第14話 人質

 魔族出現の警報を聞き、店を飛び出した私達は魔族の反応を辿りながらショッピングモール内を駆ける。


 蒼太……置いてきてしまったけれど……大丈夫かしら……ちゃんと逃げているといいのだけれど……


 途中、コーヒーショップに置いていってしまった蒼太のことが気になった。


 もし、蒼太が逃げ切れていなかったら? もしショッピングモール内に魔族が現れたら? そんな可能性が何度も頭をよぎる。

 

 ……いえ、蒼太ならきっと大丈夫、よね。

  

 そう、きっと大丈夫だ。だってあいつ逃げ足だけは早そうだもの。


「もう、こっちが休日を堪能してたってのに!」


「しょうがないよ、魔族は私達の事情なんてお構いなしだから」


 私達はショッピングモールの外に出る前に服屋に立ち寄り試着室に入るとそれぞれが唱えた。


「【絶対零度の魔法少女】」


「【雷轟の魔法少女】」


「【光輪の魔法少女】」


「【慈愛の魔法少女】」


「【創造の魔法少女】」

 

 その瞬間、私へと冷気が集約し、白色のドレスを形作っていく。


 私は『氷姫』のルナへと変身した。


「みんな、行くよ!」


 私達は試着室を飛び出し、出口へと向かう。

 出口から外に出た私達はすぐさま浮遊を発動させ反応の場所へと急ぐ。


「遅いな、クウザの作戦開始の合図はまだか……」


 しばらく飛んでいると都市の真ん中で一人何やら考えている様子の魔族を発見した。


「そこまでだよ、魔族!」


「ん? 貴様らは……!」


「魔法少女、ここに集結!」


「ちっ、来たか魔法少女。クウザの奴何を遊んでいるんだ……」


 そう呟くと気怠げに持っていた大剣を構えた。


 その剣からは膨大な瘴気が感じられる、


「みんな、気をつけて。この魔族かなり強い! それにあの剣……」


「よくわかったな、俺は上級魔族、『暗黒魔剣』、『再生』のクアドラだ。そしてこの剣は我が魔剣、ファリアスだ。」


 そう言ってクアドラは自慢げに剣先を向ける。


 二つ名が二つ? あの魔剣は何? 


 これまでに二つ名がある魔族は出会ったことがあるがそれが二つというのも『魔剣』と呼ばれる剣をまた魔族とは戦ったことがない。


 もしかして……これが『七魔帝』なの?


 鬼龍院さんから聞いたことがある。魔族の中でもより強力な者は『七魔帝』と呼ばれていると。


 それでも引くわけにはいかない!


 例え、相手がどれだけ強かろうと果敢に挑んで行くのが魔法少女だ!


「さぁ、始めようか。魔法少女よ……簡単に壊れるなよ。」


 クアドラが勢いよく剣を振るう。


 空を切り裂いたはずの剣筋は斬撃となって私達の方へと放たれる。


「みんな、マジカルシールドを!」


 私達は正面にマジカルシールドを発生させる。


 斬撃がマジカルシールドとぶつかった瞬間、ものすごい衝撃が周囲を襲う。


「くっ! すごい威力っ!」


 あの爆発を操る魔族より技の威力が強い! 


 まずいわね、このままじゃマジカルシールドが保たない……


 既にマジカルシールドには幾つものひびが入っており、時間が経つにつれそのひびの量がどんどん増えていくところから崩壊するのも時間の問題だ。


 五人で貼っているマジカルシールドなのに……!


