第3話

次の日、私たちは進行方向に進み、かなり広い部屋があるのを発見した。


この塔の他の訪問者に聞いた通りだ。この部屋が最後で、内部には他に何も見つからず、上層階への通路などは誰も発見していない。


しばらく部屋を探索していた私は、隅っこで奇妙な石像を発見する。 私はその方に近づく。


私の目に入ったのは、奇妙な形の石像だった。今まで見たことのない不思議な生き物の形をしている。


よく見ると、その石像はまるで老賢者のようだった。穏やかで、とても知的な雰囲気を醸し出している。顔は人に似ているが、少し違う。目は半分閉じたまま、遠くを見つめているようだ。額には深い皺があり、何百年も考え込んでいるように見える。口元にはかすかに笑っているような感じがする。


姿勢は正座のように座っており、手は膝の上に置かれている。指の形が違うので何か意味がありそうだ。着ている服も石でできた服なのに、風になびくように見える。不思議だ。


片手には巻物のようなものを持ち、横には砂の入った瓶と布の瓶のような道具が置かれている。時間とか、公平さとか、そういうものを象徴しているのだろうか。


この石像を見ていると、なんとなく誰かが自分を見ているような気がする。でも怖くはない。むしろ私の心の中まで見透かされているような、そんな気がした。


なぜこの塔が「賢者の塔」と呼ばれるのか、誰も知らなかったが、この石像を見ていると、なんとなくわかるような気がした。まるで何らかの秘密を知っているような表情をしている。


私が無意識のうちに石像に触れた瞬間だった。


「うっ...!」


私は瞬間的に石像から手を離す。


「エミール、どうしたの?」


私の声を聞いたのか、ソフィアが近づいてくる。


「いや、ちょっとチクチクした」


私は再び石像に手を当ててみる。心の準備ができていたからか、チクチクするような感覚はあったが、それほど驚きはしなかった。


「この石像、触り心地が変だな。 見た目はただの石なのに」


「え? どこ?」


ソフィアが石像に触れる。


「初めて触る石ということ?」


「え? いや、ちょっとチクチクしない?」


「私はよくわからないけど...」


なんだろう、個人差がある石なのか。

その時、カイルが近づいてくるのが見える。


「ねえ、ここの石像をちょっと見ていたんだけど、あの...カイルさん?」


何だ、私の話を聞いていないようだ。カイルは憑かれたように石像に近づく。

そして、彼が石像に手を触れる。 すると...


「カイル、何をしたんだ?」


「石像に触れた」


「何だ、そうだったのか」


部屋が光り始めた。正確には、部屋の中の壁、床、天井に複雑な図形や記号が現れた。


しばらく周囲を見渡した私たち3人は、顔を合わせてすぐに分析を始めた。


「これ、幾何学的な変換の連鎖みたいだな」


カイルが壁の一部を指さす。


ソフィアが頷く。


「そうね。でも単純な回転や反転じゃない。何かの法則に基づいて変化している」


「ああ、わかった」


俺が言う。


「各変換が前の状態に依存してる。まるで生命の進化のようだ」


三人で手分けして、壁中の図形の変化パターンを解析していく。カイルが変換の法則を見出し、ソフィアがその適用順序を特定し、俺が全体の構造を把握する。


「次の変換はこうなるはずだ」


カイルが壁に触れると、予測通りの図形が現れた。


床には、複雑に絡み合った線の網目が広がっている。


「これ、単なる迷路じゃないわ」


ソフィアが言う。


「いくつかの経路が重なっている」


「そうだな」


俺が応じる。


「各線がそれぞれ異なる情報を運んでるみたいだ」


カイルが膝をつき、床をよく観察する。


「まるで神経網のようだ。情報が集約されるポイントがある」


三人で協力して、それぞれの線が運ぶ「情報」を解読し、その流れを追跡していく。カイルが個々の経路を追い、ソフィアが情報の種類を分類し、俺が全体の構造を組み立てる。


最後に、天井に浮かぶ立体的な図形のパズルに取り組む。


「これ、次元を超えた動きをしてるな」


俺が言う。


「そうね」


ソフィアが応じる。


「4次元、いや、それ以上の次元の動きを3次元に投影してるみたい」


カイルが目を細めて観察する。


「各頂点の動きに規則性がある。これを解けば...」


三人で頭を寄せ合い、高次元の動きを予測し、その投影を解読していく。カイルが各頂点の動きを追跡し、ソフィアが次元間の関係を分析し、俺が全体の構造を把握する。


最後のピースが所定の位置に収まると、部屋全体が明るく輝き、隠されていた扉が開いた。


三人は達成感に満ちた表情で顔を見合わせた。


「みんな、すごかったね」


ソフィアが笑顔で言う。


「ああ、一人じゃ解けなかっただろうな」


俺も同意する。


「チームワークの勝利だな」


カイルが付け加える。


客観的に言えば、私は二人の分析をまとめただけだ。元々頭のいい奴らで、私には時間のかかる計算も瞬時にこなす奴らだ。もともと知っていたことだが、とにかくすごい奴らだ。


