第13話 魔族の出現

 買い物を終えた後魔法御一行様と俺はゲームセンターで遊んでいた。


「やったー! また得点!」


「むぅぅ……強い……」


 二人で遊べるタイプのゲームで普通の楽しみ方をする者たち。


「なんかどれも簡単すぎるね」


「ですね、ここの設定は甘いのでしょうか?」


 両手にいっぱいの景品を待ち、無双する者達、魔法少女達によって遊び方が全然違う。その中一人だけずっと一つの台と睨み合って何度もプレイする魔法少女がいた。

 

「そんな……計算は完璧なはずなのに……」


 クレーンゲームに計算なんてするやつ初めて見た。


「何してるんだ?」


「え? ああ、蒼太……これが何度やっても取れないのよ」


 ルナの視線の先にあったのは随分と可愛らしい熊のぬいぐるみだった。


 なるほどこれをずっと狙っていたのか……


「随分と可愛いぬいぐるみだな」


「う、うるさいわね……集中できないからどっか行ってて」


「……一回俺もやってみていいか?」


「え? いいけど……」


 俺はお金を機械に入れ、プレイを開始する。


『蒼太、手伝うか?』


(いや、いい。俺はこのタイプの機械は得意なんだ)


『ほう、ならば見せてもらうとしよう』


 昔はよくクレーンゲームでしか入手できない魔法少女のグッズの為に何回も何回もプレイしたものだな……


 そのおかげか、今ではクレーンゲームの腕はプロレベルになっていた。


 俺は慎重にアームを動かし、ぬいぐるみのタグの位置へとアームの爪を移動させ、アームを下ろす。


 すると見事タグのワッカの中にアームの爪を入れることに成功し、持ち上げられた景品はそのまま獲得口の方へと運ばれ、落とされた。


「す、すごい……まさか一発で取るなんて……」


「まぁな、ほら」


「え?」


 俺は獲得口から取り出したクマのぬいぐるみをそのままルナに手渡すと何故かとても驚いたような表情をされた。


「どうした? もしかしていらなかったか?」


「い、いえ、そんなことないわ。でもあなたがそんなことするなんて意外に思っただけよ」


「そうか?」


「そうよ」


 そこまで俺ダメな奴だと思われてたのか?


「でも———」


 ルナは大切そうにクマのぬいぐるみを抱き抱え、慈しむように微笑んだ。


「ありがとう、大切にさせてもらうわ。」


「ああ、そうしてくれ」


 

 ◇



「いやぁ遊んだね!」


「勝てなかった……」


「私も少しは楽しめたよ」


「景品取りすぎてしまいました」


 ゲームセンターを後にした俺達はおしゃれなコーヒーショップに来ていた。なんでも今日は新作の販売日ということでみんなそれを飲んでいる。


『うむ、これもまた美味いな。』


(そりゃあ結構な値段するからな)


 普段は高すぎて俺はあまり飲まないのだが今日は付き合ってくれたからと玲奈が取り出した黒いカードで俺の分も支払ってくれた。


 にしても黒いカードってすげぇな……


「玲奈のそのぬいぐるみ可愛いね! 取ったの?」


「え、ええ、まぁね」


 ルナは自慢するかのようにぬいぐるみをドヤ顔で大切に抱えている。


「ほんと、かわいいね。私にも少し触らせてよ」


「やだ」


 クリスティナがぬいぐるみに手を伸ばそうとするとルナがぬいぐるみを守るかのように更に強く抱える。


「少しくらいいいじゃん」


「嫌よ」


「玲奈のケチー」


「ええ、ケチで結構よ」


 まるで我が子のように大切に抱えるルナを見て諦めたのか自分の先に戻り、メロン味の新作ドリンクをチュウチュウと不満気な表情で吸う。


 にしてもあのぬいぐるみそんなに気に入ってくれたのか。


「それで次どこ行こっか!」


「そうですね……次は——」


 その時、ショッピングモール内に放送が響いた。


【都内にて魔族出現! 魔族出現! こちらに向かって来ています! ショッピングモール内の人達は直ちに避難してください!】


 その緊迫したような声から皆が本当に魔族が出現したと悟り、周囲の人々が一刻も早く外に出ようと走り始める。


(……ヴォルディア、これマジのやつか?)


『うむ、確かに魔族の反応があるな』


 よっしゃぁぁぁぁぉーー!!


 魔族出現きたぁぁぁーー!!


 全く、魔族くんはいつもいつも遅いんだから、こちとら待ちくたびれちまったぜ!


 俺は興奮を抑えつつとりあえずは魔法少女達の動向を観察する。


 放送を聞いた魔法少女達はお互いに(行こう!)的なアイコンタクトをとってから一成に駆け出す。


「お、おいー、みんなーどこ行くんだー」


 そんなわざとらしい言葉を発して魔法少女達が見えなくなる所まで見送ってから俺も店を出る。


 周囲は完全にパニック状態で出口を目指す人達で溢れかえっていた。


 うんうん、パニックって言ったらこうじゃなくちゃぁなぁ! 楽しくなってきた!


 俺は人混みを避けながら出口へと繋がるスタッフルームを発見しその中へ入ると禍々しいオーラを纏った鬼のような魔族と目があった。


「……」


「……」


 見てはいけない光景を目撃してしまったようでその場に気まずい空気が流れる。


「あ、なんかごめんなさい。」


「おい待て、人間」


 なかった事にして退出しようとすると魔族に呼び止められた。


「なんですか?」


「まさかショッピングモール内の人間を皆殺しにする為に待機してい所を目撃されてしまうとはな……まぁいい、死人に口無しだ。計画は変わらない。」


 そう言い魔族は巨大な剣を構える。


「我が剣で死ぬが良い」


 俺の心臓を狙った剣が肌に触れようとしたその時、ガギィッ! という金属音のような音がし、魔族の剣は弾かれた。


「なっ! 俺の剣を——」


「あーあ、せっかく見逃してやろうと思ったのに……まぁ、いいや。」


 俺は唱える。


「《 魔神化解放 》」


 黒い禍々しい瘴気が俺に纒わり、黒いローブと不気味な仮面を形成していく。


「なっ! お前はっ!」


「死人に口無し……だったか?」


「クックク、そうかまさかオメガの正体がこんな学生だったとはな……しかし甘いな、俺は上級魔族、『豪剣』のクウザ。簡単に倒せると思う———」


「お前のような雑魚に構っている時間はない。《破滅の邪眼》」


 その瞬間言葉を発するまもなく魔族の体は跡形もなく消滅した。


「待っていろ、魔法少女よ」


 俺は誰もいなくなった空間に呟き、暗闇へと歩いて行った。

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