第9話

私たちは町に入った。宿を確保し、フィロスは補給品の準備に行く。

宿に残った私たち3人は、荷物からトカゲを取り出し、再びソフィアに抱きしめられる。


「一緒に来れてよかったね!」


「そうか、あいつはそんな芸当もあったんだな」


奴の首には血が付着した跡がある。いや、血ではなく塗ったもので、これは目で見分けがつかず、正門の警備員も見過ごしたということだ。

もちろん、こいつが途中で暴れてはいけないので、その前に俺たちの必死の子守唄で深く眠らせた。


いや、そういえばトカゲに子守唄って聞いてるんですか? ただ一人で寝てたんですね。


「うーん。これ、ずっと持ち歩けるんじゃないの? 外で目立たなければいいんでしょう?」


「いや、それは大変だろう。 今は一瞬だからごまかしたけど、今後もそれを気にすると行動が制限される。とても不便だ」


いつの間にかフィロスが戻ってきて答えている。ソフィアがしつこく言い募る。


「うーん。どう見ても可愛すぎる! これ、ずっと連れていたい!」


キュウ!


ソフィアがトカゲをぎゅっと抱きしめながら言う。くぅ... うらやましい奴。ピロスのほうを見ると、彼も身を震わせている。こいつもきっと私と同じことを考えているんですね?


「いや、ダメなのはダメだ。 あいつにとっても不便だろう。生息地じゃないと温度合わせも難しいし。同族もいない。元々住んでいた場所に送った方がいい」


「そうだねー。まあそれはわかってるけど...。うーん、フィロスは心が冷たすぎるわね。ちょっと嫌いになるかも」


ああ、今の発言はフィロスにはちょっと強いかな? そちらを見ると、やはり奴の表情が崩れた。あなた、グロギーの状態が表に出てしまうのは致命的だと思いませんか? チートキャラをバランス調整する感じですか?


バランス調整、か。 私はカイルを見る。フィロスが完璧な超人という感じなら、こいつは怠惰な天才という感じだ。

戦闘であれ生活であれ、やるときはきちんと、いやそれ以上のパフォーマンスでもすぐにこなすことで、熱血漢のようだがすぐに冷めるし、感情的な面でも弱いところを見せたことがない。こいつの弱点、って考えると思い当たるところがないな。

ちなみにフィロスの弱点はとりあえずソフィアですね。


うーん、なんか俺の周りにいる人たちはみんなすごいやつらなので、私はちょっと埋もれていく感じもある。いや、悲しいかというと、私も男としてたまにそんな気分になるんだけど、それよりもまず楽すぎますね。 じっとしていても全部やってくれる。 これをヒモというか、悪くない!


まあ、フィロスがこっちに戻ってこないので、今日は適当に過ごして寝ました。



「よし、出発しよう」


再整備を終え、村を出発した私たちは東の火山地帯を目指した。


「長くても一日か二日くらいだと思うが、適度に暖かいか、奴の同族がいれば逃がしてくれるだろう。そんなものとは心の中で永遠に別れを告げるのだ。未練を捨てるように」


やっぱりこのトカゲに恨み節があるんですね。


東に深く入るほど暑くなる感じだ。事前に情報共有はされており、我々も薄着で、上着を徐々に脱いでいくようにしたのだが、上着はすぐになくなってしまった。

あとは...。

カイルが先に言い出す。


「俺、上半身裸になる」


「いや、我慢しろ。ソフィアがいるだろう」


「ソフィア、ソフィアも暑いでしょ、どう?」


「な、な、何を言ってるんだよ! 私は絶対に!!」


ソフィアが両手で体を隠しながら絶叫する。でもあなた、やっぱり汗が限界じゃないですか? いや、脱げとは言わないけど。

フィロスは黙々と歩いている。


「フィロスってすごいな、文句の一つも言わないんだ」


「ああ、お前らとは違うんだろうな」


「ところで、耳って元々そんなに赤くなるのか? 暑いからか? 俺は耳は平気なんだな」


こいつ、明らかに会話を聞いてましたね。

ついに、ある場所でトカゲの群れが見えた。私たちの身長より少し大きいやつもいる。


「見つけた。こんなに暑いし、ここで送ってあげればいいんだろう?」


「待てよ、武器を出せ、好意的ではない」


奴らはすぐに私たちを取り囲み始め、何やら威嚇するような声も出し始める。あ、まあ普通はこうなりますね。

ソフィアが抱いていたトカゲを前に出す。


「ほらほら、君の友達だよ。 さあ、君もさっさと行けよ?」


しかし、トカゲの群れは警戒を解かないままだ。ソフィアの腕に抱かれていた赤ちゃんトカゲが、ぐずぐずと群れの方へ向かっていく途中。

グルルッ...グルルッ...。


鳴き声が強くなり始める。 そして奴が群れの至近距離に近づいた瞬間。


フッ!


群れの連中が口から火を噴き出す。 聞いただけで、本当にできるんですね。

不思議はともかく、さっきの火に子供が巻き込まれた。あれも耐えられる生き物なのか?

ぼーっと見ていると、カイルが炎の中に飛び込んだ。


フッ!


奴らが火を噴くのも気にせず、子トカゲがいた場所に向かう。炎の間からかろうじて見える子トカゲは、身動きが取れないようだ。


フッ!


タッ!タッ!タッ!タッ!


カイルは炎の隙間をうまく見つけながら、子トカゲに近づいていく。やがて彼が子トカゲを捕まえた。


フック!


その瞬間、カイルの手に火を吹き付ける。しかし、カイルは構わず子トカゲを抱きかかえ、再び檻の方に戻ってくる。


グルルッ...