何かを解決したような快感に包まれたのも束の間、突然何かが落ちるような音が聞こえる。


ドドド


石ころが落ちる音だ。そちらを見ると、石像が動き出した。最初は単なる錯覚かと思いきや、次の瞬間、石像が私に向かって突進してきた。


「危ない!"」


カイルの叫び声が響き渡った。


私は反射的に横に転がった。


フッ!


私がいた場所から威嚇するような音が聞こえた。たぶん、あの場所にいたら、肉の塊になっていただろう。


それが再び私を狙って襲いかかる。ソフィアが護身用に持っていたメイスを取り出し、奴を殴る。


ドン!


奴はかなり衝撃を受けたのか、反対方向に押された。その場で待っていたカイルが剣を振るう。


カーン!


カイルが振った剣の歯が抜ける音が聞こえる。


「やべぇ、 駄目だ!」


カイルが叫んだ。あれはかなり硬いようだ。


石像が再び私を狙った。私がかろうじて避け、カイルも同じように攻撃するが全く効かない。ソフィアのメイスも、石像の硬い体には傷一つつけられない。


石像は執拗に私を狙う。気のせいか、僕を向けるその眼差しには、古い呪いのような光が宿っているような気がした。


「なぜお前だけ?」


カイルが困惑した声で言う。私は再び動こうとしたとき、誤って足を捻挫してしまった。しまった...!


石像が再び私に向かって突進してくる。フィアが石像に襲いかかるが、石像はフィアを力任せに吹き飛ばす。


その時、カイルが私の前に飛び出し、剣で防ごうとする姿勢をとる。


「カイル避けろ!」


あれはとても硬くて速い物体だ。止められるはずがない。


カーン!


剣が弾き飛ばされる。カイルは素手で石像を掴もうとした。


...何だ?


しかし、カイルの手が届いた瞬間、驚いたことに石像の動きが止まった。


「ハッ!」


ソフィアの声が響き渡った。


いつの間にか石像の脇に近づいた彼女は、躊躇うことなく石像に襲いかかり、メイスを振り下ろした。確かにあそこまで吹き飛ばされたように見えたが、少し見間違えたのだろうか。メイスが刺さった部分が少し潰れた。影響がある!


突然、石像は光り輝く符号に覆われ、激しく震え始めた。 そして、まるで再び眠りにつくかのように光が消え、体が固まる。


ドーン!


地面に落ちる。


私たちは息を呑みながらお互いを見つめた。


「お前ら、大丈夫か?」


カイルが尋ねた。


「うん、大丈夫だ」


私が答えた。


「でも、なんだ、あれは...」


ソフィアが眉をひそめる。


「カイル、どうしてあの石像が急に止まったの?」


カイルは困惑した表情を浮かべる。


「そうだな、僕にも理由が分からない」


石像は幸いにもそれ以上動かなかった。

しばらくの間、私たちは息をつく。

わからないことが一斉に起こりすぎて、判断を下すことができない。


「少し楽になった?」


カイルが私たちに言う。私が答える。


「うん、外傷があるわけじゃないから、もう大丈夫だ」


「じゃあ、とりあえず、あの扉から中に入ろう」


「うん、このまま行くのか?」


俺が聞いた。 これは一度状況を見直すべきでは?


「あ、入り口を見ろよ」


ようやく周囲を見渡す。私たちが入ってきた入り口は... 消えた。


「...」


もう選択肢はないな。 私たちは新たな扉を通って前に進む。



ほどなくして共同が見えてきたので、私たちはそこで夜を過ごすことにした。


私とカイルは野営の準備をしている。天幕を張り、乾物を取り出し、食事の準備をする。


上着を何着か持ってきていたので、フィアは隅っこで着替える。

着替えながら私に言う。


「ひょっとして覗き見とかしてない? まあ、エミールのエチ」


「もしかして、筋肉がさらに発達したのかな?」


以前よりメイスの扱いが楽に見えたので、きっと鍛えているのだろう。私も頑張らないと...あ、肉体派じゃなくて他の方に、私絶対フィアちゃんのようには無理ですね。


ドン!