「みんな、これは受け止められない、5秒数えてからマジカルシールドを解除して一気に散会するよ!」


 リーダーのフィオナの言葉に皆が頷く。


「5……4……3……2……1……みんな!」


 フィオナの言葉に合わせてマジカルシールドを解除し、斬撃を躱す。


「ほぉ、器用な奴らだな。ならこれはどうだ!」


 再び剣を構えると今度は何度も空を切り付けると無数の斬撃が無造作に飛んでくる。


 その一つ一つが先程の斬撃と同じ威力、直撃すれば恐らく即死。そうでなくても重傷は免れないわね……


 私は向かって来る斬撃を交わしながら徐々にクアドラとの距離を縮めていく。


「たどり着いたわよ!」


「見事だ、我が直接話相手をしてやろう。」


 私の専用武器である、氷剣フリーズを手に構え、クアドラに向かって切り掛かる。


 その瞬間互いの剣がぶつかり合い、周囲に衝撃波が発生し、大気が激しく揺れる


「はっはっは! 楽しいなぁ!」


「全然楽しくなんかないわよ……」


「そりゃあそうだ、楽しいのは常に相手を痛ぶるほうだからなぁっ!」


「くっ!」


 私はクアドラの圧倒的な力に負けそのまま吹き飛ばされる。


(……でもね、その油断があなたの敗因よ!)


 吹き飛ばされら私を満足そうに眺めていたクアドラの口から血が吹き出した。


 成功……したみたいね。


「がはっ! くっ……まさかいつの間にか間合いの内側まで近づかれていたとはな……」


「油断……大……敵……!」


「ほんと、こういうやつとはやりやすいよ」

 

 私が打ち合っているうちに背後に回り込んだフランとクリスティナが剣でクアドラの体を貫いていた。

 

「これって……」


「ええ、私達の勝ちですね。」


 後方で待機していた二人もその様子に勝利を確信していた。


「お疲れさん、君強かったよ」


「……ふふふ……はっはっは! 何を言っているんだ、貴様は。忘れたのか? 我の二つ名を……我は『再生』のクアドラ。普通の魔族が重症になるであろう傷も我にとっては擦り傷も同然だ!」


 その瞬間、二人のつけた傷が瞬時に塞がる。


「そ、そんなっ!」


「甘いんだよっ!」


 クアドラの拳がクリスティナに叩き込まれ、クリスティナはビルへと激しく打ち付けられる。


「クリスティナ……!」


「次はお前だぞ?」


「……!」


 フランは想像で様々な武器を生成し、クアドラへと投げつける。


 だがどれもまるで効いてはおらず近づかれ、お腹に拳を打ち込まれそのまま意識を失った。


「フラン!」


「おっと、動くなよ。動けばこいつの命はないぞ?」


 気絶したフランを抱えたクアドラはフランの喉元に刀身を当てながらこちらを嘲笑うような嗜虐的な笑みを浮かべる。


 まさか……フランを人質に……!


「全員武装を解除して一箇所に集まれ」


「そんなことっ!」


「俺はいいんだぞ? 今すぐコイツの首を跳ねても。」


「くっ!」


 目を合わせてお互いの意思を確認し合った私達は武器を捨て一箇所に集まる。


「よしよし、いい子だ。」


「指示通りにしたわよ! フランを解放しなさい!」


「ああ、もちろんだ。お前たちを殺したあとコイツも同じ場所に送ってやる。」


 クアドラが片方の手で剣を振るう。


 すると再び斬撃が私達に向かって飛んでくる。


 なるほど……これは私達をまとめて殺すための……!


「みんな、防御を——」


「防御しても避けてもこの女の命はないぞ?」


「……っ!」


 駄目だ……この斬撃は防御するか避けなきゃ絶対に当たる。そして直撃したら待っているのは確実な死。


 どうする……! 防御する? 避ける? でもそれじゃあフランが——


 そんな事を考えている間にも斬撃どんどん私達との距離を縮めていく。


「……」


「……」


 二人の目からは何もできない悔しさで涙が溢れていた。


 助けて……


 私の目からも涙がこぼれ落ちたその時、何処からか声が響いた。


『趣味が悪いな。』


 その瞬間、私達に向かってきていた斬撃が崩壊した。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


 直後耳を塞ぎたくなるようなクアドラの断末魔がその場に響く。


「お、お前は……!」


「あなたは……」


「我が名はオメガ。魔族よ、お前の行き着く場所は既に死と決まっている。」


 彼は深淵に響くような声でそう言った。


 オメガ……!


 そこにはフランを大切そうに抱えるオメガがいた。

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