第8話

地の村での日程が終了し、中央の村に戻る途中、私はふと思いついたことがあり、フィロスに尋ねる。


「そういえば、アーティファクトってなんだ?」


「アーティファクトは未知の道具で、童話に出てくるような魔法のような、現実には不可能なことができると言われているんだ」


「これって、絶対どこかの辞書みたいなところに同じようなことが書いてあるんですよね?」


「そうだ。ソフィア、これを身に着けるんだ」


フィロスが思い出したようにソフィアにネックレスを渡す。陶芸大会の賞品だった。


「え? 私に? うわぁ...。あ、綺麗だけど、二人の前ではちょっと...」


「今、俺が腕を上げている状態で、長い時間を無駄にしたくないから早く受け取れよ。 そんなことじゃなくて、護身用に貰ったんだ」


フィロスは面倒くさそうに言うが、耳が少し赤くなる。


「首を一度守ってくれると言ったはずだ。おそらくそれがこのアーティファクトの効用だろう。ここの残りの人たちはたぶん一度は大丈夫だろうし、これはフィアが身につけておけ」


「私は、少なくとも私は大丈夫じゃないと思いますよ?一回やったらもう死んでるでしょう?」


「革の鍛え方については、あとで教習させてもらおうか」


「それって、実戦練習とかどうするんですか? よく切れる刃物とかで試したりしないんですか?」


「うーん...。でも、それって別に私が蹴る必要はないですよね?」


「いや、男がネックレスしてる姿は見たくないから」


「そりゃそうだ。これ、今、私たちの中でフィア以外の着用者がいないんだね」


カイルがそれに同調する。


「うっ...!」


この雰囲気だと、私は命を守れるなら首にネックレスの束を巻いて回れるとは言い難い......!


「男だから、何でも気にするんだね。わかったよ、フィロス君、ありがとう」


「いいから早く蹴れよ。腕が痛い。」


「うーん...。フィロス君、詰めてくれる?」


「何...何...!?」


口と違い、体は従順なフィロス君は腕を震わせながら、首飾りを持った両手をピアスの頭の上から下ろし始める。これは...。明らかにフィアちゃんの頭に当たるようだ!


フィロス君の腕がソフィアの頭の真上に来た時、ソフィアがタイミングを合わせてフィロス君の腕を叩き、ネックレスを自分の首に落とす。やはりやられたくなかったのだろうか。


「ありがとう、フィル君! 大切に使うよ?」


「そ...その...そ...そうだな」


もう彼のポーカーフェイスから血が噴き出して破裂しそうで、目を開けて見るのが辛い。目をそらすと... あれ?


「あそこに何があるんだ?」


私と同じように視線を逸らしたカイルが、何かを見つけたように指である場所を指差して言う。


「何かの動物か。しゃがんでいるようだ。 とりあえず行ってみよう」


目的地の近くに到着した私たちは、しゃがんでいる動物を発見する。トカゲのような形をしている。


カイルが触ろうとすると、フィロスがカイルに言う。


「なぜ急に触ろうとするのかはわからないが、熱くないか確認しろ。これは火を使う生き物だ」


「うん? ああ、手袋をもう一枚つけてみる。残ってたかな?」


カイルが自分の荷物を漁る。うーん...あ!こういう時にちょうどいいものがある。


「カイル、これを着けろ」


カイルに陶芸大会の景品である手袋を渡す。


「ああ、ありがとう」


カイルは手袋をはめ、トカゲに触れ、抱きしめる。


「うーん...。何か様子がおかしくなってるようだが、病気か?」


「ちょっと見てみよう。うーん、これは火の村の近くに住む生き物だ。この場所では見られないだろうけど、かなり離れたところにいるんだね」


「どうして具合が悪いんだ、環境が違うから?」


「そこまではよくわからないけど、環境が違うのは確かね。温度が高いところに住む生き物だ。今、ここは私たちから見ても涼しい方だし、この生き物にとっては寒く感じるんだろうな」


「うーん、そうか、じゃあ連れて行こう。大丈夫か?


「いや、平気じゃないけど。 何でそんなことするんだ、野獣だ。放っておけ、俺達もやることがあるだろう?


