する魔族の顔面に拳を打ち込んだ。


「がっ!」


 全力で殴ったことで魔族の顔の半分が抉れ、どこかの映画で見たことのあるようなグロテスクな見た目になった。


 だがそれでも即死することはなく既に頭の回復が始まっていた。


「ぐぅ……無駄だ! 俺の頭を消し飛ばそうと心臓を抉ろうとも俺は死なない!」


「そうか、なら続けよう。」


 俺は宙を蹴り一瞬奴に近づくと連撃をお見舞いする。

 魔族の体のあらゆる所に穴が空くがそれでも傷口は少しずつ塞がっていく。


 なるほど再生力が高いのか、これは魔法少女達が苦戦するはずだ。


「があっ! くっ、無駄だと言って———」


「まだ終わってないぞ?」


「っ!?」


 吹き飛んだ奴の背後に先回りした俺は奴の顔面に強烈な蹴りを入れてビルの側面へと叩きつける。


「随分と殴りがいのあるサンドバッグだな」


「くっ! 誰がぁぁ!」


 体を再生させた魔族が再び剣を構え、向かってくる。


 なんとも、なっていない構えだな。


 この魔族は自身の力に慢心してこれまで剣の練習もロクにしてこなかったのだろう。構えが素人そのもの。力だけのゴリ押しのような剣だ。


「そんな剣では私には届かない」

 

 俺はやつの刀身を正面から殴る。


 直後、魔剣は真っ二つになって折れた。


「わ、我が魔剣が……! 何故っ!」


「そんななまくらがか? くだらない……さて、そろそろ飽きてきた。終わりにしよう。そして最後に見せてやろう、真の魔剣の姿をな。」


 その瞬間、周囲に瘴気が漂う。


 空気が揺れ、空は黒い雲で覆われ、轟雷の音が鳴り響く。


 まさに災厄の前触れのような光景。


「な、なんだこれは……一体何が起こっているんだ!」


「——我が願望に答え、その姿を現せ。」


 その瞬間黒い雲が渦を巻くように周りだし、やがて中央に虚空が生まれる。


 そこから黒いモヤに包まれた細長い何かが落ち、俺の目の前で停止した。


「我が敵を穿て—————————よ。」


 そう唱えた瞬間、何かを包む黒いモヤが一気に発散され、周囲に濃い瘴気……否、死そのものが漂う。


「……どうやら貴様にはこいつの真価を発揮するまでもなかったようだな」


「な、なんだ……これは……!」


「こいつは相手を選ぶんだ、自分が相手するのに相応しいか。お前はその段階で落とされたんだよ。この程度の死に耐えられない程度ではな」


 死のに触れた瞬間、魔族は苦悶の表情を浮かべもがき出す。


「この世のあらゆる死。その全てを味わい死ぬがいい。」


「がぎ……がぐっ……た……け……」


 直後、魔族の体は塵となって消え失せ、モヤに包まれた何かもその姿を消していく。


 俺はそれだけ告げ、何処へ飛び立った。


 

 ◇



「待……て……オメガ……」


 クアドラによってビルに叩きつけられたクリスティナは何処へ飛び立とうとするオメガに手を伸ばす。


 今のを見て確信した。


 あいつは悪だ。


 あんな圧倒的な死を放つ者が味方とは到底思えない。


 動け……私が奴を……倒さないと……皆が……!


 そう強く願うが私の体はそれに反し、ビクリとも動かず全身に痛みが走る。


 私は……何故こんなにも弱い……


 悔しさに涙が溢れた時、目の前に誰かが降り立つ気配がした。


「全く、勘弁してもいたいものですね。上級魔族をこうも簡単に殺してしまうのは」


 顔をあげるとそこには男が浮いていた。


 眼鏡をかけ物腰の柔らかい笑みを浮かべる男は人を無意識に信頼させるような雰囲気をしていた。


 だがその男の額には禍々しい角が生えていた。


 魔族……そんな……まさか増援……!


 しかもこいつはさっきの魔族とは比べ物にならないくらい強い……!


「初めまして。私、七魔帝が一人セレクと申します。」


 現れた魔族は自分を七魔帝のセレクと名乗り丁寧に頭を下げた。


 七魔帝!? こいつが……!


「そんなに睨まないでください。別にあなたを殺すつもりで来たわけではありませんので」


 男は優しい口調で落ち着かせるように言うと眼鏡をクイッと上げてから話を続ける。


「我々もあの男……オメガの存在には手を焼いていましてね……どうです? 私と協力しませんか?」


「誰が……お前らなんかと……っ!!」


 こいつらと組むくらいならオメガと組んだ方が何倍も安全だ、


「ふふふ、まぁそうですよね。そう仰ると思っていました。まぁ私にとってはそんなこと関係ありませんけどね」


 そう言うと男は私に近づき私の目を覆うように手をかぶせる。


「な……にを……」


「あなたには少々、踊ってもらおうかと思いまして。ふふふ、先代の魔法少女達と同じ結末を迎えてもらうためにね……」


 手の隙間から見えるセレクの顔が嗜虐的に歪む。


「や……め———」


「ふふふ、それでは期待していますよ。雷轟の魔法少女、『雷帝』のクリスティナさん。」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 クリスティナの悲鳴は誰にも届くことはなかった。

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