第4話 氷姫とのお昼

「た、橘玲奈生徒会長……」


 まさかの人物の登場に俺は思わず二度見した。


 この世のものを全て見下したような極寒の瞳に腰のあたりまで伸びた長くサラサラな美しい銀髪、そして女性の理想のようなモデル体型の美少女、魔法少女、『氷姫』のルナこと橘玲奈がそこにいた。


「私以外にここで食べる人なんているのね」


「し、失礼しました! 生徒会長のお食事場だとは知らず! 今すぐどきますので!」


 よし、孤高の生徒会長に出会ってしまってビビりまくる一般生徒A……完璧だ。


 このままの流れで早くここを立ち去ってしまおう。


「別にいいわよ、そんな気を遣わなくて。ちょうど私も今日は一人だったから一緒に食べましょ?」


 これはまずい! こんなところでルナと二人きりでお昼を食べてるところを誰かに見られようものなら俺の平穏なモブ生活が終わってしまう……!


「いや〜……恐れ多いですよ」


「……私の誘いを断るの?」


「……失礼しま〜す」


 俺は大人しく諦めルナとお昼を食べることになった。


「あなた、名前は?」


「速水蒼太です、すぐに忘れてもらって大丈夫です」


「忘れないわよ、私記憶力には自信があるもの確か貴方も私と同じ2年よね。敬語はいらないわ」


「わ、わかった……」


「ふふ、それでいいわ」


 彼女は艶っぽく微笑み、手に持っていた包みを開く。


 どうやら彼女は俺がオメガだとは全く気づいていないようだ。その点は安心だな。


「美味しそうなお弁当だな」


「これでも料理は得意なのよ」

 

「もしかして手作りなのか?」


「ええ、毎朝早起きして作っているの」


 彩りが意識されたお弁当は和食が中心で煮物や、卵焼きなどが入っていた実に美味しそうだ。


 そういえばルナは他の魔法少女達にもお弁当を作ったりしてたっけな……


「あなた……それは何?」


「ん? コンビニ弁当だが。」


「……毎日それを食べているの?」


「ああ、俺は料理ができないしな。」


 俺は料理全般が全くできない。


 なので前世の頃からコンビニ弁当やカップラーメン、スーパーのお惣菜が中心の食生活だった。


 今もそれは変わらず、こうして食べている。


「あなたね、そんな食生活だとお金も減るし、栄養面もバランスよく取れないわよ?」


「まぁでもできないものはどうしようもないだろう?」


「……そうね、あなたがどうなろうと私の知ったところではないわ。」


「ひどくない?」


 よし、これで彼女の目に俺はだらしない劣等生として写ったはず! これでもう関わることもないだろう。


「ご馳走様でした。」


「ふぅ、ごちそうさま」


 俺は飯終わりの昼寝をするためにベンチに横になった。


 陽の光が暖かくて実に心地いい。


 うん、やっぱり食後は寝ないとな……


「はぁ……あなた寝る気?」


「ああ、玲奈もどうだ?」


「遠慮しておくわ、次の授業の予習をしないといけないの。あなたも授業開始の5分前には戻りなさい。」


「はーい」


「……ところで、あなた毎日ここで食べてるの?」


「ん? ああ、基本的にな。」


「……ふーん、そう……じゃあね蒼太。」


「ん? おう。」


 なんだったんだ? 今の?



 ◇



 放課後、生徒会長として勤めを終えた私はとあるビルに向かっていた。


 ビルにつくなり、私はエレベーターに乗り込みポケットからカードを取り出し認証機にかざす。


 私達、魔法少女は基本的にその存在はトップシークレットとされている。


 そんな私達を金銭面や様々な面でサポートしてくれる団、『アルテミスグループ』初代の魔法少女達が結成した大企業で世界各国にその名は知られている。ここはグループが所有するビルの一つ。


 原則として関係者以外の立ち入りは強く禁止されていてここには中でも私達の正体を知る重要人物か、私の仲間たちしか入れない。

 

 エレベーターが魔法少女しか入れない最高階まであがり扉が開かれると私達の本拠地が現れる。


「遅かったじゃん、なんかトラブルにでも巻き込まれたのかと思ったよ。」


「私も……心配……した」


「無事来てくれたたようで何よりです。」


「ごめんなさい、少し生徒会の用事で遅れてしまって」


「ううん、全然大丈夫だよ!」


 五人の魔法少女が揃う。


 だが変身しているわけではなくみんな同じ流星学院の制服をきている。

 

 私達は基本的に学校では正体が知られるのを避けるためにあまり接触しないようにしているため今日のように集まる場合もそれぞれ別々に集まらなければならない。


「よし、全員集まったね! 始めよっか!」


 全員が席に着くなり本日の会議の本題が告げられる。


「今日の本題は先日現れた黒いローブに身を包んだ正体不明の男——『オメガ』について。今後どう対応していくか決めるよ。」


 今日の議題は私の予想通りあの男、オメガに関することだった。


「オメガねぇ……私は敵としての対処をすべきだと思う。そんな怪しいやつなんか信用できない。」


「そうですね、私も同意見です。聞いた話によれば私達を苦しめたあの魔族を瞬殺したそうじゃないですか。そんな強大な力を持つ者を野放しにしておくなんて危険すぎます。」


「私も……二人と……同意見……」


 やっぱりそうよね。あの力は強大すぎて放置しておくにはあまりにも危険極まりない。普通なら市民の平和を維持する魔法少女として少しでも害をなす可能性のあるものは排除すべき。


 ……それは、わかっている。


 でも私は彼がそんなに悪い人のようには思えなかった。


「リーダーはどうですか?」


「うーん……私としてはやっぱり敵対したくはないかな。特にまだオメガが何かをしたという事実はないしオメガの目的がわからない今はとりあえず様子見がいいんじゃないかな?」


「リーダーそれ呑気すぎない? 実害が出てからじゃ遅いよ。」


「そうですよ、私達は選ばれし力を持つ魔法少女。市民の安全を脅かす者は何者であれ排除するのが務めです。」


「二人とも……ヒートアップしすぎ……少し落ち着く。」


『創造』のフランはいつも通りやる気がないように見えてしっかりと場が壊れないように仲裁する。


 リーダーのフィオナが言えないことをズバッと言ってくれる存在はかなり重要だ。


「ご、ごめん……」


「すみません、フィオナ……」


「ううん、大丈夫。二人の意見もよくわかるから。それより実際にオメガを見たルナから話を聞きたいな。」


「わ、私?」


「うん、ルナの言葉が決定の鍵になると思うから。」


 私の言葉が……


 そう思うと心が締め付けられるような感覚になる。


 あの人は恩人だ。


 私を助けてくれたし仲間も助けてくれた。


 あの人に恩を仇で返すような真似はしたくない。


 私は———


「私はあの人は味方だと思う。」


 反対派の二人から正気を疑うような怪訝の眼差しが向けられる。


 それでも私は続けた。


「あの人は私達をあの魔族から助けてくれたんだよ? あの人、オメガがいなかったら私達は全員あそこで死んでた。」


「それは……」


「そうですね……彼が来なければ私達は全滅していた」


「……」


「……そうだね、じゃあ取り敢えずは次のオメガの出方次第ということで、みんなそれでいい?」


「うん……」


「……はい」


「異論は……ない……」


「ええ……」


 とりあえず彼が敵と判断されなかったことに私は心の中で喜んだ。


 オメガ……今度会ったらお礼、言いたいなぁ……

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