「トレーニングのことですか? 行くなりそういうことしか考えてないんですね?」


「うん...。私も一緒に過ごしたいわ。 哀れだわ。フィロス君、ダメなの?」


「くっ...」


ソフィアの懇願するような視線に、フィロスは耐えられなかった。


「火の町まで直行すれば3日ほどだ。この生き物がそれまで持ちこたえられるかどうかわからない。


「切り替えが早いですね、フィル君」


「それなら、火を燃やし続ければいいんだろう?」


「いや、ついでに火の上に置くのはともかく、移動するときにずっとトーチを持ち歩くのか? ただ抱えとけ、体温で十分だろう」


「そうか、わかった」


「じゃあ出発しよう。せっかくだから早く終わらせよう」


「ねえ、みんな私の意見は聞いてないですよね? 私、私も答えたいんですけど、行くことに反対しないから?


私たちは火の町に向かって出発した。私は結局スルーされた。



それから数日、私たちは火の町へ向かって歩き、カイルはトカゲを抱っこしている。

何だかこの子にしてはよく飽きないものだ。 まあ、元々動物とは仲がいいのだろう。

カイルを見ながらあれこれ考えていると、ふと思いついたことがあり、私は口を開いた。


「手袋、改造しないの? あれは元々お前があげたものだから、好きにすればいいんだよ」


「ああ、そうか、ありがとう! じゃあ後で改造するよ!」


こいつは手袋を自分の好きなように改造するのだが、私が渡した耐熱手袋はまだ手をつけた形跡がなかったのだ。


手袋か...そういえばこいつは手袋マニアだ。いつからかは正確には覚えていないが、たぶん最初からだと思う。 本人は様々な状況や用途に合った手袋を使うことで快適になると言っているが、普通は複数の手袋を持ち歩くほどなのだろうか。 世の中には本当に変わった趣味が多いものだ。


耐熱手袋の話に戻ると、まあそのまま使っても問題ないのであればわざわざ手を加える必要はないのだが、こいつは常に手の甲に黄色い星柄のパッチを付けているのだ。似合う手袋も似合わない手袋もあり、時には奇妙なビジュアルが生まれることもあるが、それはそれで面白い。


きゅーっ...


トカゲは継続的な温熱療法に少し気がついたのか、たまにうめき声を出す。

...トカゲの鳴き声って言ったっけ?


「悪くなってないみたいでよかった! うっ...。私も抱きしめていい?」


「おう、今、居眠りしてるみたいだから、ゆっくりやれよ」。


こいつの体温は高い方だが、素肌で火傷するほどではないようで、実は手袋までは必要なかった。たぶん赤ちゃんでもこの子と同じくらい暖かいのでは?

ソフィアが慎重にトカゲを抱きしめる。こいつが不思議そうにあちこちちょこちょこ触ってみたり、撫でてみたりしていることで、ソフィアさん、やっぱりそうすると眠りから覚めないでしょうか。


幸い途中で起きることはありませんでしたが、ソフィアも危ういところまで触られたことを知ってか、すぐに抱いたままおとなしくなりました。なんか、こいつが子供を育てるときの状況がわかるような気がしますね。

こいつ、なかなか穏やかそうだ。羨ましいな~。



「あ、見える。あれが町だね」


遠くに建物が見え始めた。


「ああ、火の町だ」


「そういえばここが目的地じゃないな、どうする、入るか?」


「物資の補充も必要だし、入るんだろうけど、あのトカゲが問題だな。 さすがにペットというには無理があるし、どうしようかな」


「そういえば、こいつの生息地ってどこだっけ?」


「ここからさらに東へ、火山地帯だ。熱いものが好きなんだろう。 それがなぜ地の町の近くまで行ったのかは知らないが。 誰が母親から捕獲したのだろう」


「可哀想です! この子が可哀想です!」


フィロスが荷物を確認した後、再び言う。


「さすがに物資を補充せずにこれ以上行くのはちょっと厳しいな。村は行かなければならない。この子はちょっとここに置いておこう」


「え? ダメよ! そんなことしたら、この子また誰かに連れて行かれるでしょ! せっかくここまで来たのに!」


「いや、そんなことはあまりないと思うよ。 それに、置いておかないとどうするんだ。 僕らは物資の補充が必要だし、あれは入れない」


「とにかくダメです! かわいそうでしょう? フィロス君がこの子だと考えてみてください。一人じゃ怖いですよね?」


「いや、僕はそれとは違うけど...」


フィロス君がため息をつく音が聞こえる。


「よし、じゃあ僕の指示によく従え。まずは...」


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