メイス赤ちゃんの頭が私の頭上を越えて反対側の壁に突き刺さる音が聞こえる。


「ぴあちゃんは体まで綺麗に発達してるのを見ると、男が陰険な目で見るのが怖いのよ...

もう鍛錬は自重してもいいかも?」


運動やめてください。扱いが大変なので。


「本当に、エミールのエチ! そんなに陰険な目で見ないでよ!」


「ハハハ」


反対側の壁に突き刺さったメイスを苦労して引き抜き、ぐずぐずと野営地の近くまで持ってくる。

とりあえずこの塔は遺跡みたいなもんだし、大事に扱ってください。ここが崩れるかもしれないし。


カイルが寝具を取り出しながら言う。


「思ったよりたいしたことなかったな。さっきの水っぽいやつを除けばね」


「あれは何かあるんでしょう?」


「あれは何だったんだろう」


「そうだね。そんな話聞いたことないな」


「どうするんだ、続ける?」


「続けるのはともかく、出る方法がわからないんだろう」


「いや、帰り道も見つけたら」


「カイルはどうだ?」


「俺はもちろん続けるよ。 探検だし」


「そうだろうな。いや、ちょっと考えてみろよ。あれはいくら考えても不自然だろう」


「俺来たよ、あれは後で適当に洗濯しないと。どうしたの?」


フィアが来た。まあ、これさえあれば大丈夫だ。 また出たらフィアが潰してくれると思うと、これほど心強いものはない。そう思えば、その物体も雑魚としか思えなくなり、全く気にならない。


「いや、明日が楽しみだなーって。 どうせ光も、出口もないんだから、今は何もできないし」


松明みたいな道具を持ってくるべきだったかとも思ったが、もう遅い。 そのために往復6日間を費やすわけにはいかないだろう。無念。


「とりあえず寝て明日考えよう。今起きていても明日に起きるのが遅くなるだけだし、大事な昼間の活動時間が遅れるだけだ」


「そうだね。じゃあおやすみなさい!」


「うん。おやすみなさい」


食事も済ませ、それぞれの寝袋に横たわり、無理やり頭を空っぽにして眠りにつく。



目を覚ます。私は横になっている。床がやや硬い。体を起こす。


まだ夜のようだ。再び目を閉じる。眠りが浅くなった。


しかし、何か... 眠れない。

少し起きていることにするか。


私は席を立ち、フィアとカイルに邪魔されないように抜け出す。


入り口をもう一度確認するために、通り過ぎた石像のあった部屋に戻る。やはり。入り口があった場所は跡形もなくきれいで、元の壁だったようだ。

石像を見る。あれ? 石像の脇腹部分の破壊痕が、なぜかさっきより大きくなっているような気がする。

しかも、位置も少し変わっていないか?


私はその部分を足で『蹴る』。


パッ!


石同士がぶつかったわけでもないのに、かなり重厚な音がする。石像は、微動だにしない。

もう少し触ってみたが、興味を失った私は再び来た通路を戻り、眠りについた。



今日は3日目...探索を始めましょうか!


...そう、3日目だし、そろそろ探検ではなく、帰還をしなければならない時期なんだけど...


食料品を整理すると、3人分で7日分くらいが残っている。


フィアがつぶやく声が聞こえてくる。


「2人だと10.5日...一人だと21日分残せる」


「普通に怖いので、心の中で考えてください。無駄に計算だけは正確で。 いや、その考えは忘れてもらえませんか? 私たちの友達でしょう?」


彼女が私をなだめる。


「エミール。エミール、大丈夫よ。 もしもの時は私とカイルの分もあげるから。私はエミルの味方だよ?」


「カイルの方は? カイルの味方はどこですか?」



幸いなことに、通路の先に上層階への階段がある。カイルが口を開く。


「ああ、上がれるんだね」


私が答える。


「そうですね、外に出ることからは遠ざかるんですね」


「悪く思うなよ。上るなら最悪落ちることもできるだろう?」


「お前の考え方は私の体では追いつけないから、もういいや」


やがて階段の終わりに到着。扉が見える。私は扉を開ける...ん?


「これ、鍵がかかっているんだけど...」


「うん?」


カイルが扉を開けてみる。開いた。


「開いてるんだな?」


「え? そうなの?」


私たちは敷居を越える。

そこには...広い草原が広がっていた。


「これって塔の中ですよね?」


そうですね、これからは何が起きてもおかしくないと考えないといけませんね。 ふと振り返ると、私たちが通った扉はいつの間にか消えている。...もう戻れないのか?

天井ではなく、空がある。壁ではなく、地平線が見える。そして...村が一つあるようだ。


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