第7話 ありがとう

 遥か上空。


 俺はそこから魔法少女達と魔族の戦いをじっと見つめていた。


「……」


『どうした蒼太、介入しないのか?』


「待て、今少し堪能している所なんだ……」


『ん? ああ、なるほどな……我も色んな奴に出会ったきたが……その中でお前が一番狂っている。クフフ、やはりお前は最高だ。』


 魔法少女たちは二人の強力な魔族と戦っている。


 そして今、ついにその決着が着いた。


 結果は魔法少女の惨敗。


 最後に残ったルナはこの世の終わりのよう表情で力なく倒れる仲間たちを見つめている。


 ああ、いい……普段は冷静でクールなルナが魔族との圧倒的力の差に絶望する表情、傷つき立ち上がれない仲間たちを見て光が失われていく瞳……全く……魔法少女は最高だぜ!


 魔法少女の曇らせをこんなにも間近で見られるなんて……本当にこの世界に来れて良かった。転生させてくれた魔法少女の神よ、ありがとう。


 しばらく余韻を楽しんでいると魔族が魔法少女にトドメを刺そうとしているのが目に入った。


「……さてと」


 魔族くんよ、君の仕事はもう終わりだ。


『終わったか?』


「ああ、介入するぞ。」


『クフフ、待っていたぞ』


 俺は地面に向かって猛スピードで落ちる。


 そして勢いよく二人の間に着地した。


「我が名はオメガ。」


 ルナと魔族の間に降り立った俺は地獄の底から響くような声でそう言った。


「やっぱり……来て……くれた……! あなたは私の……」


 俺の背後のルナが何かを呟いていたが気がしたが、俺は魔族に向き直る。


「オメガ? 誰だぁテメェは?」


 怪訝そうに魔族が尋ねる。


「知る必要はない、お前達は今から滅びるのだから。」


「……舐めた口を聞いてくれるじゃないか。貴様に我ら上位魔族の二つ名待ち、我、『瞬足』のヤニージャと『爆裂』のプロジオン二人を倒せると思うのか?」


 上位魔族ねぇ……それに二つ名持ちか。


 二つ名待ちというのはアニメでも見たことがある。魔族の中でも強力かつ、凶悪な能力を持つ魔族。


 だが上位魔族というのは初めて聞いたな。


(ヴォルディア、何か知ってるか?)


『普通の魔族よりも身体能力や固有能力が優れている上位種だな。人間で言う所の貴族的存在だ。上位魔族かつ二つ名持ちはなかなか強いぞ。』


(でも問題ないだろう?)


『ああ、全く持って問題ない。』


 俺もだ。全く一ミリも負ける気がしない。


「倒せないとでも思うのか?」


「っ! 如何っていられるのも今のうちだ!」


「ぶっ殺してやる!」


 二人が同時に俺に襲い掛かりプロジオンの爆風とヤニージャの瞬速の突きが俺に迫る。


 さて、じゃあ少し戦闘テストといくか。


(ヴァルディア)


『わかっておる。』


 俺はヤニージャの突きを。


 ヴォルディアはプロジオンの爆風を。


 それぞれが防ぐ。


 俺がヤニージャの瞬速の突きをいとも容易く人差し指と中指で止めるとヤニージャの表情に明らかな動揺が浮かんだ。


「な、何故!? 貴様、何故そんなことができる!」


「さぁな、私の方がお前より強いからではないか?」


「とぼけるな……貴様は何故、俺に集中しながらプロジオンの攻撃まで防ぎ、反撃までしているのだ!」


 ふと横を見ると俺に爆風を放っていたはずのプロジオンの腕が吹き飛ばされ苦悶の表情を浮かべていた。


『防御だけだと暇だったからついでに反撃しといたぞ☆』


(流石はヴォルディア、俺に出来ないことを平然とやってのけるな。憧れるよ。)


『ふっ、まぁな。それより次行くぞ。』


(ああ)


 俺達が軽く打ち合わせをしているとプロジオンのような反撃を受けることを恐れたエニージャが後退し、俺と大きく距離をとる。


「くそっ! 俺の腕がっ! 野郎……!」


「プロジオン、そんなものさっさと再生させろ!」


「———さて、次は私の番だな?」


「「っ!?」」


 二人の顔に絶望が染まる。


 いや、お前らの曇りとかほんっっといらないから。誰得だよ。


「先ずは、爆裂の奴。お前からだ。」


「く、くそがぁぁぁぁっ!!」


 やけになったプロジオンは両手から一秒間に何百回もの爆裂を俺目掛けて放つ。


 それらを俺は全て防御し徐々に距離を詰めていく。


「くそっ! こうなったらっ……!」


 爆撃をやめ、今度は逆に俺目掛けて走り出す。


「俺の最高火力でこの街諸共消し炭に——」


 自爆覚悟の捨て身技か。


 実に醜い。


「《破滅の邪眼》」


「なっ……」


 その瞬間、プロジオンの足が崩れた。


 否、足だけではない。


 全身へとひびが伝播していく。


「なっ……がっ! がっ———」


 そしてひびが割れ、全身が崩壊した。


「次はお前だぞ?」


「くっ! 化け物めっ!」


 俺に勝てないと判断したのかヤニージャが瞬速の速さで空高くへと飛ぶ。


「あの化け物から少しでも遠くへ——」


「——遅いな。」


「なっ! いつの間——」


 一瞬で奴に追いついた俺は強烈な蹴りを叩き込み地面へと落とす。


 落下後には大きなクレーターができていた。


(ヴォルディア頼む。)


『ああ、任せろ。』


 その直後、俺の背後にいくつもの漆黒の魔法陣が浮かび上がる。


『《破滅の弾丸》』


 ヴォルディアがそう唱えた瞬間、魔法陣がカッと光り、魔法陣から漆黒のエネルギー弾が放出され、ヤニージャのクレーターへと着弾していく。


 何発も何発も、漆黒の弾は地面を広く抉っていく。


 弾幕が止む頃にはヤニージャの姿は何処にもなく、そこには大きな深穴が広がっているだけだった。



 ◇




 地面に降りた俺は魔法少女達の怪我の状態を確認し、治療していく。


 フィオナは重症だったが俺が治療を行うと完全な状態へと戻っていた。


 これ、結構すごいな……もしかしたら死んでも復活させられるんじゃ——


 一瞬悪いことが脳裏に浮かぶがそれは俺の魔法少女への愛が許さなかった。


 魔法少女全員に治療をかけ終え、帰ろうとしたその時、ローブの端を誰かが掴んだ気がして振り返ると優しい笑顔をしたルナがいた。


「オメガ……」


「なんだ?」


「ありが、と……う……」


 そうお礼を告げた途端彼女は再び意識を失った。


「ああ、どういたしまして……玲奈。」


 俺は仮面を外し、それだけを優しく告げ天高く飛び上がった。











 









 




 






 




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