子トカゲが遠ざかったせいか、奴らは火を噴くのをやめ、後ろに下がって消えていく。


「カイル、大丈夫? 怪我は?」


「ああ、ちょっと熱かっただけだ。見てみろ」


奴が全身を伸ばしながら言う。確かに、火傷のようなところはないようで、服もあまり焼けていない。


「手はどうだ?」


「ああ、手袋のおかげで大丈夫だった。これ、性能いいな?」


「いや、指の手袋だろう?」


彼の手をよく見ると, 手袋を2つつけていたんだけど、外側の手袋は少し焦げていた。

一体いつからもう一枚つけたんだろう。


でも、これって内側の手袋の耐熱効果って享受できるんだろうか? 念のため手袋を全部外してみたが、幸いにも手にも火傷はなかった。


「あっちを見ろ、また群れがいるぞ」


フィロスの言葉に従い視線を向けると、別のトカゲの群れが近づいているのが見えた。いや、少し違う群れだ。あれは...。小さい奴らばかりだ。子供たちか?

カイルの腕の中にいた子トカゲが、足踏みして床に落ちた後、子トカゲのいる群れへと向かい始める。カイルの群れは、威嚇したり火を出したりすることなくおとなしくしている。

ああ、そうだったのか。


「え? どうしたの? さっきと何が違うの?」


「推測だけど、たぶんある程度大きくなった子たちは大人の群れから離れる。 そういう習性なんだと思うよ」


「ああ...」


子トカゲはもう、子トカゲの群れの中に消えて見えなかった。奴らが向こう側に消えていく。

しばらくその場に立っていた我々も、すぐに村に戻り始める。


「それにしても、無事に帰れてよかったね! やり甲斐があった」


「いや、やりがいはなかった、俺たちは時間を無駄にしただけだ。得たものはない」


「まあ、フィロス君、少しはいいじゃないですか、ネガティブすぎますよ」


「それにしてもお前もすごい奴だ。よくあの状況であそこに行こうと思ったな」


ああ、改めて考えても本当に無謀な奴だ。


「いや、あいつが真ん中に挟まって動けないから、じゃあ誰か抜いてあげないとダメだな?」


そんなことを考えてすぐに走れるところがすごい。


「は、ほんとにバカじゃないんだね」


「そうか、ハハハ、しょうがないな」


ただのバカではなく、ものすごく真っ直ぐなバカだ。


「まあそれでも、トカゲ一匹の状況は少しは良くなっただろ? 満足だ!」


あらゆる逆境にもめげずにひたすら自分の道を突き進む、不屈の主人公のような奴。まあ、そんな奴がいるとしたら、たぶんこいつだ。


「でも体には気をつけろよ。お前の旅もあるだろう」


「うん、俺も冒険はしないといけないから! 気をつけるよ!」


気をつけろよ。主人公だから。



わあ!

お父さん、お母さん、この子見て!髪が金色!キラキラ光ってるみたい!目も、水色みたいに綺麗でキラキラしてる!私より背が高い!

ううっ...。あの子と仲良くなりたいけど、他の子ともいつも遊んでいるみたいだし、どうしたらいいのかな?

...あ!プレゼントをあげよう!あの子に似合うものを『準備』しよう!


「ほら...」


「うん?」


私はその子の家の庭に入り、ぐずぐずしている。やがて勇気を出して言う。


「これ!」


私は持ってきた手袋を不意に差し出す。


「...うーん...これ、私にあげるの?」


彼は私を見ずに手袋を見ながらつぶやくように答えます。


「うん!」


「うーん...。ここの手の甲にあるのは何?」


彼がまだ力なくつぶやく。


「星だよ!」


「星? なんで? かっこいいから?」


「君が、主人公だから! 主人公は星のように輝くんだ! だから手袋もそんな手袋が似合うんだよ!」


「主人公? 私? 褒めてくれるのはありがたいけど...。どうして?」


「え? それは、それは...」


私は答えを考え、ようやく思いついたことを全て口にする。


「金髪だし!目も綺麗だし!友達も多いし!本や物語の主人公が君と同じだよ!」


「うん...そうなの?ハハハ」


「うんうん、そして主人公は友達を助けたり、危険に陥った人を助けたり!そして仲間と旅に出たり、悪者と戦って勝利したり、世界を救ったり!本当にかっこいいよね!

だから私は君が好き。 一緒に旅をしたい!

私と友達になってくれない?」


あ、一人で興奮して喋りすぎた。 もしかして飽きないかな?間違えたのだろうか?

彼をちらっと見上げると、彼はしばらくじっとしていた。

ようやく私に尋ねる。


「君は? 主人公になりたくないの? 君の人生の主人公は君だよ?」


「え? 主人公? 私? えっと...」


私は彼の言っていることがよくわからず、うろたえる。主人公が変わるの? 主人公がもう一人いるってこと?

うっ...。よくわからないけど、私は主人公じゃない。 だって、主人公は目の前にいるんだもん! こんなに明るく輝いている!


「うーん...。ごめん、よくわかんないけど、君が主人公なのはわかってる!こんなに明るく輝いているんだ!私は君が好き!一緒に旅をしたいんだ!ダメかな?」


私の答えを聞いて、彼はしばらく目を閉じた。

しばらくの間、彼がうめき声を上げる。

やがて彼が目を開けて私をしばらく見つめると、満面の笑みを浮かべて元気よく言う。


「おー! 行くぞ! 冒険! 君の名前は何だ?」


「私の名前はエミールよ! あなたは?」


「俺の名前はカイルだ! お前の仲間だ! よろしくな!」


私は主人公の仲間になった!最高だ!


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